ep10-洗礼②-
食堂に入ったカイルは、すでに席に着いている他のメンバーに迎え入れられる。
「お待たせしました。」
部屋の中央には大きめの正方形の食卓が一つ。
向かって奥にコルディオス、その左隣にプルート。
そして手前にはミアベルが腰を降ろしている。
カイルもエマに案内され、空いているミアベルとコルディオスの間の席に腰を落ち着かせる。
「おや?カイル少年は軍服のままなのか?」
コルディオスに指摘されて、カイルは自分以外が私服であることにようやく気が付く。
コルディオスは、その巨漢を隠すには程遠いタンクトップ一枚だ。
「おおかた、私服を一枚も持っていないとかだろう。」
プルートはカイルに聞こえる声で、皮肉交じりに言葉を発する。
その事実に、カイルは何も言い返せず、ただ俯くしかなかった。
「はい!はい!ならあたいが付き合うよ!服、一緒に見よ!」
ミアベルは椅子から立ち上がり、片手を上げてぴょんぴょん飛び跳ねた。
「そうですわね。明日からの作戦行動が終わって、帰還してからなら時間もありますでしょう。それまでの間は、支給される服で間に合わせてくださいませね。」
エマを先頭に、四人のメイドがワゴンを押して奥の扉から現れ、それぞれが椅子に座るメンバーのもとへと料理を配膳する。
「難しい話は後にして、まずはわたくしの自信作をとくと堪能なさいませ!」
ティナの言葉を合図に、それぞれの料理のクローシュを取り外す。
魚のムニエルをメインディッシュに、生ハムと焼き野菜のマリネ、キノコと玉ねぎのスープなど、今まで食べたどんな料理よりも豪勢な食事が並べられる。
「いつも、こんな食事を…?」
カイルは目を丸くしたまま、側にいるフリッカに問いかける。
「んなわけねぇだろ。出撃の前の食事だけ、景気づけだよ。毎回こんなことしてたら破産するっての。」
フリッカは面倒くさそうに舌打ちをするが、対面のエマに気づかれ、すぐに惚けたふりをする。
「余計な話は後にして、せっかく手塩にかけた料理なんですから、冷めないうちにお召し上がりくださいませ。」
ティナがその空気を断ち切るように、両手を鳴らす。
ティナの振る舞いを見ている限り、よほどの自信作なのだろう。
慣れないナイフとフォークを手に持ち、メインディッシュから手をつける。
「ん!」
それは言葉にならないほどの美味しさだった。
味、食感、香り、全てが一級品と言って差し支えない。
カイルは夢中になって食事を頬張る。
フリッカは、がっつくカイルを目にして、育ちが知れると嫌味を垂れていたが、今はそれを気にするつもりもなかった。
夢中で食べ進めたカイルは、ふとあることに気がつく。
「あれ?そういえばルミエナは?」
よく見ると、卓についているのは、自身とコルディオス、プルートとミアベルの四人だけだ。
「あぁ、ルミエナか。彼女は艦で食事をしてもらっている。彼女がいないと出撃準備もままならないからな。」
答えるコルディオスだったが、ホログラムとして現れていた彼女は、この場で食事をすることができないのか、それともする必要がないのか。
残念ながら今のカイルに、それを判断する術は持ち合わせていなかった。
その後、出されたレモン味のシャーベットを平らげ、食事も終わりを迎える。
「では諸君、明日からの任務もよろしく頼む。」
コルディオスの一言をもって、食事の場はお開きとなり、それぞれが後片付けや退室を始める。
「カイル少年、少しいいかな。」
カイルも他のメンバー同様に退室しようとすると、コルディオスに呼び止められる。
「明日の集合時間と場所は確認してもらえたかな?」
「はい、時間は確認しました。けど、場所は…」
先程のように案内マップがついているならまだしも、文字で指定されてもこの街で辿り着くのは、今のカイルには至難の業だ。
そもそも艦に乗る事しか記されていなかったので、場所はわからないことにすら気付いていなかった。
「そうか、なら私が直接案内するとしよう。少し早いが明日の十一時にメインホールで待ち合わせるとしよう。」
「はい、よろしくお願いします。」
では、とカイルの頭をぐしゃりと撫でて、コルディオスは場を後にする。
カイルは、新人の髪を崩すのはどこの部隊の隊長も同じなのか、とコルネリスのことを思い出しつつ、自室へと足を運ぶのだった。
「…で?」
「ん?何が?」
自室に戻ったカイルを待ち受けていたのは、ベッドの側でプカプカと浮かぶルミエナだった。
「何でここにいるのかってこと。」
「だって暇なんだもん。艦の人達は準備で忙しいって相手にしてくれないしさ?」
膨れっ面を浮かべるルミエナの顔をよく見て、カイルはある指摘をする。
「ここ、食べカスついてるよ?」
「え?嘘?」
カイルが自分の頬を指でつつくと、ルミエナは慌てて同じ場所についた食べカスを取り払う。
「やだー!」
顔を赤く染めて悶えるルミエナを前にカイルは、ちゃんとご飯は食べられたのだと、少し安心した。




