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TeX.Hacker  作者: 融暖
第1章
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20/29

ep5-地下都市の光②-

活気に満ちた人々が行き交う大通りを、十五分ほど歩いた先に、ひときわ目を引く大きな建物が現れた。


石造りの重厚な外観に、磨き上げられた大きな窓。

正面には深い青の庇が張り出し、その下を出入りする人々の服装から見ても、かなり上等な宿である事がうかがえる。


宿の前だけは通りの喧騒が少し遠のき、空気すら落ち着いて感じられた。


「本日はこちらの宿を利用してください。話は通してあります。」


「ありがとう。」


カイルの言葉にエウレリアはほんの小さく頷くだけで、表情を変えない。


「それでは。」


それだけ告げると、エウレリアは踵を返し、人波の中へと消えていった。


その場に一人残されたカイルは、目の前の立派な宿を見上げ、ようやく自分が本当に知らない街へ来たのだと実感するのだった。



カイルは身なりを整え一呼吸置くと、覚悟を決めて静かに扉を開いた。


足を踏み入れた先は、果たして自分がいていい場所なのかと疑うほど整えられた空間。


磨き上げられた床は柔らかな灯りを受けて鈍く光り、壁や柱、調度品には木材がふんだんに使われている。


豪奢ではあるが嫌味はなく、全体としては落ち着いた、どこか品のある雰囲気にまとめられていた。


ほのかに漂う木の香りと静かに流れる空気が、ここが地下であることすら忘れさせるようだった。


見渡す限りでは、やはり一張羅を身につけている人がほとんどで、軍服姿の自分だけがそこから少し浮いているような気がして、カイルは思わず背筋を伸ばした。


「いらっしゃい。ご宿泊の方ですか?」


カウンターの奥にいた女性は、カイルに気づくと、すぐに満面の笑みを向けた。


その柔らかな声音に、張り詰めていた肩の力がほんの少しだけ抜ける。


「あ、はい。カイルで予約ありますか?」


「ええっと……ありました。六泊でご予約いただいておりますね。ご案内いたします。」


「お願いします。」


カウンターのすぐ脇にある、ツルを模した独特な手摺を持つ木製の階段を、受付嬢に続いてカイルは登る。


途中の壁には、どこの景色なのかわからないが、

目を引く様々な絵画が飾られている。


「こちらがお部屋となります。一階の奥に食堂がありますので、必要であればご利用くださいね。」

「ありがとうございます。」


受付嬢は、カイルのお礼を受けて一礼すると、足早に階段を下って行った。


カイルは、改めて部屋に入ろうとドアを前にして、ふと鍵を貰ってない事に気がつく。

しかし、そのドアに鍵穴は見当たらない。


鍵が無いとは、余程警備に自信があるのかと思ったが、それは早合点だったようだ。


『ピピッ、認証しました。』


ドアを握ると同時に、ドアから機械音と共に鍵が外れる音が聞こえた。


恐る恐る部屋に足を踏み入れるカイルを待っていたのは、一人で使うには明らかに過剰な広さで、視線の置き場に困るほどだった。


何がということはないが、正直スケールの違いや豪華すぎる内装で、落ち着いて休息が取れる状況とは言える気がしない。


とは言え、これまでの気疲れを癒やしたいと思うのも事実。


そう考えるとほぼ同時に、最早半分無意識の内にベッドへダイブしていた。


今までで一度も感じたことが無い、夢見心地な感覚。

身体が沈み込む感覚は、まるで抱き込まれるようで、力を抜いた瞬間にすべてを委ねてしまいそうになる。

気を抜くと、一瞬の内に意識を持っていかれそうだった。

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