ep7-失敗作②-
2人は未だ眠るエンヴィスを、トレーラーでメインシャフトエレベーターに乗せて移動していた。
しかし、そこに至る僅かな時間だけでも、カイルには驚きの連続であった。
この機体を運び出すに当たり、トレーラーやクレーンオペレーターの手配等、エウレリアが前もって指示したのかと思ったのだが、どうにもそうでは無かったらしい。
自動だった。
いつの間にか表に停まっていたトレーラーは、完全に無人で動いており、エンヴィスをトレーラーに運び入れるクレーン操作も、エウレリアが指示する事なく完全自動で行われた。
そして速やかにトレーラーの運転席と助手席に乗り込んだ2人だが、結局昇降機が目的地に到着するまで、ただの一度も直接操作する事は無かった。
やがて昇降機は静かにその動きを止め、ゆっくりと開く扉からは、青々とした草原が姿を現す。
その周囲は草木を纏った瓦礫で覆い囲われており、どこを見てもその瓦礫から外に出る隙間は見受けられない。
「…地上?」
カイルは微速前進するトレーラーの窓から身を乗り出し、地下とは違う複雑な香り漂う風をその身で感じつつ、振り返った先にあると思われたメインシャフトは存在しない。
それはここが第零階層である事を示していた。
熱を発する太陽は天高く昇り、影は足元に僅かに落ちるのみだった。
「では、エンヴィスの起動準備をしましょう」
エウレリアは軽やかにその身を翻し、荷台で片膝を付くエンヴィスへと足を進める。
遅れて助手席から降りたカイルも、エウレリアに続いてコックピットに向かう。
「ここって、地上…だよね?大丈夫なの?」
「周りへの被害についてであれば、基本的に考慮する必要はありません。敵襲の心配についても、この街にいる限り、視覚的にも電子的にも捕捉されることはありませんので、ご心配なく。」
コックピットに乗り込んで、戸惑うこと無く起動シークエンスを行うエウレリアは、カイルの方を一瞥する事も無く、その作業をこなしていく。
その様子を手摺越しに見るカイルは、感心すると共にコックピットの中を覗き込む。
見える範囲では、エンヴィスN型のコックピットと違いは見つからない。
なら基本的な操作は問題無いか、と考えるカイルをよそに、エンヴィスN型高速機動試験型の背部に備えられたオルビス機関が、低い鼓動のような唸りを上げる。
「起動シークエンスは完了しました。」
それだけ言うと、カイルとすれ違い地上に足を下ろすエウレリア。
座席に乗り込んだカイルが、シートをコックピッ内に格納すると、コックピットハッチを閉じた。
前に乗ったN型よりもシートが馴染む。
どうやら低身長用のシートに変更されているらしく、レバーもペダルも、余裕を持って操作出来る位置にあった。
これは自分用に換装されているのか、はたまた元々エウレリア用に用意されたのか。
何はともあれ、ありがたい限りだ。
手足の操作感を確かめて見上げると、オンラインになった各種モニターに周囲の景色が表示され、昇降機横に移動したエウレリアが、備え付けの無線機を手に取っているのが映る。
『調子はいかがですか。』
エウレリアの問いかけに、カイルは改めてモニターや計器類に視線を巡らせる。
パッと見た感じだと、数個の計器が追加されている程度で、それ以外にはN型と差は無いようだった。
だが、基礎となるエンヴィスN型ですら、計器類の扱い方を完璧には理解していないのに、マニュアルも無い本機に追加された物が何を示すのか、理解できるはずも無かった。
「良いのか悪いのか、よくわかんないんだけど…、たぶん大丈夫。」
『それは何よりです。では、習うより慣れろですから、早速模擬戦闘を始めましょう。』
エウレリアの合図と共に、木々や瓦礫の影からボロボロの機械体が姿を見せる。
頭部の無い機体や片腕の欠損した個体。
武器もろくに装備しているようには見えなかった。
『敵機はBP-AA01Bディダ3機を仮想敵とします。オートパイロットで動く鈍重な無人機ですが、元々廃棄予定ですので破壊して構いません。』
言われた通り鈍い動き、と言うよりは動いているのが不思議なほどぎこちなく、関節は悲鳴に似た軋み音を奏で、滲み流れるオイルは、機体の涙のように感じてしまう。
『終わらせてくれ』
その機械体達からはそう聞こえた気がした。
「了解、行きます!」
一度呼吸を整えて、その不気味な思考を振り祓い、意を決して操縦桿を握り込む。
瞳に光を宿したエンヴィス高速機動試験型は、その鈍重な足で第一歩を、大地の感触を確かめるように踏み出した。




