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TeX.Hacker  作者: 融暖
第1章
11/20

ep3-TeX体②-

挿絵(By みてみん)


「うわっ!」


予想を遥かに超えるGでに、体がシートに叩き付けられる。

操縦桿もペダル等も、完全に手足から外れてしまっていた。

しかし、それが功を奏したのか、エンヴィスは両膝をクッションにして着地し、地面に深い足跡を刻みながら滑るように停止した。


『おお、やるじゃないっすか!ルーキーは焦ってこけないようにと、もがくっすからね。顔からダイブするのがお決まりっすよ?』

『うん、悪くない。そのまま歩けそう?』


呆然としているカイルは、心臓の絶え間ない鼓動を全身で感じつつ、1度後ろを振り返り現状把握に努めた。

橄欖との距離は、ディスプレイ表示上で約1km。

一瞬でここまでの距離を飛行する事実に、思わず身震いした。



「はい、やってみます!」


着地点の少し前では、先に発艦していた2人が待ち構えていた。

足跡を見るに、しっかり片足で歩いて着地をしたのだろう、着地跡が自分とはまるで違った。


先程同様、視線を前に向けて右足のペダルを踏み込む。

ゆっくりと左足が前に踏み出したのを確認すると、ペダルの踏み込みを強くする。

一歩、また一歩と先程よりも力強く足は前へと進み、それを確認した他の2機も、優雅に向きを変えてカイルのエンヴィスに速度を合わせる。


『いい感じっすよ!このまま行くっす!』


シンディナのエンヴィスは、上半身をこちらに向き直し、器用にサムズアップしてみせる。


『周辺探知はボクがやるから、シンディナはカイル君を頼むよ。』

『任せるっすよ!カイル君は操縦だけに気を配ればいいっすよ。』

「はい!」


逸る気持ちを胸内に押し留め、カイルは2人に合わせて足を進める。


『さて、目的地までにもう少しマトモに動かせるようにならなきゃっすね。』


「はい、お願いします。」



そこから色々と、短期間で叩き込まれた。


しゃがみ方や飛び方、武器の扱い等。


しかし一つだけどうしても上手くできなかった。



ズドンッと大きな音を立てて、カイルのエンヴィスは尻もちをつく。


「いてて…」


『こりゃ…致命的っすね…』


走り出そうと左足のペダルを踏み込むと、どうしても上半身の重心が後ろに行き、転んでしまう。


原因は単純な物だった。


ペダルを両爪先で踏むと、どうしても反り返った姿勢になってしまう。


身長不足…。


シートは最大まで調整されているらしいが、どうやら艦で出来無い専用の調整が必要との事だった。



『もうすぐ戦闘区域。用心して。』


フレンツェラの短い一言で、三人の間に緊張が走る。


『シンディナ、カイル君を後ろに両翼に展開。カイル君、武装セーフティは解錠されてる?』

「はい、先程解錠しました。」


カイルはフレンツェラの指示通り、に少し後ろに下がり、左手の盾を構える。

センサー類の見方が分からない以上、敵がいる可能性を考慮して、周囲を有視界で確認する。



『カイル君、何も無いとは思うっすけど、油断しちゃダメっすよ。逃げる事を最優先に考えるっす。』

『シンディナも要警戒。戦闘のせいか熱源探知が役に立たない。』



戦闘が始まるかもしれない。


その時感じたのは恐怖なのか、喜びなのか、それ以外の感情なのか。


額から伝わる一雫に、カイルは身を震わせた。



やがて前方に、黒煙の燻る大地が見えてくる。

岩だらけの痩せた大地は、その一帯が一面黒く焼け焦げていた。


その中でも、真っ先に目に入ったのは、濃灰色の機械体…昨日ベクレルの街で目にした、防衛隊のディダだった。


『二個中隊が全滅…。』

『旧型のディダとはいえ12機もっすか…』


笑えない冗談だ。


周辺の土地を含めて、全て燃やし尽くされている。


『…敵機の残骸は…?』

『旧型の機械体…ワーカービーが2機だけ…っすか?』


それも、ディダが持つ25mmでやられた訳では無い。

ディダごと、何かに巻き込まれ、燃やし尽くされていた。



『カイル君、後ろにジャンプっす!』

「っ!?」


シンディナの声に驚き、咄嗟に両方の踵側のペダルを踏み抜く。

エンヴィスは瞬時に反応し、数歩後方へと飛び退く。

何とか上手く着地したカイルのエンヴィスがいた場所を、無数の弾丸が大地を掻っ攫う。


咄嗟にカイルら3機は、近くの岩陰に身を隠す。


『センサーには何の反応も無かった。熱探知にも上手く対象してる。』

『手強い…この状況を見ても、最悪の敵の出現を想定する必要あり…っすね』


何の話か、カイルに分かるはずも無かったが、確かなのは、2人からして見ても、相見える敵は強いという事だ。


フレンツェラ機が、後頭部のセンサーユニットを上に覗かせて、周囲を警戒する。


『全部でスティンガーが5機…かな。橄欖には連絡入れたけど…どうする?』



スティンガー…それがベクレルの街を襲った機械体の名前。

手に持った大型のスピアと背部の2門の砲、足の前後についている大型のタイヤ。

カプセルに無理矢理手足が生えた様な容姿は、改めて見ても、人型兵器と呼ぶのはおこがましい容姿ではある。



『どうするもこうするも、いつも通りで行くっすよ!』


銃をフレンツェラ機に預け、颯爽と飛び出すシンディナ機を、間髪入れずフレンツェラ機が、岩陰から飛び出して援護射撃を行う。


それに合わせて5機のスティンガーも、脚部のローラーを使用して、滑るような軌道を描く。


3 機がシンディナ機を取り囲む様に動き、残りの2機がフレンツェラ機を牽制射撃する。



『ふふっ!何で私が1人で突撃したと!?』


その直後、シンディナ機の背後を取ったスティンガーが瞬時に加速し、手持ちのスピアでその無防備な背部へと一撃をかます!


『強いのは戦術だけ…っすね。』


機体を貫こうとしたスピアは、振り向きもしないままのエンヴィスの手に握られた、高振動波を放つ折畳式の剣、ヴィブロレピスにより、真っ二つに切り裂かれていた。


それも、機体ごと。



「凄い…」


岩陰から頭部のカメラユニットを覗かせ、カイルはその様子を観察するしか出来なかった。


動かす事しか出来ない自分とは、明らかに次元が違う。


戦いとは、こういうものなのか。


そう感じた。

そう思い知らされた。



そうこうしてる間にも戦闘は進む。


その後も、シンディナ機はその場で殆ど動かず、敵機も距離を取って威嚇射撃を繰り返す。


『シンディナ、そろそろ行くよ。』


岩陰から援護射撃をしていたフレンツェラ機が、腰に装備したシンディナ機の銃を使い、2丁を持って岩や残骸の影を利用しながら、またたく間に距離を詰める。


その間も、フレンツェラ機の射撃は正確に敵機の連携を妨害、お互いに徹底的に隙を作らない動きをする。


ほんの一瞬、シンディナ機を囲っていたスティンガーの一機が、フレンツェラ機に気を取られる。



その一瞬が命取り。



『ふふっ…。』


シンディナはそれを見逃さず、信じられない程の瞬発力でスティンガーまでの距離を詰める。


スティンガーの操縦者が気付いた時には、全てが遅かった。


ヴィブロレピスは、シンディナ機の手を離れ、まだ距離のあるスティンガーのコックピットに突き刺さっていた。

 


だが、シンディナ機から武器が離れた今は、敵にとっても又とない隙になる。


そのままの勢いで武器を回収に向かうシンディナ機を、距離の近いスティンガーが捕捉する。


『敵は一人じゃない…。』


フレンツェラの射撃は、正確に突撃したスティンガーの脚部ローラーを捉えていた。


移動手段を奪われ、無様にも転倒するスティンガーは、目の前で武器を回収したシンディナ機に、あっさりと打ち払われる。



これで三機。


ほんの一瞬の出来事だった。


『またボクは、忘れられてる?』


シンディナ機の気迫に圧倒されていたスティンガーの一機に、フレンツェラ機は距離を詰めながらも、肩そして股関節部分を破壊する。


もう一機のスティンガーが、フレンツェラ機の接近を妨害しようと射撃を行うが、フレンツェラはその射撃を掻い潜り、行動不能のスティンガーのコックピットに、至近距離からの一撃をお見舞いする。




残り、一機。


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