21. 時々、残暑お見舞い申し上げます
王都の夏は、今年も厳しい。
影作りの範囲を広げ、魔法も駆使して冷やすものの、太陽の力は人間の努力を軽々超えていく。本日も暑い。
朝から広がる眩しい青空を横目に、一仕事終えたシドは部屋を出る。レオたちの様子を見に行く為である。
魔猫たちは暑過ぎるのも苦手だと聞いているので、夏場や冬場は訪れる頻度が自然と増えてしまう。巣は、レオたちの要望やファスの意見も取り入れ、快適に過ごせるよう整えているつもりだが…。昨日は風が無かったのが気に掛かる。
一応ノックし、戸を開ける。
「全員、起きて、る……」
シドの目に飛び込んできたのは、床のあちこちに倒れているレオたちの姿だった。
「全く、脅かさないでくれ……」
「にゃい、にゃい」
とにもかくにも、水分補給。シドは手早く薬草茶を沸かし、普段より冷やした温度で配った。
全員が飛びつくように飲んでいるので、作り置きをしておくべきだなと再び沸かす。
昨夜はやはり、風もなく熱気が居座り、レオたちは中々眠れなかったらしい。お気に入りのベッドも暑く、それぞれ涼しい場所を求めて移動していた。明け方近くに風が出てきて床も冷え、あの姿だったという訳だ。
「ファスが居れば、すぐにお前たちにもご飯を作ってくれるんだろうけど…」
生憎、パクたちと共に薬草群生地へ移動している。あるのは日持ちするおやつだけだが、それも残り少なくなっている。レオたちにカゴの中を見せ、それぞれ一つずつ食べたいものを選ばせた。
喜々と食べているので、全員食欲はあるようだ。それでも一応、シドはひとりひとり確認していく。弱った時の対処法は聞いているが、処置は早い方がいい。
レオたちも嫌がる事なく、実に大人しく診察されている。
「…動き辛い事はないかい?喉がやたらと乾くとか」
揃って首を振った。魔素をしっかり取り入れて、元気いっぱいになったようだ。
「今日は念の為、休みにしよう。眠れていないのなら、無理は禁物だ」
「にゃ、」
「にににっ、みみぃっ」
今日は外で魔法修行をする予定であった。先生に成長を見てもらえる機会、楽しみにしていたレオたちは元気だと必死に訴えるが、
「駄目だ。寝不足を甘く見るな」
取り付く島もなく、両断されてしまった。心配してくれての事だとは分かっているが、しおしおと落ち込むモフ弟子たち。
「何もするなとは言ってないよ、予定を入れ替えるだけだ。しばらく暑い日は続きそうだから、庭に出る時間を短縮しよう。その分、中でできる事をやればいい。涼しい日は修行時間も多く取るし…。僕もできる限り側についているつもりだけど、水分補給はちゃんとしなさい。いいね?」
ぴしっと整列し、返事はするものの、まだしゅんとしている。そういえば、とシドは思い出した。ここ数ヶ月、仕事が立て込んで魔法修行に立ち会えていなかったのだ。うららが代理で入り、騒がしくとも彼女は大魔導候補。的確に助言もできるので、安心して任せていた。
今日はレオたちにとっては、久しぶりに先生に見てもらえる日であった。
『レオたち、シドさんに見てもらうんだって張り切って練習してたんですよ』
ファスに預けた日は、その日の様子を教えてくれるので、時間を作ったりしていたのだが…。シドは眉間を押さえた。
正直、失念していた。忙しさにかまけて、レオたちをちゃんと見れていなかった。
モフ弟子たちも、魔研の慌ただしい様子で分かっているので、何も言わないのだ。
「うー……ん、僕もまだまだだな」
「にゃい?」
お詫びも込めて、モフ弟子を優しく撫でる大魔導。
「今日は僕も、此処に居ていいかい?お前たちは油断すると、休まず本を読み続けるからね」
輝く五対のまんまるの目に、シドは笑った。
……巣は静かだ。ペンを走らせる音が、大きく聞こえる程に。
レオたちはすやすやと、柔らかい敷物の上で眠っている。うきうきと本を読み、質問などもしていたのだが、やはり眠気が勝ったらしい。
その中に、水色の狼が混じっていた。シドが作り出した、魔法生物だ。狼が出す冷気が丁度いいらしく、五匹は囲むようにごろんと転がっている。
風がある内は涼しかったのだが、無風になると、じりじりと熱気が迫ってくるのだ。冷却魔道具では冷やし過ぎてしまう可能性があるし、レオたちがうっかり触って誤作動が起きたら大変だ。
と、色々悩んだ結果、こうなったのである。
戦闘時の巨大な姿だとレオたちが怯え、凍えてしまいそうになったので、大型犬の姿にて落ち着いた。狼も満更ではないらしく、仲良く挨拶を終えると、張り切って冷却の役目を全うしている。仲良くしたかったらしい、尻尾が揺れている。
それを観察していたシド、魔法生物にも気持ちがあるのかと今更ながら気付いた。基本、戦闘時にしか出さない上、命令を完遂したら消えるので。
こういった使い方は、レオたちがいなければずっとやらないままだっただろう。
「……お前たちには、色々教えられてしまうな」
大魔導となり、多くの魔法は理解し分かっていたつもりだったが。魔猫たちと関わり、観察するようになってからは、自由で柔軟な発想に感心させられてばかりだ。
何より、魔法は楽しい、学ぶ事は楽しいと全身で、輝く目で教えられるのだ。その姿は、研究員達にも刺さるらしく。
初心を思い出したとか、眩しくて涙が出たとか、挫折しかけた研究をまたやってみようと思ったとか、あの純粋だった時代に戻りたい泣くとか。様々な感想が呟かれている。
なんにせよ、レオたちの存在は周囲を前向きにするようだ。いい事である。
気持ち良さそうに眠るレオたちを眺めていると、狼と目が合った。ふり、と尻尾が揺れる。
「君が居れば、安心だ。もう少しで終わるから、それまで頼むよ」
「ばうっ」
ふりふりと尻尾を揺らし、狼は満足気に座り直す。
こうして声を掛けるのも、あるか無いかだったなと気付く。これからは積極的に話し掛けていこうと決め、シドは仕事に戻った。
「こんにち、うはぁうっっ……!!も、モフモフの楽園だあぁぁ」
「がるるるる」
「なんでっっ?!」
「…レオたちの眠りを守るように命じているから、お前は妨げる者と判断されたんだろう」
「がるるるるるる」
「なんでぇぇっっ?!」
改めまして、この場を借りて残暑お見舞い申し上げます。
毎日暑いですが、皆さん無理せず休み休み、体を労わって乗り切りましょう…。
因みに、水色狼は同じサイズだと五匹の体温で弱るので、大型サイズが程良いそうです。シェパード犬をイメージしていただければと…




