ep3-TeX体②-
「うわっ!」
予想を遥かに超えるGでに、体がシートに叩き付けられる。
操縦桿もペダル等も、完全に手足から外れてしまっていた。
しかし、それが功を奏したのか、エンヴィスは両膝をクッションにして着地し、地面に深い足跡を刻みながら滑るように停止した。
『おお、やるじゃないっすか!ルーキーは焦ってこけないようにと、もがくっすからね。顔からダイブするのがお決まりっすよ?』
『うん、悪くない。そのまま歩けそう?』
呆然としているカイルは、心臓の絶え間ない鼓動を全身で感じつつ、1度後ろを振り返り現状把握に努めた。
橄欖との距離は、ディスプレイ表示上で約1km。
一瞬でここまでの距離を飛行する事実に、思わず身震いした。
「はい、やってみます!」
着地点の少し前では、先に発艦していた2人が待ち構えていた。
足跡を見るに、しっかり片足で歩いて着地をしたのだろう、着地跡が自分とはまるで違った。
先程同様、視線を前に向けて右足のペダルを踏み込む。
ゆっくりと左足が前に踏み出したのを確認すると、ペダルの踏み込みを強くする。
一歩、また一歩と先程よりも力強く足は前へと進み、それを確認した他の2機も、優雅に向きを変えてカイルのエンヴィスに速度を合わせる。
『いい感じっすよ!このまま行くっす!』
シンディナのエンヴィスは、上半身をこちらに向き直し、器用にサムズアップしてみせる。
『周辺探知はボクがやるから、シンディナはカイル君を頼むよ。』
『任せるっすよ!カイル君は操縦だけに気を配ればいいっすよ。』
「はい!」
逸る気持ちを胸内に押し留め、カイルは2人に合わせて足を進める。
『さて、目的地までにもう少しマトモに動かせるようにならなきゃっすね。』
「はい、お願いします。」
そこから色々と、短期間で叩き込まれた。
しゃがみ方や飛び方、武器の扱い等。
しかし一つだけどうしても上手くできなかった。
ズドンッと大きな音を立てて、カイルのエンヴィスは尻もちをつく。
「いてて…」
『こりゃ…致命的っすね…』
走り出そうと左足のペダルを踏み込むと、どうしても上半身の重心が後ろに行き、転んでしまう。
原因は単純な物だった。
ペダルを両爪先で踏むと、どうしても反り返った姿勢になってしまう。
身長不足…。
シートは最大まで調整されているらしいが、どうやら艦で出来無い専用の調整が必要との事だった。
『もうすぐ戦闘区域。用心して。』
フレンツェラの短い一言で、三人の間に緊張が走る。
『シンディナ、カイル君を後ろに両翼に展開。カイル君、武装セーフティは解錠されてる?』
「はい、先程解錠しました。」
カイルはフレンツェラの指示通り、に少し後ろに下がり、左手の盾を構える。
センサー類の見方が分からない以上、敵がいる可能性を考慮して、周囲を有視界で確認する。
『カイル君、何も無いとは思うっすけど、油断しちゃダメっすよ。逃げる事を最優先に考えるっす。』
『シンディナも要警戒。戦闘のせいか熱源探知が役に立たない。』
戦闘が始まるかもしれない。
その時感じたのは恐怖なのか、喜びなのか、それ以外の感情なのか。
額から伝わる一雫に、カイルは身を震わせた。
やがて前方に、黒煙の燻る大地が見えてくる。
岩だらけの痩せた大地は、その一帯が一面黒く焼け焦げていた。
その中でも、真っ先に目に入ったのは、濃灰色の機械体…昨日ベクレルの街で目にした、防衛隊のディダだった。
『二個中隊が全滅…。』
『旧型のディダとはいえ12機もっすか…』
笑えない冗談だ。
周辺の土地を含めて、全て燃やし尽くされている。
『…敵機の残骸は…?』
『旧型の機械体…ワーカービーが2機だけ…っすか?』
それも、ディダが持つ25mmでやられた訳では無い。
ディダごと、何かに巻き込まれ、燃やし尽くされていた。
『カイル君、後ろにジャンプっす!』
「っ!?」
シンディナの声に驚き、咄嗟に両方の踵側のペダルを踏み抜く。
エンヴィスは瞬時に反応し、数歩後方へと飛び退く。
何とか上手く着地したカイルのエンヴィスがいた場所を、無数の弾丸が大地を掻っ攫う。
咄嗟にカイルら3機は、近くの岩陰に身を隠す。
『センサーには何の反応も無かった。熱探知にも上手く対象してる。』
『手強い…この状況を見ても、最悪の敵の出現を想定する必要あり…っすね』
何の話か、カイルに分かるはずも無かったが、確かなのは、2人からして見ても、相見える敵は強いという事だ。
フレンツェラ機が、後頭部のセンサーユニットを上に覗かせて、周囲を警戒する。
『全部でスティンガーが5機…かな。橄欖には連絡入れたけど…どうする?』
スティンガー…それがベクレルの街を襲った機械体の名前。
手に持った大型のスピアと背部の2門の砲、足の前後についている大型のタイヤ。
カプセルに無理矢理手足が生えた様な容姿は、改めて見ても、人型兵器と呼ぶのはおこがましい容姿ではある。
『どうするもこうするも、いつも通りで行くっすよ!』
銃をフレンツェラ機に預け、颯爽と飛び出すシンディナ機を、間髪入れずフレンツェラ機が、岩陰から飛び出して援護射撃を行う。
それに合わせて5機のスティンガーも、脚部のローラーを使用して、滑るような軌道を描く。
3 機がシンディナ機を取り囲む様に動き、残りの2機がフレンツェラ機を牽制射撃する。
『ふふっ!何で私が1人で突撃したと!?』
その直後、シンディナ機の背後を取ったスティンガーが瞬時に加速し、手持ちのスピアでその無防備な背部へと一撃をかます!
『強いのは戦術だけ…っすね。』
機体を貫こうとしたスピアは、振り向きもしないままのエンヴィスの手に握られた、高振動波を放つ折畳式の剣、ヴィブロレピスにより、真っ二つに切り裂かれていた。
それも、機体ごと。
「凄い…」
岩陰から頭部のカメラユニットを覗かせ、カイルはその様子を観察するしか出来なかった。
動かす事しか出来ない自分とは、明らかに次元が違う。
戦いとは、こういうものなのか。
そう感じた。
そう思い知らされた。
そうこうしてる間にも戦闘は進む。
その後も、シンディナ機はその場で殆ど動かず、敵機も距離を取って威嚇射撃を繰り返す。
『シンディナ、そろそろ行くよ。』
岩陰から援護射撃をしていたフレンツェラ機が、腰に装備したシンディナ機の銃を使い、2丁を持って岩や残骸の影を利用しながら、またたく間に距離を詰める。
その間も、フレンツェラ機の射撃は正確に敵機の連携を妨害、お互いに徹底的に隙を作らない動きをする。
ほんの一瞬、シンディナ機を囲っていたスティンガーの一機が、フレンツェラ機に気を取られる。
その一瞬が命取り。
『ふふっ…。』
シンディナはそれを見逃さず、信じられない程の瞬発力でスティンガーまでの距離を詰める。
スティンガーの操縦者が気付いた時には、全てが遅かった。
ヴィブロレピスは、シンディナ機の手を離れ、まだ距離のあるスティンガーのコックピットに突き刺さっていた。
だが、シンディナ機から武器が離れた今は、敵にとっても又とない隙になる。
そのままの勢いで武器を回収に向かうシンディナ機を、距離の近いスティンガーが捕捉する。
『敵は一人じゃない…。』
フレンツェラの射撃は、正確に突撃したスティンガーの脚部ローラーを捉えていた。
移動手段を奪われ、無様にも転倒するスティンガーは、目の前で武器を回収したシンディナ機に、あっさりと打ち払われる。
これで三機。
ほんの一瞬の出来事だった。
『またボクは、忘れられてる?』
シンディナ機の気迫に圧倒されていたスティンガーの一機に、フレンツェラ機は距離を詰めながらも、肩そして股関節部分を破壊する。
もう一機のスティンガーが、フレンツェラ機の接近を妨害しようと射撃を行うが、フレンツェラはその射撃を掻い潜り、行動不能のスティンガーのコックピットに、至近距離からの一撃をお見舞いする。
残り、一機。




