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TeX.Hacker  作者: 融暖
第1章
16/18

ep4-眠れし街②-

昇降機は、徐々に地下都市の表面に接近する。


近づくにつれ、そこに人影が多数見えた事で、カイルは不思議と恐怖を感じた。


「ここは軍事施設です。この様な都市が幾重にも折り重なり、一つの生態系を形成しています。他の階層は後々行ってみると良いでしょう。」


改めて都市を見渡すと、この昇降機は円形の街の四方向に設置してあるのか、同じ素材の巨大な柱が地中を上下に貫いている。


そして同じ様な、しかし遥かに太い支柱が中央に1つ。


この階層だけの高さだけで、橄欖が縦に5台はつめるだろうか。

下の施設に配備されているエンヴィスですら、小人に見える程だ。



「この後、街に入ったら、しばらく行動を共にしていただきます。」


まもなく到着するのを見越してか、エウレリアは静かに立ち上がった。


「貴方の意思は先程の戦闘で確認しました。ですが、最終的な判断を下すのは私ではありませんので。」


エウレリアは、じっとカイルの目を見つめてそう言った。


「え?でもコルネリス艦長もエウレリアの意見を聞いてたくらいだし、問題ないんじゃ?」


カイルは焦った。


既に自分は軍の一員だ、と勝手に思い込んでいたのだと。

ここに来て入隊を拒否されるなんて事になったら…。



「安心してください。軍に入ることは認可しました。しかし軍内で今後どうなるかは王に直接相談する必要があります。」


焦りが顔に出ていたのか、エウレリアはカイルを宥める様な発言をすると、窓から無機質な灯りの差し込む大地に目をやる。


「えっ…王様が…生きてるの?」


エウレリアの答えは、カイルの心配を吹き飛ばした。

しかし、それは新たにカイルの中で疑問と疑念が生じる事となった。


だが、カイルが呟くように疑問を投げかけるとほぼ同時に、橄欖の船体が先程同様に一度激しく振動した。


体勢を崩すカイルを余所に、カイルはその後思わぬ方向に数度揺すられる。

外の景色は、橄欖の無限軌道の進行方向と関係なく流れて行く。


『ふぅ〜、みんなお疲れさま〜。到着したよ〜。カイルちゃん、ようこそ、ローグ・ベグルへ!』




揺れが収まるとほぼ同時に、ペゼリアの安堵の溜息と報告が、同時にカイル達の耳に入る。


ようやく体勢を立て直したカイルは、頭を押さえながら窓の外を覗き込む。


艦はいつの間にか、専用のドッグに移動されたらしい。

周囲の建物からは、次々と整備員と思われる人々が橄欖に様々な機器を持参して接近する。



「行きましょう。」


エウレリアが踵を返し、髪を揺らしながら部屋の入り口へと歩み寄る。


「え?けど皆さんに挨拶を…。」


カイルの呼びかけにエウレリアは立ち止まり、若干顔だけこちらに向ける。


「必要ありません。」


そう淡々とに答えるエウレリアの、髪の間から見える瞳は、無機質で光すら感じない冷たさを感じた。






「ここが…街なのか…」


艦を降り、金属で出来た冷たい大地に足を下ろしたカイルを待っていたのは、人工の灯りを反射する温かさを持たない建物。


周りのどこを見ても同じ様な景色だった。


振り返った先にある橄欖からは、複数の乗組員が我先にと下船しており、逆に整備士と思われる人々が船体に乗り込んでいる。


しかし、この巨大な整備ドッグには橄欖以外の艦は見当たらない。


ここだけでも、10台程は停泊出来そうなスペースはあるにも関わらずだ。



「残念ながら、この階層には軍事施設しかありません。」


数歩先を歩くエウレリアが、歩く速度を変えぬまま、顔だけこちらを向けている。


周りをチラチラ見回している自分を、無視して歩くのは忍びなかったのかも知れない。


「殺風景で楽しくも無いでしょうが、もうしばらくお付き合い願います。」


それだけ言うと、こちらの解答も待たぬまま、再び前を向いて歩速を少し上げる。


カイルは置いていかれまいと、小走りをしてエウレリアの横に並びかける。



「ここと同じ様な施設がもう一階層。」


「え?」


自動で流れる床に乗り、少しずつ速度が上昇すし、中央に向かう途中でエウレリアが呟くように話しかけた。


「ここより上層には、居住層や農耕層、商業層等があります。そこには約10万人程が生活しています。」


エウレリアが上を見上げたので、釣られてカイルも上に視線を向ける。

しかし当然ながら、そこに見えるのは他の階層では無く、そこにあるべき岩肌のみ。


だがこの上には町がある。

人々が陽の光を浴びる事なく、それでも精一杯生きているのだと。

地上の惨状とベクレルの街を思い出して安堵した。


「逆にこの下には研究施設等があります。8年以上前から存在している…研究施設が。」


続いて下を向くエウレリアは、声の抑揚は殆ど無く機械的な喋り方だったが、その横顔にはどこか哀愁を感じた。



「今から向かう場所は、その更に下です。」


いつの間にか目の前に接近していた中央の柱。


徐々に速度が遅くなり、降りた先に幾つかある、人用の昇降機の一つに乗り込む。


エウレリアは手を機械にかざし、更に目の付近をカメラのようなものに近づける。


その後壁のスクリーンには階層一覧が表示される。


「ローグ・ベグルではセキュリティ上、人によって移動可能な階層が制限されています。」


淡々と階層を選択しながら、エウレリアはこの昇降機の説明をする。


「カイル、あなたも登録さえすれば使えるようになりますので、使い方覚えておいて下さい。セキュリティの関係上、使い方の説明はありませんから。」


そう言ったエウレリアは、カイルのことを見ることもなく、そのまま目の前のスクリーンを見続ける。



少しの沈黙。



聞きたいことは山程あった。


今なら答えてくれたのかもしれない。


だが視線を向けると、改めて見たエウレリアの姿がそこにある。


マジマジと見たことは無かったが、戦場でも橄欖でも似つかない可愛い格好。


しかし彼女の容姿は、そんな服に着られること無いほどに整っている。


年端も自分とは大差ないだろう彼女が、何故…。



「ここからもう少し歩いていただきます。」


それだけ言うとエウレリアは外に向かって歩き出す。


どうやら気づかぬ間に目的のフロアに到着していたらしい。


結局、また聞きそびれてしまった。 


何をやっているんだと、カイルは深いため息をついた。

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