ep5-地下都市の光②-
活気に満ちた人々が行き交う大通りを、十五分ほど歩いた先に、ひときわ目を引く大きな建物が現れた。
石造りの重厚な外観に、磨き上げられた大きな窓。
正面には深い青の庇が張り出し、その下を出入りする人々の服装から見ても、かなり上等な宿である事がうかがえる。
宿の前だけは通りの喧騒が少し遠のき、空気すら落ち着いて感じられた。
「本日はこちらの宿を利用してください。話は通してあります。」
「ありがとう。」
カイルの言葉にエウレリアはほんの小さく頷くだけで、表情を変えない。
「それでは。」
それだけ告げると、エウレリアは踵を返し、人波の中へと消えていった。
その場に一人残されたカイルは、目の前の立派な宿を見上げ、ようやく自分が本当に知らない街へ来たのだと実感するのだった。
カイルは身なりを整え一呼吸置くと、覚悟を決めて静かに扉を開いた。
足を踏み入れた先は、果たして自分がいていい場所なのかと疑うほど整えられた空間。
磨き上げられた床は柔らかな灯りを受けて鈍く光り、壁や柱、調度品には木材がふんだんに使われている。
豪奢ではあるが嫌味はなく、全体としては落ち着いた、どこか品のある雰囲気にまとめられていた。
ほのかに漂う木の香りと静かに流れる空気が、ここが地下であることすら忘れさせるようだった。
見渡す限りでは、やはり一張羅を身につけている人がほとんどで、軍服姿の自分だけがそこから少し浮いているような気がして、カイルは思わず背筋を伸ばした。
「いらっしゃい。ご宿泊の方ですか?」
カウンターの奥にいた女性は、カイルに気づくと、すぐに満面の笑みを向けた。
その柔らかな声音に、張り詰めていた肩の力がほんの少しだけ抜ける。
「あ、はい。カイルで予約ありますか?」
「ええっと……ありました。六泊でご予約いただいておりますね。ご案内いたします。」
「お願いします。」
カウンターのすぐ脇にある、ツルを模した独特な手摺を持つ木製の階段を、受付嬢に続いてカイルは登る。
途中の壁には、どこの景色なのかわからないが、
目を引く様々な絵画が飾られている。
「こちらがお部屋となります。一階の奥に食堂がありますので、必要であればご利用くださいね。」
「ありがとうございます。」
受付嬢は、カイルのお礼を受けて一礼すると、足早に階段を下って行った。
カイルは、改めて部屋に入ろうとドアを前にして、ふと鍵を貰ってない事に気がつく。
しかし、そのドアに鍵穴は見当たらない。
鍵が無いとは、余程警備に自信があるのかと思ったが、それは早合点だったようだ。
『ピピッ、認証しました。』
ドアを握ると同時に、ドアから機械音と共に鍵が外れる音が聞こえた。
恐る恐る部屋に足を踏み入れるカイルを待っていたのは、一人で使うには明らかに過剰な広さで、視線の置き場に困るほどだった。
何がということはないが、正直スケールの違いや豪華すぎる内装で、落ち着いて休息が取れる状況とは言える気がしない。
とは言え、これまでの気疲れを癒やしたいと思うのも事実。
そう考えるとほぼ同時に、最早半分無意識の内にベッドへダイブしていた。
今までで一度も感じたことが無い、夢見心地な感覚。
身体が沈み込む感覚は、まるで抱き込まれるようで、力を抜いた瞬間にすべてを委ねてしまいそうになる。
気を抜くと、一瞬の内に意識を持っていかれそうだった。




