ep9-曲者揃いの第一寮③-
「は・や・く、入れ!」
エマによって開けられた扉の前で、カイルが息を飲んで躊躇していると、後ろからフリッカがカイルを押し出す。
何とか転ばないように踏みとどまると、振り返り睨みを効かせる。
後方では、フリッカがカイルに対してあっかんべーと舌を出しており、屋敷全体が揺れるほど勢い良く扉を閉める。
閉まる直前、エマの深紅の眼光がフリッカの背後で怪しく光っていた気がしたが、おそらく気のせいだろう。
「はぁ…。」
カイルはやれやれとため息をつき、ゆっくりと正面に向き直る。
「え…?」
そんなカイルの目の前、顔がぶつかりそうな距離に、少女の姿があった。
あまりのことに、カイルは叫び声を上げるでもなく、その場で固まり、目をパチクリさせることしかできなかった。
その少女もカイルの顔を覗き込み、その場から動こうともしない。
透き通るような大きな瞳で、その少女はこちらを覗き込んでいると、そう感じていたのだが、よく見ると透き通っていたのは、その身体全てなのであった。
透き通った少女は突然姿を消すと、部屋の奥に瞬間的に移動してみせる。
「んふふ♪」
そして満面の笑みをカイルに向けるのだった。
「よくきたな!!カイル少年!!」
そのとてつもない大声に、カイルは咄嗟に耳を塞ぎ目を瞑る。
目を開け前を向くと、その少女の脇には他に三人が椅子に腰掛けていた。
「さっそくだが自己紹介に移るとしよう。俺はコルディオス。第一独立艦隊の機械体部隊のリーダーをしている。歓迎するぞ!少年。」
中央に腰掛ける、今しがた大声で叫んだ、身体の全てが筋肉でできていそうな大男は、やはり大声で叫んだ。
「隊長、いつも言っているが、もう少し静かにしろ。」
その横に座る、整った容姿の銀髪の男性は、後ろで纏めた長髪をなびかせながら、コルディオスを軽くしばく。
「はぁ…。私はプルーテンドゥリウス。プルートと呼べ。」
横で叩かれた頭を擦り、文句の一つでも言いたげなコルディオスを無視して、プルートも自己紹介を行う。
「次はあたいだな!」
橙色の三つ編みを肩にかけた、元気いっぱいの少女はテーブルを勢い良く叩き、その反動で立ち上がる。
「あたいはミアベルだ!あたいは別動隊を指揮してるぞ!特別にミアベル様って呼ぶことを許可してやろう!」
ミアベルは自信満々にふんぞり返った。
「別動隊?第一、第二小隊じゃなくて?」
「そこは見てのお楽しみってことだな!」
「じゃあ最後はルミが。」
そして、透き通った少女がカイルの側に移動しながら、軽くお辞儀をする。
「第一独立艦隊の母艦である蒼玉を預かってる、ルミエナです。よろしくね。」
そして再び他のメンバーの元へフワリと移動していくルミエナ。
「以上、我らが第一独立艦隊所属の主力メンバーだ!」
それは、第二独立艦隊のメンバーと似ても似つかないが、それぞれが自信を持ってそこにいるのだと、強く感じた。
だがそれは、彼等自身の強さの表れなのだと理解すると同時に、未熟な自らという存在がこの空間に亀裂を生じさせる可能性を孕んでいるのだと、嫌でも理解させられたのだった。
「…で、君の自己紹介はないのか?」
彼等の自己紹介が終わり、静寂が空間を満たす。
その沈黙を、プルートの声が断ち切った。
自分が考えている間も、皆はカイルの自己紹介を待っているのだと、その一言でようやく気が付く。
「あ、ごめんなさい。俺はカイルです!エンヴィスの高速機動試験型に乗ってて、このたび第一独立艦隊に配属になりました。よろしくお願いします。」
カイルは咄嗟だが、丁寧に頭を下げる。
「ん?何なんだそれは?」
「え…?」
コルディオスの突然の質問に、カイルは質問の意図がわからず、返答に詰まる。
「あー…ほら、あるだろう?N型ーとか、A型ーとか。」
「あー、えっと俺のエンヴィスはN型です。」
束の間の静寂が流れる。
「つまり試作機ということか…。」
「役に立つんだろうな?」
プルートの視線は冷たかった。
責めているというより、戦力として値踏みされている。
そう感じた瞬間、カイルの背筋が強張る。
「…分かりません。でも、役に立てるように頑張ります。」
絞り出すように答えると、プルートは小さく息を吐いた。
「今はそれでいい。だが、戦場で努力目標は通用しない。」
「まあまあ!カイル少年にはこれから覚えてもらえばよかろう!」
重くなりかけた空気を、コルディオスの大声が乱暴に吹き飛ばす。
「本日は顔合わせまでだ。部屋で休み、荷物を確認しておけ。詳しい話は後ほど行う!」
「分かりました。」
カイルが頭を下げると、ルミエナがふわりと扉の前へ移動する。
「じゃあまた後でね。」
その声に合わせるように扉が開き、廊下に控えていたエマ達が一斉に頭を下げる。
部屋を後にしたカイルは、もう一度部屋の中を振り返った。
自信に満ちた四人の姿。
そこに、自分の居場所はまだない。
閉まりゆく扉の隙間から、再びルミエナが顔を覗かせる。
「あ、そうそう。たぶん出撃は明日だからね。」
扉の隙間から見えた最後の景色は、意地悪そうな笑顔で手を振るルミエナの姿だった。




