ep4-眠れし街③-
「ではこちらにお願いします。」
昇降機の外は、先程までと同様の無機質な金属製の壁や床だった。
それも、先程の整備用の階層より遥かに狭く、薄暗い一本の道。
べクラールの王の住居が、この先にあるとは考えられない程の道だ。
更に歩みを続けると、厳重な三重のセキュリティゲートを通過する。
徹底的なまでのセキュリティだ。
王族に会う為には、全員がこれ程のセキュリティを通過するのが普通なのか。
今まで縁も無かったカイルにとっては、それが事実なのかそうでないのか、判断する材料などあるはずもなかった。
「もう少しです。」
エウレリアとカイルが更に足を進めると、目の前に今までとは様式の異なる厚いドアが現れ、ひとりでに開く。
それは今までのセキュリティゲートとは違い、不自然なほどあっさりと開いたと感じた。
しかしその先には、ここまでのような冷たく青白い灯りは無かった。
どこが発光部分なのかわからないほど、薄暗く弱い光が満ちている。
先を行くエウレリアに続いて、躊躇いつつもカイルは一歩を踏み出す。
中は今までと同じく金属の壁。
だがこれまでとは何か違う。
無意識に手を触れた壁は、妙に生温いとさえ感じる。
それはまるで人肌のように。
さらに、常に耳にまとわりつく不気味な唸り音。
そして、誰かに観察されているような、全身を舐め回されているような気味の悪さ。
それはまるで、捕食者の体内のごとく。
ここにいてはいけないと、全身の血の気が引いていく感覚。
息が詰まる。
鼓動が嫌に大きく響く。
正直言って、すぐにでもここから離れたかった。
しかし、これを感じているのは自分だけなのか、エウレリアは一切歩調を変えず、機械的に足を進めていく。
これからの事を考える以上、ここで一人逃げ出す事ができないのも事実だった。
「到着です。」
カイルの目に入ったのは、5メートル程の巨大な扉。
いつの間に目の前に現れたのか、そもそもここまで分かれ道があったのか。
今のカイルには、それを考える余裕すら無かった。
目の前の扉が観音開きに開いていく。
ひとりでにゆっくりと。
カイルは生唾を飲み込む。
それとほぼ同時に、開ききった扉にエウレリアが足を進める。
行くしかない。
そう理解していたカイルは、大きく深呼吸をし意を決する。
「ここが…?」
中に入ったカイルは、全く予想していなかった光景を目にする。
部屋はやけに大きいが、薄明かりだけで隅々までよく見える。
だがこの部屋は、王が座するにはあまりに場違い。
部屋中にパイプや配線が縦横無尽に張り巡らされ、奥にあるのは玉座では無く、それらが集約された機械仕掛けの巨大な筒。
中が見えるのはほんの一部で、その中は液体で満たされている事が、浮き上がる空気の粒で理解できた。
『このような姿で失礼する。』
その声は反響しているのか、部屋中から包むように耳に入る。
しかし声の主は、確実にそこにいた。
筒のガラス部分をよく見ると、見える範囲で一人の初老の男性の頭部付近が、機械に繋がれているのがわかった。
口や鼻は機械に包まれ、何本もの管が伸びていたが、その目はたしかにこちらを捉えていた。
それだけじゃない。
気付かなかったが、部屋中いたるところにモニターがあった。
そのモニターには一つの大きな目が映し出されており、それぞれが別々にこちらを凝視している。
立ち尽くしていたカイルが、そのモニターに気づいて辺りを見回すと、エウレリアがその場で片膝を立てて頭を垂れているのに気が付いた。
『世がアルベリック・ゴア・べクラール。べクラール公国の王である。』




