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TeX.Hacker  作者: 融暖
第1章
15/18

ep4-眠れし街①-

挿絵(By みてみん)

警戒態勢に入ってから、いったいどれだけの時が経過したのだろう。


カイルは、永遠とも思える時間を客室で、落ち着かず右往左往して過ごした。


外の様子は廊下から聞こえる僅かな足音と、窓から見える景色でしか分からない。


TeX体。

インターフィラー。


聞きそびれたそれらの事が、頭の中を何度も何度も搔き回す。


考えても仕方が無い事は理解していた。


しかしそれでも、それらが何なのか。



自分は何者なのか。



忘れようとしても、それらは無意識に表層に現れてしまう。


ダメだと、自らの顔を両手で引っ叩く。

考えれば考える程、悪い方向に向かいそうだと。



「カイル、起きてますか。」

「エウレリア?大丈夫、起きてるよ。」


軽く3度ノックしたのち、部屋の扉が自動で開き、入室したエウレリアは軽く会釈をする。


そして落ち着いた足取りで部屋に入り、中央のガラス張りの机に備え付けられた椅子へ腰を下ろす。



「この2日間、大変だったと思いますが、もうすぐ私達の街に到着します。」


今のカイルにとって、その報告はこれ以上に無い吉報であった。


この緊迫した空気からも、自身の無力感からも解放される。


例えそれが一時的なものであっても、だ。




「その…敵のTeX体は…?」

「幸いな事に、その後の襲撃はありません。」


「最後まで警戒を緩めるつもりはありませんが」


そう淡々と話をするエウレリアは、壁のボタンを操作して、窓のブラインドを開放する。


窓から直接光が差し込む事で一瞬視界が奪われたが、次第に視界に入ったのは、ベクレルとは比べ物にならない規模を誇る、六角の外壁に囲まれた巨大な街。



「これが元王都…べクラール。」

まだ距離はあるはずなのだが、あまりのスケールのデカさに、カイルは無意識に生唾を飲み込んだ。


「王都べクラールは初めてですか?」

「うん…、大きすぎるよ…。」


今まで見た事の無いベクレル以外の街。

カイルは外の世界の大きさに、ただ呆然と立ち尽くした。

それを横目に、エウレリアは口を開く。


「王都べクラール。高さ20メートルの四重の壁に囲われた街であり、その直径は約10キロメートルあります。」


その街の構造は、ベクレルとよく似ていた。

中央に王城があり、その周囲を四重の外壁が取り巻いているという訳だ。


それは非常に堅固な作りに見える。


しかし、それらも8年前の戦争で崩壊、突破され、中央にそびえ立つ王城は見る陰もない。



「王都…崩壊した街が拠点って事?」

「いいえ。それそのもの、という訳ではありません。」


エウレリアはそうは言うものの、橄欖のモーターは唸りを上げ、その歩みは更に勢いを増していく。


橄欖が王都へと距離を詰めるにつれ、その惨状はより鮮明に姿を現す。

それはカイルに、この戦いが紛れもない現実であることを突きつけていた。


目の前に迫る最外壁は、周りを警備しているディダですら小さく見える。


その最外壁の一部が崩落した箇所へ、橄欖は艦首を向ける。

崩落幅は約30メートルと言ったところか。


ただ、その部分は綺麗に清掃されており、橄欖が出入りするのに不自由は無い。



『みなさ〜ん、そろそろ旧王都べクラールですよ〜。』


ペゼリアの艦内放送が響き渡る。

相変わらずの、気の抜けそうな声は、ようやく橄欖が安全圏に入った事の証だろう。

何となく、艦全体の空気も軽くなったと感じた気がした。



その後橄欖は、崩壊部分を僅かな隙間を残すのみで通り抜け、やがて旧べクラール王都に乗り入れる。


窓から見える景色は、散々たる情景であった。


崩壊した最外壁から、前に見える二つ目の外壁までは、恐らくベクレルの街が丸々1つ収まるだろう。


しかし目に見える範囲では、殆ど整備されず、人が住んでいるとは考えられない街並み。

いや、最早それは自然に還っていると言った方が正しいだろう。


崩れた石と草木ばかりが広がり、そこには人の暮らしの名残よりも、長い放棄の時間だけが残されていた。


そこに人の気配は無く、時折見えるのは、橄欖から逃げるように飛び立つ鳥類と、人が飼い慣らせるとは到底思えない獣達。


元々住居としての役割は少なかったのか、ここが街であったと言われても、すぐに納得するのは難しいだろう。

場所によっては木々が覆い茂り、ディダが隠れる程の森になっている。


そんな自然の中に出来た砂利道を突き進む橄欖は、次第に二つ目の壁に突き当たる。


しかしその壁には亀裂すら無く、橄欖が侵入できるだけの空間は見当たらない。


「結局王都に入ったけど…行き止まりだよね…?」


カイルがエウレリアに問いかけたとほぼ同時に、艦内放送が流れ出す。



『クルーのみなさ〜ん、橄欖は今からローグ・ベグルに入港しま〜す。大きく揺れるから、気をつけてね〜。』


ペゼリアの放送が終了するや否や、目の前の壁が地面ごと競り上がる。

表面上は、周りとの差を感じない程綺麗にカモフラージュされているが、その中身は地上の構造物と大きく異なっており、金属の冷たい内壁に、青白い灯りが反射する。


そこへ橄欖は、安全を考慮しながらゆっくりと前進する。


それは、橄欖が余裕で収まるほど巨大なハッチ。

地下から吹き抜ける風が周囲の木々を激しく吹き抜ける。

この下には、完全に地上とは別の世界があると感じた。



その構造物は、やがて橄欖全体を飲み込むと、静かに、しかし1度だけ大きな衝撃を立てて沈み始める。


陽の光が届かない薄暗い世界で、周囲の灯りが次々とゆっくり上へ流れて行く。


室内であるはずなのに、冷たい風がカイルの身体を撫でたような気がして、思わず身震いする。


「旧王都べクラールに作られた地下都市、それが私達の拠点…ローグ・ベグルです。」



長い時間をかけ、やがて周りの景色に変化が現れる。


「これが…ローグ・ベグル。」


昇降機の外壁の一部が巨大なガラス張りへと姿を変え、その視界には地下空間の巨大な施設群が現れる。


薄暗く、常に夜なのかと錯覚するが、無機質な中に点々とする灯りは、確かにここに人が存在するのだと示していた。

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