ep7-失敗作④-
カイルがエンヴィス高速機動試験型を受け取ってから、3度目の朝を迎えていた。
今朝も訓練の許可を得るため、エウレリアを訪ねたのだが、連日の稼働を見かねたエウレリアに、息抜きの必要性を淡々と語られる始末だった。
やむを得ず、カイルは久々の休暇を堪能する事にしたのだ。
この街については金髪3人娘の案内で、大まかな全体像は理解できた。
とは言え、あそこに行きたい、ここに行きたい、というような場所は一切持ち合わせていない。
そうしてぶらぶらと、当てもなく街を歩き続けた結果、目の前には先日訪れたカフェでくつろぐ、ペゼリア、フレンツェラ、シンディナの3人というわけだ。
「そういやカイル君、何か特訓してるって聞いたっすけど?」
四人は以前と同じテラス席に腰掛け、テーブルには見覚えのある品々が並んでいた。
相変わらずよく食べるペゼリアに感心していると、自らのパフェを頬張っていたシンディナが問いかけてきた。
「はい。試作機なんですけど、普通のエンヴィスより扱いが難しくて…。」
カイルも長柄のスプーンを口に運びながら、悩ましげに答える。
そう答えている横で、フレンツェラが香辛料の固まった部分を口にしたのか、少し涙目になりつつ水を飲む。
「じゃあボク達が相手してあげる。」
目を真っ赤にしたまま、フレンツェラがパフェの粉のかかっていない部分を口に放り込む。
「え?いいんですか?」
「ウチらも今のところ、次の出撃要請はないからね〜。」
暇で暇で、と手をパタパタ振りながら、ペゼリアが少し困ったような笑顔を向けている。
「ありがとうございます!」
軍人が暇なのは、良いことなのではないか。
そう思ったが、口に出すのは野暮というものだろう。
「じゃあ食べ終わったら、早速やるっすよ!」
「お願いします!」
シンディナとカイルは、意気揚々と立ち上がり熱い握手を交わす。
「じゃあ観戦用に…店員さ〜ん、チョコレートパフェ2つテイクアウトで〜!」
そんな2人の横で、目を真っ赤にしたままパフェを口に運ぶフレンツェラと、我が道を行くペゼリア。
この光景にもすぐに慣れるんだろうか、と考えるカイルだが、その時には今日を休養日にする必要があった事など、すでに頭の片隅にも存在しなかった。
それからしばらくして、カイルは整備士に依頼し、訓練場にエンヴィス高速機動試験型を運び込んでいた。
運転してくれた整備士にお礼を言い、トレーラーから降りると、トレーラーの荷台で片膝をつく自らのエンヴィスを見上げる。
外壁の隙間から差し込む日差しが、青空を背に片膝をつくエンヴィスを眩く照らし出していた。
カイルがその姿を見上げていると、昇降機の扉が開き、2機のエンヴィスが長尺トレーラーで訓練場へと持ち込まれる。
「カイル君、お待たせしたっす!」
「皆さん、わざわざありがとうございます。」
助手席側からシンディナとフレンツェラが降車した後、トレーラーのエンジンが止まり、運転席からペゼリアが飛び降りる。
ペゼリアさんは大型トレーラーの運転までできるのか…、実は機械体の操縦もできると言われても不思議では無いな、とカイルは感心する。
「ごめん。ボク達のエンヴィスは整備中。」
「そ、だから訓練用のエンヴィスを借りてきたっすよ。」
視線を上げるとそこにあったのは、確かに彼女らのエンヴィスでは無い。
ほとんど全身が真っ白のN型、肩にそれぞれ赤と緑の灯火が付いている。
訓練用らしく装甲には細かな補修跡が残り、実戦機ほどの威圧感はない。
それでも、完全な量産型を目の前にすると、カイルの試作機の異形さは一層際立って見えた。
「で、それが試作機?」
「はい、エンヴィスN型の高速機動試験型って言うらしいです。」
3人がカイルの背後に鎮座する、エンヴィスN型高速機動試験型に視線を移す。
「脚部が随分重そうっすね。私の乗り方には合わなそうっす。」
シンディナが、ほとんどN型の上半身と、異形の下半身を交互に見る。
「バランスがチグハグ…。開発コンセプトがわからない…。」
フレンツェラは両肩の武装や、脛部の推進機、滑走板等をまじまじと見つめて呟く。
「何か…禍々しいデザインだね〜。」
ペゼリアだけは、純粋に笑顔で見た目の感想を口にしていた。
「そう…かな?」
カイルのエンヴィスを見て、あれやこれやと騒いでいる3人をよそに、カイルは改めて自らのエンヴィスを見上げた。
「禍々しい」と言われ、カイルはなぜか自分のことを悪く言われたような気分になった。
「何はともあれ、実戦あるのみっすよ!行くっすよ、カイル君!」
「はい!」
その掛け声を合図に、3人はそれぞれの機体へと駆け出した。
「ウチは応援してるね〜。」
ペゼリアはテイクアウトしたパフェを掲げながら、当然のように安全区域へ歩いていった。
カイルは自らの機体を見上げる。
廃棄寸前のディダとは違う。
今度の相手は、実戦を知る二人だ。
それでも、不思議と恐怖はなかった。
胸の奥にあるのは、自分とこの機体がどこまで通用するのか確かめたいという、抑えきれない期待だけだった。




