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オマケの魔猫と人の子   作者: 原田 和


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24/27

24. 時々、十五夜




今夜はお月見だ。

すっかり秋になった優しい青空を見上げ、パクは耳を動かす。

そよそよと吹く風はカラリとしており、雨の心配はなさそうだ。赤や黄色に変わった葉が、音を立てて舞い落ちる。足元まで滑ってきたそれを、パクはぺし、と掴まえた。


 「にゃー」


きれいないろ。表と裏と確認して、カゴの中へ一緒に入れると巣に戻る。戸を開けてくれたソラと運び、葉っぱを渡しながらテーブルを見上げた。そこにはたくさんの秋の食材。みんなでお月見準備中なのだ。


 「んにぃ?」


 「にゃあにゃ、」


きれいな葉は、秋の七草と共に飾っておくのだ。ソラは嬉しそうに持って行った。七草の隣では、しらゆきとはやて、オネムが野菜や果物をきれいに盛ろうと奮闘している。豊作への、感謝のお供えだ。


 「にゃん、にゃんにゃあ」


 「な?なう、にゃ」


 「にゃむむ」


しらゆきのお眼鏡に適った、傷の無い秋の旬を丁寧に一つずつ、カゴに盛っていく。離れて確認、近くで確認と真剣だ。そこは任せて、パクはいい匂いがする台所へ向かう。

トントンと小気味良い音を立ててごはんを作るファスと、すり鉢でせっせと混ぜているダイチ。


 「にゃあ、にゃにゃー」


 「あ、ありがとうパク」


頼まれていたきのこを渡すと、パクはすんすん鼻を動かす。今日のごはんも、おいしそうだ。


 「にゃあにゃ、にゃあ?」


 「ふふ、そうだよ。山の芋を使って、ちょっと試してみようと思ってるんだ」


 「ぶにゃ?」


 「丸にして、揚げるつもりなんだけど……うまくいくといいなぁ…」


新しいごはん。パクとダイチは目を輝かせ、お手伝い。パクはしっかり手袋をつけ、交代すると混ぜ始めた。そこに、卵と小麦粉、カタカゴを少しずつ入れていく。せっせとすりこ木を動かし、ふわふわを目指すパク。ダイチは動かないよう、すり鉢を押さえてくれていた。


 「に、にゅううぅ…!」


 「あ、重くなったんだね。さじに変えようか」


満遍なく混ざったか、すりこ木が動かし辛くなったのでファスと交代。小さく切った栗や、ヒスイの実を入れてさっくりと混ぜ、塩とおだしも少々。


 「ありがとう、パク、ダイチ。これで……一つ作ってみよう」


笑顔で労われたパクとダイチは、お茶と共に少し休憩。

ファスは温めておいた油に、山の芋を掬って滑らせるように入れた。じゅうぅ、とじっくり揚げられる。きつね色のまんまるが、コロンとできあがった。おいしそうなそれに、パクとダイチの目が更に輝く。けれどまだ熱いので、ぐっと我慢だ。


 「これに、おだしを少し…。味が薄くないといいけど……」


ファスは二つに割ると、器に入れた。ふんわりとした湯気から、優しい香りがする。


 「まだ熱いから、ゆっくりね」


 「にゃ!」


パクとダイチは揃ってスプーンを持つと、まんまるをそうっと掬う。食べやすいよう小さく作られているが、栗とヒスイの実がしっかりとある。ふうふう冷まし、一緒にぱくり。

柔らかく、ふわっとした食感。栗の甘味とヒスイのモチモチ、おだしと一緒に食べると丁度いい。いつもの山の芋とは違って、これもおいしい。ふたりはすぐに食べ終えてしまった。


 「にゃあ!にゃあにゃにゃ!」


 「ぶにっ!ぶにゃにゃ!」


 「よかった…。じゃあ、これで作っていくね。ありがとう、ふたりが手伝ってくれた御蔭だよ」


優しく撫でられ、ででんと胸を張る。

……先日、王都裏山に無事戻ったところ、冒険者三人組が来襲。特にカイは、離れていた分を取り戻すかのようにファスを離さず、パクたちの猫パンチラッシュも効かなかった。

どうやら、帰ってくるであろう頃合いを読み、高ランク依頼を片っ端から片付け待機していたらしい。


 「カイがさ、断言するから。まさかとは思ってたんだけど本当に帰ってきたから…。あ、嬉しいんだよ?勿論嬉しいの。でもね、ピッタリ嵌った分なんか怖いなって。カイが」


……と、うららはごはんを食べながら身を震わせていた。恐るべきSランクの執念。因みにトオヤはスルースキルを更に上げ、我関せずで無言で味わっていた。

今回はそんな彼等からお月見に誘われ。ならばとシドとレオたちにも声を掛け、今準備中というわけである。ファス一人では大変なので、パクたちも一生懸命手伝うのだ。


 「…うん、できた。これは冷ましておこう」


 「にゃ?」


 「梨のパイだよ」


と、窯からでてきた焼きたてパイ。甘く香ばしい匂いに、集まってきたしらゆきたちの歓声も上がる。

今日のお月見ごはんも楽しみだ。魔猫たちは張り切って、お手伝いに精を出した。







 「にゃい、にゃいにゃい」


 「なお、にゃおにゃ」


 「庭から?たくさん生ってたんだね」


夕方。日が落ちる前にやってきたシドとレオたち。今回のお土産は、巣の庭にあった柿だ。

渋柿だが、ファスが干し柿の作り方を知っているので、カゴ分だけ持ってきてみたのだ。これでできる?とレオたちはファスを窺う。小ぶりの柿を見ていたファスは、笑顔で頷いた。


 「うん、大丈夫。うまくできたら、レオたちにも食べて欲しいな」


まんまるの目が輝く。ありがとうのすりすりを終えると、パクたちにもご挨拶。にゃあにゃあにゃいにゃいと、巣の中は賑やかになった。


 「今回もお誘いありがとう。これもレオたちが集めてたんだ」


シドの手には、ススキ。七草を集めようとしていたのだが、柿取りに時間を取られてしまったらしい。

なるべくいいものをと厳選してくれたそうだ。レオたちの頑張りに、ファスは優しく微笑む。


 「ありがとうございます。干し柿、うまくいくよう作りますね」


 「んにゃにゃあ!」


 「活けてくれるの?ありがとう、ソラ」


新たなススキに気付いたソラ、ふわふわな穂先を揺らし喉を鳴らす。手伝う、とやってきたトバリと一緒に、活けに向かった。

そろそろカイ達も来るだろう。お茶を配ると、ファスは仕上げをすべく台所へ。パクたちも、少しずつお弁当を運んでいく。


 「にゃーあ」


 「ありがとう。これは向こうでいいかい?」


外に用意された敷物に、小さなテーブル。シドが受け取り、レオたちで並べる。落とさないよう慎重に、パクたちもレオたちも真剣だ。


 「あ、レオちゃんたちだ!師匠も!こんばんはー!」


より一層賑やかな声に振り向けば、やはり冒険者三人組。今回は、急な依頼も無かったようだ。三人それぞれ袋を抱えているので、市場に寄って来たのだろう。


 「あ、こんばんは」


 「にゃあ、にゃー」


 「ファス、悪い遅くなって。市場がやたら混んでてさ…」


カイはファスに一直線。がしぃ、と聞こえるような力強い抱擁に、まだ満足していなかったのかと全員が悟った。ファスだけが、相変わらずアワアワしている。

放っておくと長い上、ごはんが冷めてしまう。ファスもそれは分かったのか、一度だけぎゅ、と抱き着いて離れた。恥ずかしかったか、早足で巣へ戻っていく。パクたちもそれに続いた。


 「……いや、何さっきの。かわいいんだけど。ファスめっちゃかわいいんだけど。見た?俺のファスめっちゃかわいかったんだけど?!」


 「とりあえず語彙力取り戻せ」


シドとうららが呆れた目を向ける中、トオヤは市場での戦利品を拾いながら、冷静に突っ込んだ。

レオたちはまんまるの目で、月を探している……。









冷えた空気の中、月は優しく、巣を照らす。

それを眺めながら、魔猫たちとうららはデザートのパイに舌鼓。ゴロゴロ大合唱に、気に入ってくれたのだと分かる。ファスは柔らかく微笑み、そっと祈った。

大事な人たちが、これからも幸せでありますように、と。


 「ファス、これもうまい」


 「よかった…。また、作りますね」


 「うん。楽しみにしてる」


嬉しそうなカイにつられ、一緒に笑う。

『次』の約束ができるのは、とても幸せなことなのだ。

それをかみしめて、ファスはカイの口元をそっと拭いた。




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