27. 時々、いたずらしちゃうぞ
ハロウィン、というものがあるという。
毎年この時期に行われる収穫祭を、そう呼んだりするのだとか。なんでもこの世とあの世を繋ぐ門が開き、自由に行き来できるようになる。この世の人間はあの世に連れていかれないように、その日は仮装して過ごすのだという。
それを知ったパクたちは、ファスが連れていかれちゃうと慌ててシーツを頭から被せ、モフモフ警戒網を張った。これは別の国のお話だよと説明され警戒は解いたものの、六対のまんまるは心配そうだった。
不安なままではよくない。ファスは何かないかと一緒に本を読み、見つけた。
なんと、仮装をしているとお菓子をもらえるのだ。
「お菓子をくれないとイタズラするぞって言うと、もらえるんだって」
「にゃ?にゃーにゃあ、にぃ」
収穫祭を楽しんでいれば、あの世の存在は寄ってこない。だったら、みんなで楽しくするのが一番だ。
「みんなでお菓子を作ろうか。明日はカイ達が来てくれるって言ってたから、たくさん作って驚かせよう」
「にゃあ!」
「なぁう?なーおう、にゃ」
「…そういえば、そうだね。イタズラって、何をするんだろう……」
イタズラをした事がない、一人と六匹。一緒に首を傾げ考えるものの、答えは出ず。気を取り直して、お菓子作りの準備に専念するのだった。
手袋と、エプロン。そして頭にキュッと布を巻いてもらい、パクたちは張り切ってクッキー作り。
生地をこねこね、それぞれ好きな形を作っていく。しらゆきとダイチは、紙型を使っての挑戦だ。予め作っておいた紙型を生地に乗せ、爪……は、手袋を破ってしまうのでヘラを使う。包丁はうまく持てなかったのだ。ファスお手製の木のヘラは、軽くて持ちやすい。
「ぶに、ぶにゃ」
「に、にぃ、に」
器用にヘラを操るしらゆきとダイチ。順調に同じ形を並べていく。その横では、パクとはやてがコロコロ丸めてポン、と交互に肉球印をつけている。オネムとソラは共同制作なのか、花を作っていた。
楽しそうに作っているのを笑顔で眺め、ファスもせっせと手を動かす。作っているのは、カップケーキだ。乾燥させた野菜を切って細かく、そして窯で乾燥させて更に細かく。そうした野菜たちを生地にさっくりと混ぜ、器に取り分けていく。もう一つは、ドライフルーツ入り。更にもう一つ、これは何も入れずにシンプルに。全部で三種類、後は焼くだけとファスは頷く。
「にゃあ!」
「なうー!」
「あ、できた?上手だね…!こっちがパクで、こっちがはやてだ」
肉球の僅かな違いを見抜くファス、流石である。パクとはやては満足気に喉を鳴らした。
しらゆきとダイチも終わったが、台にくっついているのがうまく取れないようだ。困った声でファスを呼ぶ。
「くっついちゃったんだね、待ってねこうして……」
ファスは紙型をそっと差し込み、ゆっくりと取っていく。はらはらと見守る、しらゆきとダイチ。
「これで大丈夫。よかった、崩れてないよ」
「にー!にゃんにゃ!」
「ぶにゃあ!ぶにっ!」
無事に鉄板へと並べられ、一安心。しらゆきとダイチのありがとうのスリスリを受け止め、ファスは微笑む。
「こっちの葉っぱがしらゆきで、こっちのどんぐりがダイチ。本物みたいだよ、すごいね」
しらゆきは、大好きなヒスイの実の葉っぱ。ダイチは帽子付きのどんぐり。特徴がよく出ていた。
オネムとソラも、無事にできたようだ。こちらはくっつく事なく、けれど丁寧に鉄板へと移していく。
「かわいいお花、一緒に作ったんだね。……」
ファスは全部のクッキーを見渡す。いつもより、数が少ない気がするのだ。生地の量は合っていたと思うが。
「もしかして、少なかった?」
「にゃむむ」
「んにゃー」
大丈夫だよ、と首を振るオネムとソラに、パクたちも頷く。いろんな形を作ったから、数が少なくなったのかもしれない。次に作る時はもう少し多めにしよう。そう決めたファス、次は夕飯の準備。パクたちも手伝いながら、窯の温度調節をしてくれていた。その御蔭で、出来上がったお菓子はいい焼き色になったのだった。
…木枯らしが吹き、日が落ちるのもすっかり早くなった。王都裏山も装いを秋に変えてしばらく、霜が降り落ち葉が増え、ゆっくりと冬の訪れを告げている。冷たい風が吹く中やってきたカイ達は、暖かい巣に入ると一息吐いた。
「今日はやけに冷えるな…」
「うぅ、もう一枚着てこればよかったぁ」
「お疲れ様です。今日は一日冷え込むそうですよ、パクたちが言ってました」
三人の外套を受け取り、ファスは暖炉の近くに干しておく。用意していた薬草茶を出し、台所へ。パクたちは三人の様子を見て、湯たんぽ組とお手伝い組に分かれて動き始めた。
「んにゃっ」
「おー、ありがとなソラ」
ソラはカイの膝に乗り、ダイチはお茶のおかわりを注ぐ。ありがたく受け取るトオヤの膝には、はやてが。幸せ笑顔を隠せないうららにはオネムがついていた。
「此処に来ると、幸せで胸いっぱいになるー……。幸せの過剰摂取ぅぅ」
外は冷えて寒くとも、巣はいつだって暖かく迎えてくれる。お菓子を運んできたファスに、うららは思わず祈る。こうして日々頑張れるのも、おいしいごはんとモフモフの癒しがあるからだ。
これが無い日々であったなら、今頃心が荒み切っていたかもしれない。冒険者稼業は厳しいのだ。
「どうぞ。今日のお菓子は、パクたちも作ってくれたんですよ」
「にゃ!」
一緒にケーキを運んできた、パクとしらゆきはででんと胸を張る。見れば湯たんぽ組も、ででん。
「今日はハロウィンという日だって、本にありまして」
「あぁ、あれだろ?あの世の門が開く日だから、仮装して連れていかれないようにするってヤツ」
「ほうなの?」
「新しい年の始まりともされているな。毎年行われる収穫祭で、カブやかぼちゃをお化けの顔にくり抜いて作るとか。王都には根付いてないが、他の国ではやっている所がポツポツあるようだぞ」
「ひらなかっひゃぁ」
もっくもっくとカップケーキを食べながら聞くうらら。それを眺め、静かに己の分を確保する男達。この妹分は、油断すると全部腹に収めてしまうのだ。
「あ、じゃああの言葉も知ってますか?『お菓子をくれなきゃイタズラしちゃうぞ』っていう…」
「ファスのイタズラなら大歓迎。よし、いいぞファス」
「え、」
両手を広げウェルカムなカイに、どうしたらいいか分からないファス。この反応は考えてなかったのだろう。しかし、膝に居たソラがモフっとSランクの視界を奪い、それは終わった。
「んにゃー。んにゃにゃ、にゃあー」
「ソラちゃんのイタズラ、いいなぁ!」
羨ましそうなうららはさておき、カイは顔にくっついたままのソラを指す。どうしたらいいんだこれ、と言いたいのだろう。
「んにゃにゃ、にゃあー」
「お菓子をくれなきゃイタズラしちゃうぞって言ってます…」
「もうしてるが。ん?」
くいくい引っ張られる感覚にトオヤが視線を下げれば、はやてが手を伸ばしていた。
「なぅな、なーおう」
「はやても言ってます」
「にゃむにゃー、にゃむむぅ」
「オネムちゃんも?!」
「は、はい。言ってます」
どうしたことか、パクたち全員でお菓子をおねだりしている。しかし、ファスの手作り以外は食べない筈である。トオヤは、手を付けていないカップケーキを渡してみた。
「なー、なう」
はやては受け取り、喉を鳴らす。正解であったようだ。そしてまたもや、引っ張られる感覚にそっちを見れば、パクとしらゆきから包んだクッキーを差し出された。
「にゃ、」
「くれるのか?俺に」
「にゃんにゃ」
首を傾げつつ受け取ると、今度はカイの方へ。カイは見えないながらも、カップケーキを無事に渡していた。受け取ったソラが降り、視界確保。そしてパクたちからクッキーを渡される。
最後はうらら。彼女はイタズラかお菓子かで悩んでいたが、手渡しクッキーが勝ったらしい。受け取って大喜びだ。
「えーと、ファスこれは…?」
ファスも不思議そうにしていたが、パクたちの意図が分かったか、ニコリと笑う。
「パクたちのイタズラです」
三人は顔を見合わせ、クッキーの包みに視線を落とす。
「お菓子を渡して、別のお菓子が返ってきたら驚くでしょう?パクたちが考えたイタズラみたいです」
頑張ったクッキーは、カイ達へ渡すつもりで作っていたのだ。よかったね、と撫でていると、パクはファスにもクッキーを手渡す。
「え、俺にも?」
「にゃ!にゃあにゃにゃ?」
「……うん、びっくりした。ありがとう、みんな」
イタズラ成功だ!と、にゃあにゃあ喜び合うパクたち。ファスは頬を染めて微笑んだ。
……とても、とても優しい微笑ましい光景。
人の世では、それはイタズラに分類されない。思いやりが詰まり詰まった贈り物である。
だが、それを口にする者は居ない。
「……、……とうとい、…」
ぽつりと零れたうららの言葉に、無言で深く同意する男二人。
冒険者三人組は、ひたすら優しい世界に浸り、心を浄化するのだった。




