ep8-力の重み①-
カイルはエンヴィスN型高速機動試験型に乗り込み、起動シークエンスを完了させる。
周囲のモニターに外部の映像が映り、向かいのトレーラーから立ち上がる、2機のエンヴィスN型が視界に入る。
こちらに視線を向けるエンヴィスを見て、カイルは思わず生唾を飲み込む。
訓練とはいえ、対人戦闘が初めてである以上、カイルはどうしても肩が強張ってしまっていた。
以前、二人の圧倒的な戦闘を直接目の当たりにしているのだから、当然と言えば当然だろう。
『あ、そういえばカイル君、武器ってペイント弾に換装してあるっすか?』
シンディナとカイルがそれぞれの機体を待機場から訓練場へ移動させている最中、シンディナが問いかける。
「え…?ペイント弾?」
『あー…やっぱり実弾かー…。てか、その武装用のペイント弾なんて用意されてないっすよね…。』
あー…、と髪を掻きむしりながらシンディナは一考する。
『じゃあ実弾でいいっすよ、ヴィブロ兵器も発振させないようにするんすよ。』
「は、はい!」
お前の腕で私に当てることは出来ない。
そう言われているのは嫌でも理解できたが、そもそも操縦者としては、向こうに一日の長がある。
それは否定のしようがない事実だった。
などと考えを巡らせている間に、2人は戦闘開始位置に機体を移動させ終わる。
「さて、それじゃあ私から相手するっすよ。」
「よろしくお願いします!」
『じゃあ、ウチが審判するからよろしくね〜。』
カイルがモニター越しに周囲を見回すと、待機場近くの窓からマイクを通じて喋るペゼリアを見つける。
どこから出したのか、テイクアウトしていたパフェを食べながら、手を振っていた。
相変わらずの様子を見て、カイルは思わず苦笑いしてしまった。
その姿を見るだけで、張り詰めていた緊張が少しだけ抜けていくほどだ。
『それでは〜、模擬戦闘…開始!』
ペゼリアの合図と同時に、シンディナ機が手持ちの35mm重機関銃の引き金を引く。
「うわっ!」
カイルはそれを、横跳びでかろうじて躱す。
『いいっすね。思ったよりも機敏に動けるみたいっすね。』
体勢を立て直したカイル機は、左肩の重機関砲を間髪入れずに撃ち返す。
しかし、シンディナはそれを上半身を捻るだけで簡単に回避してみせる。
『狙いは悪くないっすね。けれど…!』
そのまま反動を利用して一回転し、銃口をカイル機に向けて引き金を引きながら、一気に距離を詰める。
『さあ、どう動くっすか!』
対人戦の意味は理解していたつもりだった。
しかし、現実はそう甘くは無い。
「くそっ!」
カイルは推進器を噴射させ、シンディナ機の脇を掠めるようにしてやり過ごす。
『速っ!』
シンディナ機はその場で急制動し追撃するが、カイル機はそのまま距離を取り、勢いを殺さぬまま大回りで反転する。
「行きます!」
カイルも負けじと肩の機関砲を斉射しながら、ヴィブロストックを構えて、シンディナ機に詰め寄る。
『なるほど!確かに速いけど…。』
シンディナ機は盾で銃弾をいなしつつ、ヴィブロレピスを構える。
『動きが…直線的過ぎるっすよ!』
2機が交錯する。
しかし、シンディナ機は器用に身を翻して宙を舞い、ヴィブロレピスをカイル機の首元に引っ掛ける。
何が起こったのか、カイルには理解できぬまま、カイル機は首を支点にして宙を舞った。
ヴィブロレピスが首元に引っ掛かった瞬間、機体の進行方向だけが強引に変えられたのだ。
気が付いた時にはカイル機は仰向けに倒れており、その眼前にはシンディナ機のヴィブロレピスが突き付けられていた。
『にしし、お疲れ様っす。』
「いてて…少しも勝てる気がしないや…」
完敗だった。
機体の性能では、間違いなくこちらが上だろう。
つまり、完全に腕の差だ。
『なかなか面白かったっすよ。』
「ありがとうございました。」
カイルは何とか機体を起き上がらせる。
各種センサーやモニターをチェックする限り、機体の動作には何の問題も無さそうだ。
『動きは良かったっすよ。けど、愚直に勢いに任せて突撃するだけでは、相手に反撃のチャンスを与えるだけっす。左右の動きを織り交ぜる事ができれば、もっと良くなるっすよ。』
通信越しにシンディナがカイルにアドバイスを飛ばす。
「はい!」
カイルの心中は悔しさで溢れていた。
一撃。
実戦であれば、たった一撃で死んでいたかもしれないのだから。
せっかくエウレリアが与えてくれたチャンスなのだから、その好意を無下にはできない。
カイルは無意識に、奥歯を噛み締めていた。
とは言え、これがまだ始まりに過ぎない事は、カイル自身も理解していた。
『次、ボクの相手。できる?』
「はい、お願いします!」
シンディナ機と入れ替わりで、フレンツェラ機が訓練場に足を踏み入れる。
カイルは、次のフレンツェラ戦に向けて、機体の体勢を立て直した。




