ep9-曲者揃いの第一寮④-
「フリッカ、カイル様をお部屋までご案内して差し上げてね。」
「え!あたしかよ!」
エマの指示に、フリッカは気怠げな態度をとる。
「一番年が近いんだから、仲良くなるいい機会でしょ。」
「ティー姉は黙ってて!」
そのまま顔を突き合わせて一触即発になるフリッカとティナ。
「ん。」
そこにリーネが割って入る。
ただ無言で、腰に携帯した懐中時計を突きつける。
その無言の圧は、姉のエマに負けずとも劣らずといったところだ。
「んっ!」
リーネはフリッカの顔に向かって、再度懐中時計を突きつける。
「わ、わかった、わかったってば!ごめんリー姉!」
「ん。」
リーネの圧に気圧されたフリッカは、たまらず頭を下げる。
一方のリーネは、満足そうに鼻息を高くする。
この姉妹、全員共に怒らせると面倒くさいんだなぁと、呆気にとられるカイルのもとに、頭をかきながらフリッカが近寄る。
そして、先程まで荒っぽく振る舞っていたとは思えないほどに、丁寧に指先を前で揃えて、深々と頭を下げる。
「失礼いたしましたカイル様、どうぞお部屋へご案内いたします。」
何とも器用に取り繕えるものだと感心したカイルだったが、わずかに覗いたその表情は、しっかりとカイルを睨みつけていた。
その後フリッカは、カイルを待つことなく中央の階段へと足を進めだす。
ため息をつくエマを横目に、カイルはフリッカに追いつくように駆け出す。
「何で年下が次々と入って来るんだよ、ったく…。」
階段を登りながら、フリッカはカイルにだけわざと聞こえるほどに、小声で呟く。
「言っとくけど、あたしはあんたと仲良くする気は無いからな。」
「別にかまわないよ。こっちも元々そんなつもりは無いからな。」
「んだとぉ?」
「なんだよ。」
カイルとフリッカは、お互いの額を小突き合わせ、互いに相手を睨み合う。
「フリッカ、ティナと交代しなさい。あなたにはおはなし、する必要がありそうですからね…。」
階下から話しかけるエマの、声もあるがそれ以上に、その深紅の瞳から放たれる怒気に、対象でないはずのカイルですら、背筋が凍りそうになった。
「ほ…ほら!お前のせいで!」
「はいはい、余計に怒らせる前に、さっさと交代しなさいな。」
ティナがフリッカを押しのけて、二人の間に割って入る。
「覚えてろよ…。」
フリッカは捨て台詞のように呟き睨みつけ、深いため息を吐き出しながら、ゆっくりと階段を降りていく。
その後、フリッカがエマに首根っこを掴まれて連れ去られていくのを見届けると、ティナは軽く鼻を鳴らした。
「本当にあの子は…。もっと上手にやりませんとね?」
そう言ってカイルに同意を求めるように、視線を合わせる。
それに苦笑いで返したカイルを見て、ティナはゆっくりと歩き出す。
「ありがとうございます、ティナさん。」
カイルがお礼を言うと、ティナは少しムッとした表情をする。
「敬語はいりませんわ。呼び名もティナでよろしくてよ。別にティナ様ってよんでいただいてもかまいませんけれども?」
歩きながら得意げに鼻を鳴らすティナ。
流石に冗談なのだろうと考えたカイルは、そのままティナに一つの疑問を投げかける。
「ずっと気になってたんだけど、どうして姉妹揃ってメイド家業してるの?」
「え?あぁ、それは…」
ティナは少し困ったように、前髪を指でクルクルと弄る。
「まあそれくらいは教えても問題ないですわよね…。わたくし達姉妹は、みんな孤児院で育っただけで、実の姉妹ではありませんの。」
「えっ…。」
髪を弄ったまま、視線を少し上にそらして話すティナを見て、カイルはどんな反応をすればよいのかわからなくなる。
同じ孤児院育ちとして同情をするのも違うだろうし、自分が慰めるのも間違いだろう。
「でもそこの方々のおかげで、わたくし達はこうして同じ所で仲良く生きていけるわけですから、別に同情してもらう必要もなくってよ。」
最初に受けたティナのイメージとは違う、とても柔らかな笑顔は、緊張していたカイルの心を解すのには十分だった。
「さ、着きましたわよ。ここがカイル様のお部屋となりますわ。」
そんなティナの身の上話に耳を傾けていると、いつの間にか目的の部屋の前まで来ていた。
「部屋のロックはドアノブを握れば自動で解除されますの。カイル様とわたくし達メイドのみが登録されておりますので、安心してお過ごしくださいませ。」
簡単に説明をこなしながら、ティナは扉を開けてカイルの道を作る。
そこから見える部屋は、昨晩まで泊まっていた宿泊施設とは違い、複数の部屋に分かれているようだった。
一人で使うには、もったいない部屋だ。
「さあどうぞ、お入りくださいな。」
ティナの案内を受け、カイルは中に足を踏み入れる。
「2DKってやつですわね。中には浴室もお手洗いも、キッチンもございます。生活に必要なものは揃っておりますけど、何か必要なものがありましたら、いつでもお申し付けくださいませ。」
「ありがとう、ティナ。」
カイルの砕けた返答に気をよくしたのか、また前髪を指で弄っている。
「まぁ、大浴場も食堂もございますし、食事はわたくしどもが用意いたしますわ。」
へぇ、とティナの話もそぞろに、カイルは部屋の中へと視線を巡らせた。
話を聞いてもらえていないと気づき、ティナはムッとして少し声に張りを持たせる。
「ではカイル様、ごきげんよう。」
「あ、ありがとう。これからよろしく!」
その返事を聞いたティナの顔には少し笑顔が戻る。
ティナは部屋の外で、これまでのお辞儀とは違う、スカートの裾を持った優雅なお辞儀をする。
そして扉は音もたてず、ゆっくりとティナの姿を隠していった。
扉が閉まったことを確認し、カイルは浮かれ気分で内見しようと振り返る。
「ばあ!」
振り向くと、待ってましたとばかりに、ルミエナが突然姿を現す。
「うわぁ!」
目の前に突然現れたルミエナに意表を突かれたカイルは、耐えきれずその場に尻もちをつく。
それを見てお腹を抱えて笑うルミエナに、カイルは唖然とし、言葉にならない声を絞り出す。
「勝手にお邪魔してごめんね〜?」
「え?は?どうやって?さっきまで別の部屋に…。それよりどうやって中に…?」
最早カイルは完全にパニックに陥っていた。
「私は特定の場所なら、自由に出入りできるんだ。あ、おばけじゃないよ?」
ケラケラと笑うルミエナを見て、カイルは半ば諦めることにした。
こんな立派な建物でも、結局プライバシーというものは存在しないらしかった。




