25. 時々、いろんな秋
秋といえば、様々な秋がある。
豊穣の秋、読書の秋、運動の秋、そして。
「マスター!肉!秋といえば肉!」
「にーく!にーく!」
「なんかうまい肉食いたいマスター!!」
「……」
食欲の秋である。
「今日は肉肉しい気分なんだ!だから肉肉しい肉で!!」
「肉肉しい肉ってなんだよ。気分も何も、お前らいつも肉しか食ってねぇだろが」
「――という訳で、手に入れた肉の塊がこちらです」
マスターが指した作業台の上には、見た事がない大きさの塊肉がどでん、と乗せられている。ファスは言葉もなく、目を丸くしたまま眺め。今回はしっかり付き添っているSランクパーティ、並んでカウンターを陣取っていた。カイは、またファスを巻き込んだマスターを遠慮なく睨む。
「どうやって手に入れてきたんだよ」
「肉肉うるせぇ肉野郎共を使って仕入れてきた。豊穣祭も近いしな、市場も豊富だったぜ。冬の備蓄もそろそろ始めておかなきゃならんしな」
と、マスターが再びドンと置いたは、同じく市場で手に入れたであろう野菜たち。豊穣祭が終われば、冬越えの備蓄作りで忙しくなるのだ。この時ばかりは市場も拡大、そして行き交う人々も拡大する。
「俺も買っておかないとな…」
トオヤは作れるものは自分で作っているので、マスターが仕入れた野菜に興味を向けている。
「保存食はまだいいとして、だ。メシウマ少年、お前ならこの肉をどう調理する?」
「こ、こんな大きさは初めて見ました……。え、えっと、これはこのまま作るものなんですか?」
「いや、切る切る。ちゃんと切り分ける」
任せな、と肉切り包丁を構えるマスター。
うるさいので大量に仕入れたのはいいが、眺めている内にレパートリーを増やしたくなったのだ。そしてまた、いいタイミングでメシウマ少年、もといファスを見付け……今である。
「俺が作れるのは、お肉がホロホロになるまで煮込んだシチューと、」
「ふんふん」
「角切りにしたお肉と野菜を炒めて、チーズをかけた窯焼きと、」
「ふんふんふん」
「塊のまま紐で括って表面を軽く焼いて、おだしでじっくり煮込んで一日寝かせた、しみしみお肉、」
「しみしみお肉」
恐らく命名したのはパクたちだろう。それが分かったカイ達は優しい表情になっている。
「あ、ハンバーグも作った事あります」
レオたちとの食事会で好評だったと思い出し、ファスは頷く。お肉は干し肉を手に入れるか、差し入れでもらうくらいなので、ファス自身も余りレシピがある訳ではない。それに、どれもありふれた料理だ。
役に立てないかも、と申し訳ない気持ちでマスターを見上げる。
「……よし、とりあえず全部頼む」
「ぜ、全部ですか??あの、しみしみは時間かかりますが……」
「作って寝かせておきゃ、明日のこの時間くらいには食えるんだろ?しみしみ」
「は、はい……」
「味見分だけでいいんだ、是非教えてくれ。いつもの肉量のが分かりやすいな、どれくらいだ?」
「あ、えっと……」
ファスは慌ててエプロンを着け、切り分けてもらうと厨房に立つ。まだ二回目だが、物の場所は変わっていない。マスターに断りを入れ、包丁まな板、お鍋やフライパンなどをテキパキと準備。必要な調味料も揃えてもらい、さっそく取り掛かった。
「……聞いてたら腹減ってきた」
「どれもうまそうだったからな」
「考えるだけでおいしいって分かる……!」
カイ達は味見を期待し、腹を鳴らしながら出来上がりを待つのだった。
……ギルドマスター、アレクはなんとか仕事を半分までにこじつけ執務室を出た。朝からずっと閉じ籠っていたので、腹が限界を迎えている。今すぐ何か入れないと倒れる。
「外行く気力もない……酒場で済まそ、……何このいい匂い」
フラフラなアレクは、酒場から漂ってくる匂いにようやく気付いた。入り口には、同じく気になって仕方ないのだろう、冒険者達がウロウロと窺っている。いつもなら遠慮も何もなく入っていくのに、一体何事か。
「スゲーうまそう……匂いだけでもめちゃうまそう…!」
「少し見えたっ……!あーやっぱりめちゃうまメシだぁー……!」
「え、何それ。マスターが作ってんの?」
「違うって、あいつだよ。偶に見かける、めちゃうまメシ作るヤツが厨房に居るんだよってギルマスっっ?!」
驚いた新米冒険者達は急いで頭を下げるが、アレクは気にしない。入ればいいのにと指せば、思い切り首を振ってカウンターを指し返された。その先、三人組の後ろ姿にアレクは納得。憧れのSランクパーティが居るので、恐れ多くて入るに入れないのだろう。
「俺は限界だから行くねー……。マスター、ちゃんと食べられるものちょうだい…」
「俺はいつだって食えるモンしか出してねぇよ」
いつもの軽口に乗る事もできず、アレクは空いていたカウンター席に腰を下ろす。Sランクパーティには軽く手を振っておいた。
「なんか疲れてるねー、ギルマス」
「朝から何も食べてなくてさー…。あれ、三人共何食べてるの。あれ、マスターまで何食べてんの」
「…よかったら、アレクさんもどうぞ」
「あ、シチューかぁ!いただきます!あ、ファス君じゃないか」
「こんにちは。お久しぶりです」
「ホントだねぇウマー!!」
一気に情報が入ってきて反応に忙しいアレク。とりあえず腹を満たす事に集中する。いつもより皿が小さいのが気になるが。
「チーズ焼き、できましたよ。まだ熱いので、気を付けてくださいね」
「わー!私、取り分けるよ!」
「待てうらら、俺がやる。五人分だから…」
「俺も食べたいなぁ!!?」
「あ、皆さんでどうぞ。俺はお鍋を見てるので」
作り手のファスを含めて五人。普通に外されていると感じ取ったアレクは、全力で主張する。遠慮などしていたら腹は満たされないのだ。
一人分の量が均等に分けられていく。もっと食べたいアレク含め、全員の顔が真剣だ。
「こっち、ちょっと多くないか」
「同じだ」
「待って。右と左とじゃ、お芋一つ分違うよ」
「同じだ」
「あ、チーズ向こうが多くない?」
「同じだ」
全て聞いていたら、確実に冷める。トオヤは淡々と分けた。
「ハンバーグできましたよ。食べやすいように、一口分にしてみました」
コトンと置かれた皿には、同じ大きさの一口ハンバーグ。
パクたちが喧嘩にならないよう均等に、を心掛けているファスの手際は見事であった。五人は大人しく確保する。
「メシウマ少年、鍋はどうだ?」
「あともう少しです。そのままでも食べれますけど、お好みで塩やソースをつけてもいいと思います。人によっては薄く感じるかもしれませんから…」
「ふんふん、成程なぁ…。助かったぜ少年、どれもうまかった。報酬と言ったらアレだが肉持ってってくれや」
「い、いえそんなっ!お客さんに使う食材ですし……!」
「いーんだよ、決めるのは俺で作るのも俺だ。家族に食わせてやんな」
でん、と男前な量を切り分けるマスター。強面だが情に厚いのだ。
慌てていたファスだが、カイ達の後押しもあり有難くいただく事に。丁寧に御礼を告げ、三人と共に酒場を後にした。見送ったアレクは粘って、なんとかシチューのおかわりを手に入れる。
「んで…、あの鍋の中はいつできるの」
「おう、……よし、これで火を止めてと。これは明日まで寝かすから今は食えねぇぞ。ついでに味見だからお前ら用じゃねぇぞ」
カウンターに集まりつつある、冒険者達に睨みを利かせるマスターだったが。
……次の日、やはり仁義無き争奪戦が繰り広げられた。
くつくつと煮える音。おだしとハーブのいい香りが、巣にいっぱい広がる。
パクたちは鼻を動かし、できあがりを楽しみに喉を鳴らす。しみしみお肉は、偶にしか食べられないゼイタクなお肉だ。
「にゃあ、にゃーにゃあ……!」
「なうなぁー、にゃ」
柔らかくてしっとりして、もう一口、もう一口と止まらないおいしさなのだ。そのままかな、何かかけようかなと、にゃあにゃあ盛り上がるパクたち。お肉をくれた、酒場のマスターには感謝だ。
そんなパクたちの横では、カイ達がのんびり待機している。聞いたからには、食べたいではないか。何気に食べた事がなかった彼等の主張に、ファスは笑顔で応えてくれた。
「そうだ、ファス。もうすぐ豊穣祭があるんだ、一緒に行かないか?」
「あ、マスターさんが言ってたのですね。気になってたんです、よければ是非行きたいです」
「全っ然いい。じゃあ、二人で」
はい、と頷くファスは嬉しそうだ。最初は赤くなりぎこちなかったが、今は素直に感情が出ている。
「楽しみです」
「俺も」
その変化も嬉しいらしい、カイの笑顔は随分甘い。
パクたちは耳を動かし、大欠伸。トオヤとうららは明後日の方向に視線を投げ。
……二人の仲が順調なようで、何よりです。
しみしみお肉は、取り合いになる程おいしかったようだ。




