ep9-曲者揃いの第一寮②-
四人のメイドに迎え入れられ、カイルは邸宅へと足を踏み入れる。
ニ階まで吹き抜けの中央広場には赤絨毯が敷き詰められており、正面の階段は中腹の踊り場で左右に分かれて二階へと伸びている。
「ではカイル様、お部屋へご案内します。」
「ちょ、ちょっと待ってください。部屋って何のですか?」
カイルの反応が思いがけなかったのか、カイルに声をかけたメイドを含め、四人ともが目を丸くして瞬いている。
「何だ?何も知らずにここへ来たのか?」
そのうちの一人、少し小柄な女性が腕組みをして、それまでの落ち着いた雰囲気を感じない強気な態度をとる。
「まったくよ。それにこんな子供だなんて聞いてないわ。」
胸元まであるツインテールの女性は、腰に両手を当てて見下すような態度をとる。
呆気にとられるカイルを、背の高い一人が屈んで撫でる。
子供扱いされているようで、カイルは何とも言えない顔になる。
「あらあら、なら自己紹介が必要かしらね。」
その女性は立ち上がり、整列の号令をかける。
すると他の三人は、号令をかけた女性の横に指令を受けたロボットのように整列する。
「まずはわたくしから。」
高身長の女性が、スカートの端をつまんで、高貴な生まれを連想させる優雅なお辞儀をする。
「わたくし、第一独立艦隊寮においてメイド長を務めさせていただいております、長女のエマと申します。御用があれば何なりとお申し付けください。」
微笑みを崩すことなく自己紹介したエマは、目が開いているのかわからない糸目の奥に、微かな赤い瞳を覗かせた。
「ん。」
隣に立つ二人目のボブヘアーの女性が、エマの次に同様の仕草でお辞儀をする。
しかし、それだけで自己紹介らしきものは一切ない。
「あらあら恥ずかしがってる場合じゃないわよ?ごめんなさいね、この子は次女のリーネ。時間管理が主な役割よ。無口な子だけど、仲良くしてあげてね。」
横のエマが、お辞儀して目を瞑ったままのリーネの代わりに紹介をする。
ん、とだけ言って動かないのは、恥ずかしいからという認識で間違いないのだろうか。
「次はわたくしですわね!」
横の女性は、ふふん、と腰に手を当てたまま、お辞儀することなく自己紹介が始まる。
「わたくしは三女のティナと申しますの。接客全般が主な仕事ですわ、まぁ仲良くしてあげてもよろしくてよ。」
これを高飛車というのだろうか。
なぜ上から目線で自己紹介されているのかわからないが、接客担当というからには自分にもその接客をしてほしいものだと、カイルは引きつった笑いで表情に出さず誤魔化した。
「じゃあ最後はあたしだな!あたしは四女のフリッカだ!背は同じぐらいだけど、お前より年上だからな!ちゃんと、敬うんだぞ!」
最後の一人は腕を組んだまま、カイルを見下すように仰け反り大声で威張る。
「フリッカ…」
そんなフリッカを、長女のエマが静かに、しかしドスの効いた声で注意する。
ヤバいと思ったのか、口笛を吹いてとぼけたフリをするフリッカ。
「はぁ…。こんな四人ですが、精一杯、第一独立艦隊の皆様のお世話をさせていただきますので、以降、よろしくお願いいたしますわ。」
エマがお辞儀するのに合わせ、生意気な態度を取っていたフリッカを含めて丁寧なお辞儀をする。
「あ、こちらこそ、よろしくお願いします。」
カイルも合わせてお辞儀する。
「じゃなくて、お世話ってどういうこと?」
未だ状況が飲み込めないカイルは、そのやり取りに慌てふためく。
「んだよ、察し悪いな!」
癖なのかそういう性格なのか、フリッカはまた腕を組む。
「あなたは第一独立艦隊所属のパイロットになったのでしょう?なら、わたくし達が世話するこの第一独立艦隊寮に住む義務がありますのよ!このわたくしが世話してあげるんだから、ありがたく思うことね!」
ティナは、貴族のお嬢様なのかと勘違いするほどの、高笑いを披露する。
「フリッカ…ティナ…」
それを注意するエマの顔から笑顔は消え、そのうっすらと開いた目から覗く深紅の瞳が、より一層怒りのオーラを強めていた。
「ん…。」
しかしそんなやりとりを、次女のリーネが断ち切る。
そう小さく発すると同時に、リーネは奥の扉を指差している。
「あらあら、そうでしたわ。」
エマを先頭に、リーネとティナが奥の扉へ向かう。
「何してんだ、早く行くぞ!」
フリッカは、立ち尽くすカイルの腕を引いて、その後に続く。
そして、カイルが扉の前に到着したのを確認し、エマが扉を三回ノックする。
「皆様、カイル様がご到着なさいました。」
「入れ。」
その野太い返答を確認すると、エマを除く三人が扉の左右に立ち並び、エマはその隊列を確認して静かに扉を開けるのだった。




