ep4-眠れし街④-
正直予想は出来ていた。
死んだと周囲の人達が信じている状態なのだから。
このような場所で命を繋ぎ合わせているのは、その身を隠す為なのか、それだけ巨大な施設が必要だからなのか。
それとも…
『エウレリアよ、大義であった。』
そのアルベリック王の一言に、エウレリアはピクリとも動かない。
それがこの国の作法なのであれば、カイルもそれにならう他無いと頭を下げる。
『して、そなたがカイルだな。どうした?頭を上げるがよい。』
そう言われて、内心怯えつつもゆっくりと顔を上げる。
しかしそれでも、エウレリアはピクリとも動いていなかった。
「あの…」
『何か?』
「こういう場での作法が分からないんですけど、喋ってもいいものなんですか?」
『うむ、今は3人しかおらぬ。自由を許そう。』
カイルはホッと胸をなで下ろしたが、頑なに動かないエウレリアに、本当に自由にしてもいいものなのかと恐怖すら覚えた。
さらに顔を上げると、目に入るのは無数の瞳。
自分の心まで覗き込まれているのでは、とすら感じる瞳で生きた心地はしなかった。
『しかし…そうか、未だ覚醒には至らぬか…。さて…。』
意外にもその王の一言でカイルは、少しだけではあるが言葉を発する程には理性を取り戻す。
「それは…TeX体や、インターフィラーというやつですか?」
『…そうだが…、なるほど、それらについての知識すら皆無であるか。』
カプセルの中の王は眉一つ動かすことなく、広大な空間には重たい沈黙が落ちた。
エウレリアも頭を垂れたまま、ぴくりとも動かない。
静寂に支配された空間では、カイル自身の呼吸音と鼓動だけが嫌に大きく聞こえた。
『であれば世が話せるのは次のとおりである。』
静寂を切り裂き王が口を開く。
『強力な力を持つ戦闘兵器、それがTeX体であり、それを扱う者をインターフィラーと呼ぶという事だけだ。』
それは淡々と用語を並べただけだった。
だがそれですら、今のカイルにとっては必要な情報である事に間違いはない。
それが知れただけでも感謝するべきかもしれないが、ここはあと一歩踏み込んでみるべきか。
「それで、俺がそのインターフィラーってやつである確証はあるんですか?それだけの理由で、自分だけを助けたんですか。」
ベクレルの街が襲われた理由。
家族を失う原因になったのが、本当に自分個人であるのか。
そして、この話が事実であるなら。
やつらに復讐する『力』が手に入るという事だ。
しかし、王はそれに対する応答をしなかった。
答えられないのか、意図的に答えることを拒否しているのか。
残念ながら王は身動き一つしないため、カイルにその答えを知る術はないのだった。
その結果、しばらくの間訪れる再度の沈黙。
『たしか戦場に出たいとの事だったな。違いないか?』
残念ながら、王はこちらの質問に答える気はないようだ。
助けを借りようとエウレリアを確認するが、やはり微動だにしない。
ここまで動きが無いと、最早噂のサイボーグなのではないかとすら思えてしまう。
「はい。」
『よかろう。そなたには第一独立艦隊への配属を命ずる。』
王の勅令に、エウレリアの身体がぴくりと反応する。
が、結局それだけであり、行動を起こす気は無いようだった。
「第一独立艦隊…。」
予想していた、コルネリス艦長率いる第二独立艦隊では無い。
だが、その意図を自分が知る術はおそらく無いのだろう。
「あの、第二では駄目ですか?ここまで皆さん凄く良くしてくれたんです。」
『命令に変更はない。以上である。』
即答だった。
今までの返答のほとんどに沈黙を挟んでいたというのに、その時だけは即答だった。
その返答をした後、こちらの動きを待つこともなく、瞳の映るモニターが次々と消え、やがて全てが黒くなる。
「では、街に戻りましょう」
ようやくエウレリアが重い腰を上げる。
振り返り、カイルの横を通り過ぎたエウレリアは、その表情こそ見えなかったものの、額には玉のような汗が滲んでいた。
それに続いて部屋を後にしたカイルが、閉まりゆく扉の隙間から覗いた部屋では、全てのモニターに不気味な笑みを浮かべた瞳が映っていた気がした。




