ep8-力の重み②-
『んじゃ〜次、戦闘〜開始〜!』
スピーカーから、ペゼリアの締まりのない掛け声が響く。
その場にあまりに合わないその声に、カイルはペゼリアの方を見て、思わず苦笑いする。
『油断。』
「しまった!」
その一瞬を見逃さず、フレンツェラ機は的確にカイル機を狙い撃つ。
回避する間は無いと判断したカイルは、両腕の追加装甲でそれを防ぐが、数発は直撃をもらってしまった。
とは言え、ペイント弾である以上、実際のダメージを負うことは無い。
カイルはペダルを踏み込み、エンヴィスを旋回させて大きく距離を取る。
「シンディナさんと違って、フレンツェラさんは銃撃が得意なはず…。」
カイルは前回のロンド共和国軍との戦闘を思い出していた。
シンディナ機が距離を詰めての近距離戦を得意としていたのに対し、フレンツェラ機はそれを援護する動きを見せていた。
それが普段の戦闘スタイルであるなら、懐に潜り込むことが出来れば、チャンスはあるかもしれない。
今の自分は、それができる機体に乗っている。
しかしそう考えると、先程のシンディナ機との戦闘で、相手の得意な間合いで戦ったのは失敗だったと反省する。
とは言え、今はそんなことを悔やんでいる場合では無い。
目の前の相手に集中するだけだ。
「直線的過ぎるなら、牽制を挟んで回り込めば!」
カイルは先程と戦法を変え、シンディナのアドバイス通り、左右のステップを生かしての接近を試みる。
機関砲で牽制射撃を行うが、フレンツェラ機は難なく回避し、同時に瓦礫を遮蔽物として身を隠す。
「そんなっ。」
やはり相手は有人機。
ほとんど動かない、的であるだけの無人機とは訳が違う。
そのまま遮蔽物を盾に、正確に動きを読んで射撃するフレンツェラ機に対し、カイル機は回避に徹さざるを得なかった。
どうすれば…
弾丸を避けながら周囲を見回すと、一際大きな瓦礫が目に入り、カイルはエンヴィスをその影に滑り込ませる。
そうして少し息を整える間に、どうやらフレンツェラ機の追撃は止んだようだった。
ひとまず安堵したカイルだったが、ハッと気が付く。
自分がフレンツェラ機を見失ったということに。
視界の半分は瓦礫に隠れてしまっている現状、身を乗り出して確認するしかない。
カイルは瓦礫の脇から、エンヴィスの頭部を僅かに覗かせようと一歩踏み出す。
しかし、頭部が出るよりも先に、ペイント弾が脚部周辺にばら撒かれ、慌てて足を引っ込める。
そうだ。
この機体では、圧倒的にN型よりも小回りが利かない。
一度足を止めた段階で、動き出しを狙われるのは必然だろう。
このまま回り込まれるのを待つか、一か八か飛び出すか…。
操縦桿を握る手に無意識に力が入る。
『カイル君。』
その時、スピーカーからシンディナの声が入る。
『エンヴィスは有視界戦闘しかできないわけじゃないっすよ。よく計器を確認するっすよ。』
その意見を聞いて、慌てて手元の計器に目を移すと、その中の1つが目に留まる。
「レーダーか…?」
それは自分を中心として、放射状に広がる波形を映す画面だった。
しかし、その中には瓦礫等も含まれているのか、どこにフレンツェラ機がいるのか分からなかった。
「何か無いか…!」
カイルは、レーダー画面の周囲に並ぶ、おそらく補助用であろうボタンに手を伸ばす。
そのうちの1つに触れた瞬間、周囲を映すモニターにレーダーの情報が同期され、瓦礫の向こうで身を潜めるフレンツェラ機のシルエットが露わになる。
幸いにも位置を変えることなく、おそらくこちらが飛び出すのを狙い撃つつもりだろう。
これはチャンスだ。
1つだけ、まだ試していない武装がある。
正直、威力も射程距離も何も分からず、使い所に悩んでいた武装であるが故躊躇われるが、そうも言っていられない。
カイルは、フレンツェラ機の射線に入らないよう気をつけながら、瓦礫から距離を取る。
「すぅ…ふぅ…。」
カイルは目を瞑って大きく深呼吸すると、右の操縦桿の人差し指のレバーを一度押す。
すると、正面のモニターにターゲットカーソルが表示され、それは視線に合わせて瓦礫の向こうのフレンツェラ機に合わさる。
そのカーソルの下には、【CHARGING】の文字が表示され、同じく表示されるゲージが徐々に溜まっていく。
「ん?カイル君は何を…?」
シンディナ機から見えるカイル機は、不思議な位置取りで、更にカイル機からは不気味な電子音が響き渡っていた。
訓練場にはとても似つかわしくない、心臓にまで響くような低い唸り音が。
「待つっすよ…、まさかあの武器って!」
シンディナがカイルの狙いに気が付いたとほぼ同時に、カイル機のモニターには【CHARGE COMPLETE】へ表示が切り替わった。
「行けっ!」
『カイル君!当てちゃダメっす!』
カイルはその声にハッとしたが、すでに引き金は引かれた後だった。
カイル機の右肩のレールガンからは、轟音と衝撃と共に、目に見えない程の高速の弾丸が飛び出し、目の前の瓦礫を貫通していた。
直撃してしまったのか。
逸れたのか…。
カイルから見える情報は、瓦礫の向こうでフレンツェラ機が後方に崩れ落ちるするシルエットだけだった。
そうだ…。
これは、あくまでも…。
訓練。
必死になっていたカイルは、いかに目の前の敵を倒すか、それだけに支配されていた。
その相手が、良くしてくれたフレンツェラである事を忘れるほどに。
「フレンツェラさん!」
カイルは大急ぎで、機体をフレンツェラのいた瓦礫へと移動させる。
無事であるように。
それだけを願って。




