22. 時々、お月見ごはん
ファスは悩んでいた。時折、テーブルに広がる食材を眺め、また悩む。
テーブルを挟んだ向かい側では、パクたちも食材を覗き込み、悩むファスを見上げて一緒に悩む。
「なーう、なぁ」
「ぶにゃにゃ」
「はやて、ダイチ。ありがとう」
これも、と倉庫から運んできてくれたのは、山の芋。今年も守り神様が、ででんと巣の前に置いてくれたのだ。今年初の、山の芋である。
それも大事に受け取り、テーブルへ。
「やっぱり、秋のものがいいかな…」
「にゃあ、にゃにゃ」
「うん、お月見ごはんだもんね」
今年もお邪魔している薬草群生地。
比較的涼しいこの土地に、秋の気配がゆっくりとやってきていた。朝晩はもう肌寒いくらいだ。秋の実りも、ひょこりと顔を出し始めている。
そんな秋の初物たちを少しもらって、ファスとパクたちは何を作ろうと話し合っていた。丁度御方サマが来たので、訊いてみたところ。
「ふむ。いぜんきいた、おつきみのごはんをたべてみたいぞ」
との事。その時期には、王都に帰っている。一緒にお月見はできないが、ごはんで楽しんで欲しい。けれど、秋の食材はまだ少ない。なので、みんなで何を作るか考え中なのだ。
「お米か、パンか……。でも足りないかも、両方つくっておこう。おむすびと、丸いパンにおかずを挟む……」
「にゃ!にゃあ、にゃにゃ!」
「うん、そうだね。山の芋のおしるも作って……もう少しおかずが欲しいね」
「にぃ、にゃんにゃ!」
しらゆきがお芋を掲げる。お芋はたくさんあるので、色々作れる。揚げてもいいし煮てもいい。
ファスは頷き、サラダにしようかと呟く。
「んにゃにゃ?んにゃーにゃ」
「にゃむ、にゃむぅ」
まんまるにしないの?とソラとオネムは首を傾げた。去年のお月見ごはんは、まんまるを意識して作っていた。パクたちはまんまるのお芋を探したが、どれもゴツゴツした形ばかりだ。ファスもテーブルを見渡し、考え中。
「……あ、そうだ。お芋を茹でて、ペーストにして丸めようか。それだけじゃ崩れるかもしれないから、揚げてみよう」
にゃあ!と声が揃う。これで決まった。ファスは腕まくり、パクたちも手伝おうと手袋をつける。
丸いパンはもう作ってあるので、挟む具を作るだけ。お米は洗って、浸水させてから炊くよう準備。お芋は洗って皮を剥き、水を張ったお鍋へ入れて、火にかける。それから、とファスが丁寧に洗った山の芋のひげを焼き切っているうちに、パクたちはすり鉢とすりこぎを準備。やる!と山の芋に手を伸ばす。
「いいの?滑る時があるから、気を付けてね。疲れたら言ってね」
にゃ、と頷き、パクとダイチとソラで交代で擂っていく。中々大変だが、頑張ればおいしいものができるのだ。ファスはその山の芋を入れる、おしるの用意。
「なうっ」
「にゃむっ」
はやては風の刃を作り、食材をすぱすぱ切っていく。切り終えた野菜は、オネムが素早くボウルへ移す。
しらゆきは火の調節中。吹き零れないよう見張りを続ける。
「うん、…しらゆき、おしるの味はこれでいいかな?」
小皿を受け取り、ちろりと舐める。優しいおだしの味に、しらゆきの目が輝いた。
「にぃ!」
「よかった。じゃあ、これはまた後で…。次はパンの具。目玉焼きを挟もうと思ってるんだ」
それとカリカリベーコンに、ハーブソースをかけてチーズも乗せる…。ファスの呟きに、パクたちの耳が動き、尻尾がピンと立つ。もうおいしいと分かるからだ。今日のごはんの期待が高まる。
その前に。お芋が茹で上がったようなので、お湯を流して、水気を飛ばす。それからお米を炊き始めた。
お芋はボウルに移し、冷ましておく。
「おむすびは、昨日蒸した栗とヒスイの実を混ぜ込んで、丸く握ろうか」
にゃあにゃあと歓声が上がる。ファスはベーコンを焼きながら、ニコリと笑った。
「おおぉぉ……!」
御方サマの目の前に広がるは、お月見ごはん。
汁物に煮物、おむすびと焼き野菜。豪勢というわけではないが、見目良く盛り付けられ、満月を模したようなまんまる尽くしに特別感が沸き上がる。
「お待たせしました、これもどうぞ」
運ばれてきたのは具が挟まった丸いパン。そっと触れると、ふわりとして温かい。出来立てのようだ。
パクたちにも配られ、六対の丸い目がきらきらと輝く。これは守り神様に、とテーブルに置き、ファスはお茶を取りに戻る。
わさわさ揺れてうるさいので、御方サマは仕方なく戸を開けてやった。
すると大木から糸が走り、そそそっと自分の皿を絡め取ると、またそそそそっと滑るように運ばれて行った。戸を閉める。
「あれっ?守り神様のが……、」
「わらわがはこんでおいたぞ。はやくたべたいゆえな」
パクたちは、わっさわっさ揺れる大木を眺めていた。口に合ったようで、よかったです。
「あ、ありがとうございます。では、どうぞ…」
「うむ!おぉ、これはやまのいもじゃな。……うまい!やはり優しい味じゃのう」
「パクたちが頑張って、ふわふわにしてくれたんですよ。あ、パンは温かい内に」
「そうだの、では……。おぉ、これはたまごじゃな。うまくつくっておるのぅ」
上のパンを取り具を覗き込むと、見事な丸の目玉焼きが乗っていた。これもまた、特別感がある。聞けば、はやて発案の風の輪っかで作ったものらしい。
「まびょうどももやるのぅ。てつだいもできるとは、きようなものじゃ……これもうまい!」
パクたちは褒められ、ででんと胸を張っている。そして、パンをぎゅっと押さえて、ぱくりとかじった。
やっぱり、おいしい。かじりついたまま喉を鳴らすパクたち。
初めて見た器用なゴロゴロ大合唱に、ファスは目を丸くしている。
「だ、大丈夫?喉詰まらせないようにね」
「にゃあああぁぁぁ……!にゃあ、にゃあ!」
ハラハラと見守るファスだが、パクたちは詰まらせる事なく、ぺろりと食べ終えた。次はこれ、とまんまるの揚げ芋を取る。御方サマも気になっていたようで、しげしげと眺める。
「これははじめてみる。あげものだとはわかるが、なにでできておるのじゃ?」
「にぃ、にぃに」
「ほう、いもか」
外はカリッと、中はホクホクでもちっとしている。塩気とハーブの香りが丁度いい。いつもの揚げ芋とはまた違ったおいしさに、御方サマの目が輝き、続いてパクたちも。気に入ったと分かるその姿に、ファスは一安心だ。
その後。全種類を食べ終えると、特に気に入ったごはんのおかわりが続く。
ファスはテキパキとおかわりを配っていて気付かなかったが、その中には守り神の皿も交じっていたらしい。
「そろそろじゃのぅ」
「はい。今回も、たくさんお世話になりました」
「うん?はやいぞファス。まだおぬしらを、あのほうじょうのちへつれていっておらぬ。ことしもどうやらみのりがよさそうじゃ」
「また、行ってもいいんですか?嬉しいです……!実りもですけど、あそこは景色が凄く綺麗ですから…!また見たいなって思ってたんです」
「にゃあ!」
嬉しそうなファスと魔猫たちに、御方サマは頷く。
実は豊穣の神が復活しており、彼らに実りを与える為、手ぐすねを引いて待っているのだ。しかし、言わない御方サマ。純粋に楽しんでいる彼らに話す事ではない。
「いつもよりよけいにみのっておるかもしれんが、あんまりきにするな。たまにあるのじゃ」
「?そうなんですか。でも、食べきれる分だけもらえたら充分です」
「にゃーあ、にゃ」
「うむ、おぬしらはそれでよい」
王都に帰るのは、まだ先になりそうである…。




