ep3-TeX体③-
『しまったっす!』
『逃げて!』
最後の一機は、迷わずにカイル目掛けて突進する。
「うっ!」
焦って反応が遅れたが、距離があったおかげで、何とかシールドで直撃は回避できたが、すぐに引き返して再度突撃してくる。
「逃げろって言われてたけど…」
2人の活躍を見てると、1人でもやれる。
どこからかそんな自信が湧いた。
何よりも、やつらは2人の…たった2人の友達の敵だったから。
「やってやる…俺だって!」
カイルも体勢を立て直し、右手の銃の引き金を引く。
しかし、フレンツェラ機と同じ銃のはずだが、弾の軌道は安定せず、弾丸は敵の周囲に散乱してしまう。
『カイル君、だめっす!』
『攻撃しなくていい、逃げる!』
しかし、カイルにそれを聞く余裕など無い。
生死の境目、昨日感じた無力感。
呼吸すら忘れる程の緊張感。
それはカイルの集中力を向上させると同時に、視野は狭くなり、2人の声すら届かなくなっていた。
「くそっ!」
視線を定めて右レバーのトリガーを入れるが、敵機も背部の機銃でカイル機を牽制しつつ、変則的な軌道で距離を詰める。
「やってやるぞ!」
銃撃では埒が明かないと判断したカイルは、手持ちの銃を投げ捨て、左手のシールド裏の近距離用武装、ヴィブロレピスを取り出して立ち上げる。
『ダメっす!敵の武器は!』
カイル機は重心を落とし、盾を前に構えて受け身の体勢を取るが、迫りくるスティンガーのスピアは、カイルの予想を裏切る動きをした。
スピア先端部分が、突如飛び出してカイル機の胸部に迫る。
「くっ…」
胸部に命中するかと思われたスピアは、間一髪で身体を捻ったカイル機の胸部をかすりとり、右肩を粉砕する。
右腕を失いバランスを崩したカイル機は、そのまま右側を下にして崩れ落ちる。
スティンガーは射出したスピア先端を、付随したワイヤーを巻き取って回収しつつすれ違い、一度距離を取り急ターンする。
「やられるっ!?」
体勢を立て直せぬカイル機に、スティンガーが姿勢を低くし急接近する。
『間に合わない!』
『逃げるっす!!カイル君!』
スティンガーは直前で飛び上がり、勢いを増して胸部にスピアを向ける。
カイルは、思わず目を閉じた。
しかし、その時が訪れる事は無かった。
2度の爆発音。
正確には、遠くから響いた発砲音。
そして、カイルの頭上で弾けた破裂音だった。
カイルを狙ったスティンガーは、その遠方からの一撃で、命中した胴体を中央に砕け散り、弾け飛んだ。
シンディナ機とフレンツェラ機の足元へと。
『カイル君、大丈夫?』
2人のエンヴィスは、何とか上半身を起こしたカイル機の下へと駆け寄る。
「はい、ありがとうございます。けど…」
『訓練も受けてない中で、これだけできれば上出来。』
『そうっすよ。命があれば十分っす!…けど…。』
『お小言は…避けられないね…。』
カイルは周りを見渡し、戦場側で粉砕し黒煙を上げているスティンガーの残骸を確認する。
そして、先程までの2人の戦いを見ていた限りでは、この倒し方は有り得ないと理解していた。
仮に2人が倒したのだとすれば、その方向に残骸があるはずがない。
カイルは、エンヴィスのカメラを反転させる。
頭部が振り向いた先には、いつの間にか橄欖が接近していた。
だが、その距離は十分遠く、艦の砲撃で狙うにはしんどい距離だ。
しかし、よくよく目を凝らしてみると、その甲板の上部に一機の、重装甲に身を包んだエンヴィスらしき機械体が存在していた。
左足を前に腰を深く落とし、脇に抱えて持つ大型のキャノン砲の銃口からは、一筋の煙が上がっていた。
『3人共、無事かい?』
通信機からは、距離がある為か損傷の為か、ノイズ混じりでコルネリス艦長の声が届く。
『私は無事っすよ…』
『ボクも。』
「俺も大丈夫です。」
甲板上のエンヴィスは、自分達の解答を確認して周囲を一通り警戒すると、砲身をたたみ背部に収納して立ち上がる。
『シンディナ、フレンツェラ、戻って来たら報告しにくるように。』
次第にスッキリ聞こえるようになりつつあった通信が、途切れると同時に甲板上のエンヴィスは甲板上のハッチから、倉庫へと収納されるのだった。
「えっと…今のは?」
カイルの問いかけに、2人は機体の顔を見合わせて、しばらく沈黙後。
『コルネリス姐さん…艦長っすよ。』
『そう、私達第一小隊の隊長も務めてる。』
…何を言っているのだろう。
艦を指示する人が前線に出ては、艦としての維持が不可能なのでは無いか。
これは素人考えなのかもしれないが。
『そこは、私達の優秀な副艦長様がいらっしゃるっすからねぇ。』
『そう。彼女はああ見えて優秀だから。』
2人は、こちらの考えを読んだのか。
それとも普段からこの反応をされるのだろうか。
そして、まだ見ぬ副艦長様への挨拶も必要なのだろう。
何にせよ、コルネリス艦長や整備士に謝罪するのが、今一番大切な事なのだろうと、カイルは胸の内で震えていた。




