23. 時々、豊穣の地で
「わぁ……!」
「にゃーあ!」
ファスとパクたちの目の前に広がるは、色とりどりの落ち葉の絨毯。カサカサはらり、とゆっくり降ってくる。吹く風はひやりとしているが、日差しは暖かいので丁度いいくらいだ。
パクたちはカサカサと音を立て、落ち葉で遊んでいる。普段は音を立てないようにしているので、新鮮で面白いようだ。ふみふみと踏んだり、大きな落ち葉やどんぐりを拾ったりと楽しそう。
ファスはそんな家族を、優しい笑顔で見守っていた。
「んにゃ!」
「にゃむむ!」
オネムとソラが木の根元を指している。きのこが生えていた。大きくて立派なそれが、ぽつぽつと周りにも。ふたりは真剣に匂いを嗅ぎ、毒はないかと調べている。
「にゃむ!」
「じゃあ、少しもらおうか」
大丈夫なようだ。ファスは持ってきていたカゴを出し、食べられる量だけ採っていく。
今年の冬も、カイのアパートにお邪魔する予定だ。なので少しだけ、いつもより多めに。早速、いろんなきのこが手に入り、みんなで運んでいく。
「な!なーう……?」
「あ、栗だ、ね……?」
はやてが見付けたは、イガを纏った栗。地面にいくつも転がっているが……足の踏み場がないとはこの事か、奥には入れそうにない。無理に進んだら、イガのトゲが刺さってしまう。なんだか此処だけ攻撃力が高いな、とパクたちは少し警戒。
「前は、こんなになかったけど……。あ、危ないから届く所だけにしようか」
「にー……にゃ!」
それでも栗はおいしいと知っているので、パクたちは力を合わせて拾い始める。器用にイガを避け、コロコロと中身を取り出していく。その間もどんどん落ちてきて、危うくぶつかりそうになったしらゆきを、ファスが抱っこで守ったり。あっという間に、カゴはいっぱいだ。まだまだたくさんあるが、運べる分だけと決めているのでその場を後にした。
「しらゆき、大丈夫?」
「にぃ!にゃんにゃ」
収穫したものを纏めている木の下で、休憩がてらみんなの怪我の有無を確認。大丈夫なようだ。
ファスはお茶を配り、秋の景色を見渡す。
「御方サマ、何処に行ったんだろうね…」
「にゃあ、にゃー」
此処は、以前連れてきてもらった、豊穣の土地だ。ずっと秋のまま、季節は巡らず時が止められたままの不思議な土地。御方サマの縄張り内なので、魔物はおらずのんびり過ごせる。
けれど、慣れていない土地であるので、以前通った道筋を大きく外れる事はしない。御方サマが戻ってくるまで、動ける範囲で収穫させてもらっていた。それでも、一冬充分越せる量がある。
「ぶにゃにゃ、にゃー」
「味見してみる?ちょっと待ってね……」
ダイチが持ってきた大きな梨を切り分け、みんなに配る。とても甘くて、瑞々しい。満足気なゴロゴロを聞きながら、何か簡単なものを作ろうかと思案するファスだった。
一方その頃。
御方サマは、目の前で落ち込む少女に威圧をぶつけていた。御方サマの方が小さいのだが、そこは一族の頂点に立つ災害級の長。体の大きさなど些末であった。
「やりすぎじゃというたであろう」
「良かれと思ってぇ……」
「なんじゃこのサマは!すずなりにもほどがある!」
「だって、たくさんあればある程、喜ぶではないかぁ。これだけあれば、いくらでも冬は越えられよう?飢える心配はないし、凍える事もなかろうと思ってぇ」
「みてみよ」
びし、と御方サマが指した先には、きゃっきゃモフモフと仲良くしている微笑ましい家族たち。
少女は笑顔になった。しかし、彼らは何やら真剣に話し合っている。
「にゃー、にゃあにゃにゃ…」
「な、なうー…」
「そうだよね…なんだかおかしい。食べられるし、おいしいんだけど……ここまで実ってるのは、あ、だから御方サマ、見回ってるのかも。異常事態が起こってるのかな」
「ぶにゃにゃー」
六匹と一人は、警戒するように辺りを見回している。
思っていたのとは違う反応に、少女は固まった。
「何故じゃ?!」
「するにきまっておろう。このじょうたいは、いくらほうじょうのちとはいえ、いじょうじゃ」
「誤解じゃ!喜ぶと思うたのじゃ!楽しく収穫してくれればそれで、あの子らが飢えぬようにとぉぉぉ…」
「おぬしはいつもそうやって、からまわりするのぅ。いぜんのしっぱいから、なにもまなばなんだか」
ぬおぉぉぉぉ……!!
と、地面に頽れ、泣き荒ぶ少女。彼女こそ、かつてこの地に恵みを与えていたカミサマである。
人間と共存していたが、限りの無い人間の欲に振り回され、挙句に悪と決めつけられ討伐された過去。しかし、去年のお月見にファスとパクたちが豊穣の感謝と祈りを捧げた折、その純粋で温かい心に感激感動し驚異の復活を遂げたのだ。
「やりすぎなのじゃ」
「足りぬのじゃ!わらわの気持ちを、あの喜びの高鳴りを伝えるにはまだ足りぬのじゃぁぁ…」
「やめろというのに。よいか、おぬしはそのきもちの、はんぶんのひょうげんでよい。それであれば、あやつらもけいかいせず、たのしむであろう」
「はっ半分?!……分かった、あの子らが喜ぶのであれば…」
落ち込みながらも頷くカミサマに、御方サマはやれやれと息を吐く。
「わらわはもどる。ふあんであろうからな」
「うむ!今度は抑えるぞ!」
「にゃ?!」
「は、畑?!畑が広がってる……!」
「にぃ!にゃんにゃにゃ??!」
「お、御方サマ、もしかして人が入ってきているんですか??」
「……。……すこし、まっておれ。あ、ニンゲンはおらぬぞ。そこはあんしんしてよい」
以前、草地であったそこはすっかり整備され、広大な畑が。奥には田んぼがあるのか、垂れた稲穂が揺れている。
それはそれでいい景色なのだが、ファスとパクたちは圧倒されるばかり。警戒度が上がり、全員森の中に避難。じぃ、と気配を消して窺っていた。
「はんぶんというたであろう!!」
「良かれと思ってぇぇぇ」
「しかもなぜ、かいこんしておる??!」
「わらわが手ずからに育てた野菜たちならば、あの子らも喜ぶかとぉぉぉ」
「ちかづいてもおらんだろう!!やたらとけいかいさせるでないわ!!」
「本当じゃぁぁぁ、全然楽しんでくれておらぬぅぅぅ……!」
……豊穣のカミサマの愛は、見事に空回っていた。
「あ、御方サマ…」
「にゃーあ?」
「しんぱいかけたの。あれは、わらわのけんぞくがやったことであったわ」
目を丸くするファスたちに、農業に興味を持ったから作ったらしいと説明しておく。
「おぬしらなら、とってもよいぞ。こんなにあるのだから、えんりょするな」
「い、いいんですか?」
「よいよい。ほれ、はようこいこい」
手招きされ、ファスもパクたちも恐る恐る近付いていく。人里に行かないと見られない畑の様子に、パクたちはすぐに興味津々、匂いを嗅ぎながら歩き回る。
「んにゃー……!」
「うん、凄く立派なかぼちゃだね……!あ、向こうはお豆もある。あれは、秋ナスかな」
「ぶにゃ、ぶにゃにゃあ」
「ホントだ。これおいもの葉っぱだ」
慣れてきたか、全員の顔がいきいきワクワクしている。もう一度御方サマに確認すると、にゃあにゃあと収穫を始めた。初めての畑体験に、目が輝いている。爪や魔法を駆使し、毛皮を土まみれにしながら。とても、楽しそうに。
うんうんと頷きながら眺める御方サマ。ふと森の方角を見れば、カミサマが大粒の涙を流しながらお祈りポーズをしていた。
ようやく見れた姿だ、余程嬉しかったのだろう。
「御方サマ、こんなに穫れました!ありがとうございます…!」
頬を赤く染めて、ファスも楽しそうにカゴの野菜たちを見せてくる。
「これで、今から何か作ってみてもいいですか?」
「おぉ、いいのぅ!」
「簡単ですが、焼き野菜に。きのこも使いましょうか。塩やハーブソースは持ってきてますから……」
……手伝ってもらいながらできた焼き野菜はとてもおいしく、秋の味覚をその場で味わえたパクたちはとても満足気。御方サマも、お茶を手にお腹をさすっている。
よかった、と微笑み片付けるファスは、改めて目の前に広がる畑を眺めた。
もしかしたら、この土地のカミサマが、戻ってきてるのかもしれない。
カミサマが戻った喜びが、実りとなっていたのかも。
「…そうだと、いいなぁ」
「にゃ?」
「うん、今年もこんなに穫れて、嬉しくて」
「にゃあ!」
ファスとパクたちはそっと祈る。
…恵みに感謝を、生かしてくれる事に感謝を。
「ありがとうございます……」
「にゃにゃ、にゃあおう」
静かに祈る姿を、御方サマも静かに眺める。
「……」
その後ろの森に、喜び溢れ盛大に泣く恵みの根源が居るとは、最後まで言わなかったのである。




