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TeX.Hacker  作者: 融暖
第1章
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23/29

ep6-稚拙な翼①-

挿絵(By みてみん)

「ローグ・ベグルには、このウェストシャフトのエレベーターを含めて、各階層の行き来に、いくつかの移動手段があるっすよ。」



カイルは三人に連れられて、ローグ・ベグルの西方に位置する巨大な柱、ウェストシャフトのエレベーター入口に来ていた。


先程移動に使用したメインシャフトと比べると、些か細いのだとは思うが、それでも近くで見上げると圧巻なものである。


とはいえ、この地下都市を支えるのが東西南北と中央の5本の柱であると考えると、これでもかなり細い造りなのでは無いかとさえ考えてしまう。


天を貫くように伸びるそれは、建造物というより、地下都市全体を貫く5本の骨のようにも見える。



ウェストシャフトには大小様々な入口が設けられており、その中でも最大のものは全高、全幅共に三十メートルはあるだろうか。


おそらく橄欖のような艦船用だ。


その巨大な入口の脇に、人間用と思われる比較的小さな扉がいくつか並んでいる。


比較的小さな、とはいえ、ベクレルの建物であれば玄関どころか大広間の入口と呼んでも差し支えないほどの大きさだ。


四人はそのうちの一つ、無人の人間用エレベーターに足を踏み入れた。


中は想像していたよりも広く、床も壁も滑らかな金属でできている。


だが王の部屋へ向かう時に感じたような冷たさや不気味さはなく、むしろ丁寧に整えられた公共設備という印象を受けた。


人が歩いてもまったく揺れることのない床は、それだけでこの国の技術力が優れている証拠となるだろう。



「とりあえず第零階層まで上がって、その後下りながら景色を見て説明。それでいい?」


最後に乗り込んだフレンツェラが脇にあるボタンを操作すると、入口の扉が静かに、しかし素早く道を閉ざす。


「零? 一が一番上じゃないんですか?」

「そう思うよね〜。けどエレベーターは地上まで行けるから。そこが零階層って計算なんだよ〜。」

「なるほど。」


何故か自慢げにフフンと鼻を鳴らすペゼリアに、思わず苦笑した。


「とりあえず、移動する。」


フレンツェラがそう言うと、エレベーターはほとんど振動もなく上昇を始めた。



しかし、カイルの視界に広がったのは、期待していた景色ではなかった。


「……あれ? 外が見えるんじゃ……。」


カイルは周囲の壁に目を向ける。

窓らしいものはない。


先程までは確かに外の景色を見ながらこの街の構造を把握できるものだと思っていたのだが、今見えているのは無機質な壁だけだった。


「にしし……先に見えたらつまらないじゃん? 実は壁面はスクリーンになってて、外の映像を映す仕組みなんだよね〜。」


ペゼリアは悪戯が成功した子供のように笑う。


「とりあえず地上から順を追って説明するっすよ。」


シンディナがそう言うのとほぼ同時に、エレベーターの動きが静かに止まった。



「とうちゃ〜く。ここが第零階層、いわゆる地上で〜す!」


ペゼリアが大げさに両手を広げる。


その瞬間、開いた扉から爽やかな風が吹き付ける。


「これが……。」


そこに現れたのは、先程見た旧王都べクラールの荒れ果てた地上だった。


崩れた石壁。

草木に呑まれた街路。


かつて人の暮らしがあったはずの場所には、今は沈黙と緑だけが広がっている。


地下都市の活気を見た後だからこそ、その地上の空虚さは一層際立って見えた。


しかし主を失った土地だからこそ、ここの空気はこの国の中でもひときわ美味しいのだろう。


「何で地上を復興しないか疑問っすか?」


シンディナに問われ、カイルは小さく頷く。


「ここは元々王都べクラールだった場所。ここを復興したら真っ先に狙われる。」


フレンツェラは空を見つめながら、淡々と答える。


「なるほど……だけど元王都なら、余計に防衛する必要があるんじゃ……。」


「確かにここは狙われやすい。ロンド共和国、ワッグル軍事帝国、両方の斥候が度々来る。」


「だから、あえての地下っすよ。地上だと守るべき所が多くなるっすから。私たちの軍隊は決して多く無いっすからね。」


シンディナの言葉に、カイルは再び地上の景色を見る。


崩壊した王都を放置しているのではない。


あえて放置している。


守るべきものを地下に押し込めるために。


そう考えると、今自分が立っているこの場所の意味が少しだけ変わって見えた。


しかし視界の端に、その景色を背景に自撮りするペゼリアの姿が映る。


この感動も台無しだと、カイルは苦笑するしかなかった。


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