ep5-地下都市の光③-
窓から差し込む陽の光が、少し傾いたのかカイルの顔を照らし出す。
それを受けたカイルは、ベッド上でハッと目を覚ます。
寝るつもりは無かったのだが、どうやら寝かしつけられてしまったようだ。
これまでの疲労や、このベッドが持つ魔性の包心地によるものだろう。
気を張り続けていた反動が、一気に押し寄せたのかもしれない。
再度微睡みに呑まれそうな頭を無理矢理叩き起こして仰向けになり、今日までの出来事と現状を再確認する。
まずは、ベクレルの街で安息の地や家族を失った事。
改めて思い出すと、あの時の恐怖と絶望が鮮明に脳裏に浮かぶ。
そして、その後に自分を助けてくれた第二独立艦隊の皆、そして不思議な少女、エウレリア。
その後の戦闘での無力感に、自身にもあると言われた特別な力『TeX体』と『インターフィラー』。
正直、その力の意味も使い方も分からない。
なぜ自分が特別だと言われるのかも。
考え出すとキリがない。
今後の事が不安で仕方が無い。
頭を掻きむしり、一息置いて意を決すると、勢いをつけてベッドから飛び起きる。
改めて窓から外を眺めるが、ここが地下である事を見抜くのは正直難しい。
円状に佇む街の、中央と四隅にそびえ立つ天を貫くまでの柱と、その街を覆うように蔓延る森林。
そして、森を囲うように存在する山脈が、外界との接続を絶っているように見えるのが、唯一の違和感なのかもしれない。
本来なら天井であるはずの空も、輝く太陽と流れる白い雲があり、天に消えるように伸びている柱が不思議なくらいだ。
外の景色や、先程までの非日常で忘れていたが、ここは地下の最先端の技術が浸透した街だ。
持ち前の技術力が遺憾無く発揮された結果が、この地下都市の存在なのだろう。
あまりにも完璧すぎて、逆にどこか現実味が薄い。
だが、いつまでも感慨に耽っているわけにもいかない。
今日の食事や着替えすら、このままだと用意する術がないのだから。
扉に向かおうと一歩踏み出そうとするが、一人で行動するという不安からか、わずかに躊躇いが生まれる。
小さく息を吐き、部屋を見渡した。
広すぎる室内は静まり返り、先程までの喧騒から、まるで自分一人だけが現実に取り残されたかのような錯覚を覚える。
「……行くか。」
自分に言い聞かせるように呟き、カイルは扉へと歩み寄る。
ドアに手をかけると、先程と同じ機械音が小さく鳴り、静かにロックが外れた。
廊下に出ると、室内とはまた違った静けさが広がっていた。
厚い絨毯が足音を吸い込み、遠くで誰かが歩いている気配すら曖昧にしか伝わってこない。
等間隔に並ぶランプの灯りが、落ち着いた色合いで廊下を照らしており、その光景はどこか現実離れして見えた。
実際には少しの時間なのだが、この空間の雰囲気と一人でいる不安のせいか、やけに長く感じられた。
ようやく廊下を抜けたカイルは、そのまま来た時と同じ階段を降りる。
手摺に触れた指先に伝わる木の温もりが、ほんのわずかに現実感を取り戻させる。
一階へ降りると、先程と変わらぬ静かな空気の中で、受付の女性がこちらに気づき、柔らかく微笑んだ。
「少し出かけてきます。」
「かしこまりました。行ってらっしゃいませ。」
このやりとりだけで、外出に関するやりとりは終わった。
自分が何処の誰か、それを確認する事もしない。
腑に落ちないところではあったが、格式高いこのホテルにおいて、このような軍服で出入りするのは自分ぐらいなのだろうと、カイルは無理矢理納得する事にした。




