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TeX.Hacker  作者: 融暖
第1章
14/18

ep3-TeX体⑤-

「ただいま帰ったっすよ。」


静けさの中、機械音が響き渡る橄欖のブリッジ。


カイルら3人は、足取り重く、そこに入室する。


カイルがブリッジを見渡すと、ペゼリアはやはり椅子でクルクル回転していたが、こちらに気づくや否や動きを止める。


「おかえり〜!チョコ食べる〜?」


ペゼリアは、相変わらず緊張感の無い笑顔で、すぐ脇のコンソール下から、両手いっぱいにカラフルな包み紙のチョコレートを差し出す。


その屈託の無い笑顔の前では、自分達の気分も自然と軽くなり、思わず顔を見合わせた3人の表情も、不思議と軽くなるのだった。


「ありがと~、つかれたっすよ〜…」

「ボクも欲しい…」


シンディナとフレンツェラの2人は、ペゼリアの手から一つつまみ取ると、それを口に頬張る。


「ほら、カイルちゃんもど〜ぞ、疲れがとれるよ〜。」

「ありがとうございます。」


カイルもペゼリアの手から、恐る恐る一つ選び取る。

横の2人が幸せそうに頬張っているのを見て、カイルも紫の包を開けて口に入れる。


幸せの味、至福の一時とはこの事を言うのではないだろうか。

口いっぱいに広がるほろ苦い甘さは、今までの身体の硬直を、一度に解す思いだった。



「で、あんた達がいながら、どうしてカイル1人無傷で帰れないんだい?」


上段からのコルネリスの一言で、思い出したかのように身体が強張る。

それは、心音が周りの人にも聞こえるのでは無いかと思う程、激しく鼓動しているとすら感じた。


「それがさぁ、あいつら無傷で潜んでたんっすよ…。」


シンディナは、笑顔を崩さないペゼリアから、更にチョコレートを受け取りつつ、報告とは思えない程適当に返事をする。


「どういう意味だい?」


しかし、コルネリスはそれを意に介さず、淡々と質問を繰り返す。



この艦の人々は、軍人では無いのでは無いかと思う程に、常に無礼講であると感じる。

しかし、それは良くも悪くも、この艦全体のモチベーション向上へと繋がっているのだろう。



「ディダのやられ方を見てる限り一方的。ほとんど戦いにもなって無いと思う。」

「そうっす。恐らく囮として使っていたワーカービーも、纏めて砲撃したと思われるっす。」


橄欖は、1度も足を止めることなく今も動き続けている為、他の誰もハッキリと現場の検証は行っていない。

それはこの戦闘自体が、彼女達にとって取るに足らないイレギュラーと判断していたという事だろう。

しかしこの報告は、どうやら予想外の出来事だったようだ。



「つまり…」

深く考え込むコルネリスの前に、一同が静まり返る。

ペゼリアですら、チョコレートを持つ両手を静かに降ろした。



「敵はロンド共和国軍の…TeX体(テクスタイ)…って事かい…。」



その一言にブリッジ全体の空気が凍りつく。


恐らく、その理由が理解出来ていないのは自分だけだと、カイルは察した。


ペゼリアですら、額に汗が流れ落ちているのが見て取れる程だ。



「ペゼリア、第二小隊に先行偵察を。子供一人として見落とすな。それと付近に展開している部隊に、情報共有を呼びかける事。」


「了解です。」


ペゼリアが普段の楽観した雰囲気と一変し、先程までチョコレートを配っていたと人物は思えぬ程、コンソールに向き合うと手早く操作する。

他のブリッジクルーも、慌ただしく動き始めたのが見て取れる。


「緊急連絡。付近でTeX体出現の可能性有り。総員警戒態勢。第二小隊は付近並びに先行偵察を行ってください。繰り返します…。」


艦内放送で的確に指示を出すペゼリアに、彼女はこんなにも真面目に勤務する事も可能なのかと、呆気に取られた。


数人が慌ただしくブリッジに駆け込み、コンソール上の設備を操作し始める。

そこに先程までの静けさは無く、艦全体が慌ただしくなったのだと感じた。


カイルは、恐らくそこまでの大事なのだろうと、今になってその場の空気を理解したのだ。



「あの、TeX体って?」


カイルはコルネリスが忙しい事を理解していたが、どうしても確認する必要があると考えた。


自らも適切な行動を取るために。


「そうだな…んー、簡単に説明すると、機械体とは違った神出鬼没で危険な兵器かな。」


「神出鬼没…危険…。」


与えられた情報は極僅かだったが、時間との戦いである今、その解答が精一杯なのだろう。


正直どの様な存在なのか、見当もつかないが。



「危険かどうか、感じ方は人それぞれっすけどね。」


カイルの横で、シンディナは腕のストレッチをしている。


「当たりのTeX体であると考えると、ディダ一個中隊なんて相手になるはず無いっすよ。」

「そう、正直言って強個体のTeX体に当たったら最悪。この部隊の全滅も有り得る。」



目の前で、あれだけの強さを見せ付けられたこの2人がそう言う存在。


自分に出来る事なんて、何も無いのでは無いか。

むしろ、大人しく邪魔をしないのが正解なのだろうと、カイルは拳を強く握りしめるのだった。



「あ、そう言えば、昨日カイル君を助けたのもエウレリア様のTeX体。」


「え…」


フレンツェラのその一言は、カイルの記憶をフラッシュバックさせた。


昨晩の惨状。

自らに手を差し出したエウレリア。


そしてその際に突如消えた、謎の機体。



あれがーTeX体ー。



「さあ、この話はここまでだ。王都までそう遠くは無い。みんな、気を引き締めて行くよ。」


そう言うと、コルネリスは階段を降りてカイルの下へ足を運び、カイルの肩に手を掛ける。


「カイル、TeX体は敵に回すと恐ろしい、けど味方ならこれ程心強いものは無いんだ。」


「はい…。」


今なら理解できる。


エウレリアがスティンガーを瞬殺してみせたように、敵のTeX体も多数のディダを葬ったのだと。


そして、今感じているこの感情こそが、恐怖なのだと。



「よく無事に帰ってきたな。今はゆっくり休みな。」


コルネリスは笑顔を見せて、カイルの頭を撫で上げる。


「ありがとうございます。」


カイルが返事をすると、うんと一言頷くと、すぐに立ち上がる。


「ペゼリア、副艦長として艦の全権限は譲渡する。」


ペゼリアは通信しながら、コルネリスと目を合わせて軽く頷く。


彼女が、副艦長だったのだ。


「第一小隊も警戒に当たる。シンディナ、フレンツェラ、補給が済み次第すぐに出撃できるように準備。」


了解と2人が返すと、3人は駆け足でブリッジを後にした。




「カイル」


一人取り残されたカイルに、背後から誰かが声をかける。


驚き、振り返った先にいたのはエウレリアだった。


「ここでは休息もままなりません。客室へ案内しましょう。」


エウレリアは話しながら、先にエレベーターへと足を運ぶ。


カイルも急いでその後に続く。



動き始めたエレベーターでは、2人の間に息苦しい程の沈黙が発生する。


ブリッジの奥から出てきたという事は、先程のフレンツェラとの会話も耳に入っていただろう。


「あの…。」


沈黙に耐え切れず、カイルが思わず口を開く。


「何か。」


エウレリアは正面の扉を見たまま、目線も動かすことなく単調に答える。


カイルは、その動作に息を呑んだが、意を決して口に出す。


「ベクレルの街で助けてくれたでしょ?」


カイルの言葉に、エウレリアはピクリとも動かない。

それを見てカイルは続ける。


「あの時消えた機体…あれが、」

「ユレクスサイト。」


エウレリアの声が、静かに遮った。


まるでその質問が来ることが分かっていた、と言わんがばかりに。


「TeX体No.0201、ユレクスサイト。それがインターフィラーである私の、TeX体。」



エウレリアがこちらを見る。



動かすことの無い、見つめ合うその瞳には、いったい何の意味があったのだろう。



扉が開くと、エウレリアは外に出て振り返る。




「あなたも…」



エウレリアは静かに言った。



「TeX体の、インターフィラー。」




インターフィラーが何なのか、カイルには分からない。


だが一つだけ、分かった事がある。




それが…選ばれし者…なのだと。






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