24. 時々、十五夜
今夜はお月見だ。
すっかり秋になった優しい青空を見上げ、パクは耳を動かす。
そよそよと吹く風はカラリとしており、雨の心配はなさそうだ。赤や黄色に変わった葉が、音を立てて舞い落ちる。足元まで滑ってきたそれを、パクはぺし、と掴まえた。
「にゃー」
きれいないろ。表と裏と確認して、カゴの中へ一緒に入れると巣に戻る。戸を開けてくれたソラと運び、葉っぱを渡しながらテーブルを見上げた。そこにはたくさんの秋の食材。みんなでお月見準備中なのだ。
「んにぃ?」
「にゃあにゃ、」
きれいな葉は、秋の七草と共に飾っておくのだ。ソラは嬉しそうに持って行った。七草の隣では、しらゆきとはやて、オネムが野菜や果物をきれいに盛ろうと奮闘している。豊作への、感謝のお供えだ。
「にゃん、にゃんにゃあ」
「な?なう、にゃ」
「にゃむむ」
しらゆきのお眼鏡に適った、傷の無い秋の旬を丁寧に一つずつ、カゴに盛っていく。離れて確認、近くで確認と真剣だ。そこは任せて、パクはいい匂いがする台所へ向かう。
トントンと小気味良い音を立ててごはんを作るファスと、すり鉢でせっせと混ぜているダイチ。
「にゃあ、にゃにゃー」
「あ、ありがとうパク」
頼まれていたきのこを渡すと、パクはすんすん鼻を動かす。今日のごはんも、おいしそうだ。
「にゃあにゃ、にゃあ?」
「ふふ、そうだよ。山の芋を使って、ちょっと試してみようと思ってるんだ」
「ぶにゃ?」
「丸にして、揚げるつもりなんだけど……うまくいくといいなぁ…」
新しいごはん。パクとダイチは目を輝かせ、お手伝い。パクはしっかり手袋をつけ、交代すると混ぜ始めた。そこに、卵と小麦粉、カタカゴを少しずつ入れていく。せっせとすりこ木を動かし、ふわふわを目指すパク。ダイチは動かないよう、すり鉢を押さえてくれていた。
「に、にゅううぅ…!」
「あ、重くなったんだね。さじに変えようか」
満遍なく混ざったか、すりこ木が動かし辛くなったのでファスと交代。小さく切った栗や、ヒスイの実を入れてさっくりと混ぜ、塩とおだしも少々。
「ありがとう、パク、ダイチ。これで……一つ作ってみよう」
笑顔で労われたパクとダイチは、お茶と共に少し休憩。
ファスは温めておいた油に、山の芋を掬って滑らせるように入れた。じゅうぅ、とじっくり揚げられる。きつね色のまんまるが、コロンとできあがった。おいしそうなそれに、パクとダイチの目が更に輝く。けれどまだ熱いので、ぐっと我慢だ。
「これに、おだしを少し…。味が薄くないといいけど……」
ファスは二つに割ると、器に入れた。ふんわりとした湯気から、優しい香りがする。
「まだ熱いから、ゆっくりね」
「にゃ!」
パクとダイチは揃ってスプーンを持つと、まんまるをそうっと掬う。食べやすいよう小さく作られているが、栗とヒスイの実がしっかりとある。ふうふう冷まし、一緒にぱくり。
柔らかく、ふわっとした食感。栗の甘味とヒスイのモチモチ、おだしと一緒に食べると丁度いい。いつもの山の芋とは違って、これもおいしい。ふたりはすぐに食べ終えてしまった。
「にゃあ!にゃあにゃにゃ!」
「ぶにっ!ぶにゃにゃ!」
「よかった…。じゃあ、これで作っていくね。ありがとう、ふたりが手伝ってくれた御蔭だよ」
優しく撫でられ、ででんと胸を張る。
……先日、王都裏山に無事戻ったところ、冒険者三人組が来襲。特にカイは、離れていた分を取り戻すかのようにファスを離さず、パクたちの猫パンチラッシュも効かなかった。
どうやら、帰ってくるであろう頃合いを読み、高ランク依頼を片っ端から片付け待機していたらしい。
「カイがさ、断言するから。まさかとは思ってたんだけど本当に帰ってきたから…。あ、嬉しいんだよ?勿論嬉しいの。でもね、ピッタリ嵌った分なんか怖いなって。カイが」
……と、うららはごはんを食べながら身を震わせていた。恐るべきSランクの執念。因みにトオヤはスルースキルを更に上げ、我関せずで無言で味わっていた。
今回はそんな彼等からお月見に誘われ。ならばとシドとレオたちにも声を掛け、今準備中というわけである。ファス一人では大変なので、パクたちも一生懸命手伝うのだ。
「…うん、できた。これは冷ましておこう」
「にゃ?」
「梨のパイだよ」
と、窯からでてきた焼きたてパイ。甘く香ばしい匂いに、集まってきたしらゆきたちの歓声も上がる。
今日のお月見ごはんも楽しみだ。魔猫たちは張り切って、お手伝いに精を出した。
「にゃい、にゃいにゃい」
「なお、にゃおにゃ」
「庭から?たくさん生ってたんだね」
夕方。日が落ちる前にやってきたシドとレオたち。今回のお土産は、巣の庭にあった柿だ。
渋柿だが、ファスが干し柿の作り方を知っているので、カゴ分だけ持ってきてみたのだ。これでできる?とレオたちはファスを窺う。小ぶりの柿を見ていたファスは、笑顔で頷いた。
「うん、大丈夫。うまくできたら、レオたちにも食べて欲しいな」
まんまるの目が輝く。ありがとうのすりすりを終えると、パクたちにもご挨拶。にゃあにゃあにゃいにゃいと、巣の中は賑やかになった。
「今回もお誘いありがとう。これもレオたちが集めてたんだ」
シドの手には、ススキ。七草を集めようとしていたのだが、柿取りに時間を取られてしまったらしい。
なるべくいいものをと厳選してくれたそうだ。レオたちの頑張りに、ファスは優しく微笑む。
「ありがとうございます。干し柿、うまくいくよう作りますね」
「んにゃにゃあ!」
「活けてくれるの?ありがとう、ソラ」
新たなススキに気付いたソラ、ふわふわな穂先を揺らし喉を鳴らす。手伝う、とやってきたトバリと一緒に、活けに向かった。
そろそろカイ達も来るだろう。お茶を配ると、ファスは仕上げをすべく台所へ。パクたちも、少しずつお弁当を運んでいく。
「にゃーあ」
「ありがとう。これは向こうでいいかい?」
外に用意された敷物に、小さなテーブル。シドが受け取り、レオたちで並べる。落とさないよう慎重に、パクたちもレオたちも真剣だ。
「あ、レオちゃんたちだ!師匠も!こんばんはー!」
より一層賑やかな声に振り向けば、やはり冒険者三人組。今回は、急な依頼も無かったようだ。三人それぞれ袋を抱えているので、市場に寄って来たのだろう。
「あ、こんばんは」
「にゃあ、にゃー」
「ファス、悪い遅くなって。市場がやたら混んでてさ…」
カイはファスに一直線。がしぃ、と聞こえるような力強い抱擁に、まだ満足していなかったのかと全員が悟った。ファスだけが、相変わらずアワアワしている。
放っておくと長い上、ごはんが冷めてしまう。ファスもそれは分かったのか、一度だけぎゅ、と抱き着いて離れた。恥ずかしかったか、早足で巣へ戻っていく。パクたちもそれに続いた。
「……いや、何さっきの。かわいいんだけど。ファスめっちゃかわいいんだけど。見た?俺のファスめっちゃかわいかったんだけど?!」
「とりあえず語彙力取り戻せ」
シドとうららが呆れた目を向ける中、トオヤは市場での戦利品を拾いながら、冷静に突っ込んだ。
レオたちはまんまるの目で、月を探している……。
冷えた空気の中、月は優しく、巣を照らす。
それを眺めながら、魔猫たちとうららはデザートのパイに舌鼓。ゴロゴロ大合唱に、気に入ってくれたのだと分かる。ファスは柔らかく微笑み、そっと祈った。
大事な人たちが、これからも幸せでありますように、と。
「ファス、これもうまい」
「よかった…。また、作りますね」
「うん。楽しみにしてる」
嬉しそうなカイにつられ、一緒に笑う。
『次』の約束ができるのは、とても幸せなことなのだ。
それをかみしめて、ファスはカイの口元をそっと拭いた。




