ep8-力の重み③-
カイル機が、瓦礫の向こうに仰向けで倒れるフレンツェラ機を捉えたのと、駆け付けたシンディナ機が到着したのは、ほぼ同時だった。
『フレン!無事っすか!』
「フレンツェラさん!」
カイルが近づいて声をかけた瞬間、コックピット周辺の装甲に、乾いた衝撃が連続して走る。
「えっ?」
カイルには何が起きたか理解できなかった。
カイルからは、仰向けに倒れたフレンツェラ機。
その手元にある機関銃が、なぜかこちらを向いていること。
そして、その銃口が煙を上げていることが見えた。
『フレン…!』
シンディナ機も驚いたようにカイル機を見て、それから再びフレンツェラ機へ視線を戻す。
『カイル君、やっぱり、油断。』
フレンツェラの声だった。
フレンツェラは、無警戒で近づいたカイル機のコックピットめがけて、容赦なくペイント弾をお見舞いしていたのだ。
『フレン!ビックリさせないで欲しいっす!』
『いえーい。ボクの勝ち。』
興奮気味に声を張り上げるシンディナと、抑揚もなく喜ぶフレンツェラのやり取りを、カイルはただ呆然と聞いていることしかできなかった。
ゆっくりと立ち上がるフレンツェラ機には、レールガンの直撃を受けたような損傷は、どこにも見当たらなかった。
『フレン、よくレールガンの弾を回避できたっすね…。』
『あの武装がレールガンである事は予測できてたから。』
フレンツェラ機が、微動だにしないカイル機の方に視線を移す。
『それに、エンヴィスの操作はボクの方が詳しいから。カイル君の機体の動きはサーモセンサーで見えてた。』
『そういうことっすか…、脅かさないで欲しいっす…本当に…。』
つまり、自分が何をするのか、フレンツェラさんには読まれていたと…?
そして、自分が慌てて近づくことまで計算に入れて、吹き飛ばされた演技までしたと…?
「は…はは…。」
カイルは引きつった笑いを出すので精一杯だった。
フレンツェラが無事で安堵したことよりも、ここまで全て、フレンツェラの掌のうえで転がされていたことへの驚愕のほうが勝ってしまったのだった。
『カイル君!その武器は訓練で使うような代物じゃないっすよ。』
その強い言葉に我に返ったカイルは、ようやく今何が起きたのか理解することができた。
自分が恩人を殺しそうになったこと。
その人が無事であり、逆にやられたこと。
そして、使用した武装の危険性を。
「ご…ごめんなさい…、フレンツェラ…さん。」
カイルは何とか言葉を捻り出した。
それが、今の自分の感情も理解できぬままで、口から出せた精一杯の言葉だった。
『大丈夫。ボクは強いから。』
そう言ってフレンツェラは、エンヴィスで腕組みをしてみせる。
普段だったら、その言葉は軽口として聞き流していたかもしれない。
だが、今日限りは、今ばかりは、その裏打ちされた強さが本物であってくれて良かったと、カイルは心から感謝した。
『みんな〜、フレンちゃんの無事も分かったことだし、ちょっと休憩しな〜い?』
コックピットのスピーカーから、ペゼリアの締まりのない声が流れる。
相変わらず、今の状況には馴染まない声の主を見ると、まるで何事もなかったかのように、ネイルを気にしていた。
それを見て、カイルは複雑な気持ちになる。
ペゼリアは、フレンツェラの事が心配では無かったのか?
それが死にかけた仲間に対する態度なのか?
カイルは殺しかけた張本人である以上、ペゼリアに何も言うことができずにいた。
『ペゼリー、避けたのわかってたんすね?』
『当たり前でしょ〜?ウチが、今までどれだけ2人の事見てきたと思ってるの〜?』
『ペゼリア、少しは心配してくれてもいいよ?』
スピーカー越しに、3人の和気あいあいとしたやり取りが耳に入り、カイルは考えを改める。
心配してなかったのではない。
信頼していたのだと。
これが、本当の仲間のあり方なのだと。
『ねぇ〜、休憩しよ〜。パフェ無くなっちゃったよ〜。』
そして、この性格はどこまでいっても変わらないんだろうな…と。




