20. 時々、暑中お見舞い申し上げます
ちゃぷちゃぷにゃあにゃあ。
パクたちは川に入り、ちゃっぷちゃぷと暑気払い中。時折、水を跳ねさせて走り回る。楽しそうだ。
川と言っても浅く、流れも緩やかな小さな川。うっかり流されてしまう心配はないので、ファスは木陰にて座って見守っていた。
「にゃむにゃー」
「なー、にゃっ」
オネムが作った水球を、はやてが器用にぽんと打ち上げる。ダイチはぽむ、と頭でパス。ソラが受け止めようとしたが、パンっと弾けてびしょ濡れに。
「んにゃあー……」
ふるふると体を震わせ、水を飛ばすソラに、パクとしらゆきが大丈夫?と窺っている。
比較的涼しい土地である、薬草群生地。けれど昨夜は風もなく、夜になっても熱気が居座っていた。熱帯夜というものである。
パクたちも流石に暑かった。あちこちに移動し、椅子やテーブルの上、窓際や床、と各々涼しい場所でころんと寝転んでいた。ファスも眠れず何度も寝返り。全員、寝不足だ。
ファスはみんなに休んでもらおうと、今日はこうして涼しい場所でささやかなピクニック。ごはんを食べてひと眠りしたパクたちは、すっかり元気に水遊び中だ。時折吹く風は気持ち良く、ファスはうつらうつらと舟を漕ぐ。寝不足と、日々の疲れもあったのだろう。ファスは柔らかい敷物の上に、こてんと身を横たえてしまった。珍しい事だ。
「にゃっ」
すぐに気付いたパクたちは、慌ててファスの元へ。眠っているだけだと分かり、ホッと一安心だ。
「にゃあ、にゃにゃ」
「にぃ、にゃん」
パクはカゴからタオルを引っ張り出し、器用に手足を拭く。しらゆきもだ。ふたりは、ファスの側についておく事にしたようだ。御方サマの縄張りで、守り神がついているから安全だとしても、警戒は怠らない魔猫たちである。
交代制と決め、次ははやてとダイチ、その次はオネムとソラ。順繰りに暑気払いをする事数時間…。
「ぶにゃにゃー…」
「んーにゃあ」
「にゃむむー」
「なうー」
遊びきったパクたち全員、満足気な顔でお互いを拭いていた。少しお腹すいたな、とカゴを見る。そこにおやつがあると、パクたちは知っている。
「にゃむー、にゃむー」
「んにゃ、んにゃー」
食べたいオネムとソラが、眠るファスを揺り動かす。幸いすぐに目を開け、ぼんやりとしながら身を起こした。起きた!とみんなでスリスリすると、ファスは微笑みながら撫でてくれる。
「おはよう…。ごめんね、寝ちゃってたんだ……。みんな、何もなかった?」
「にゃーにゃ。にゃあ、にゃー」
「にぃにぃ」
「よかった…、たくさん遊べたんだね。そうだ、お茶飲もうか」
ファスはいそいそと顔を洗い、スッキリとした顔でおやつの準備を始めた。ひと眠りして元気になったようだ。まずは全員、水分補給。今日のおやつはうめの甘露煮。そして、
「これ、作ってみたんだ。クラッカーっていうんだって」
「にゃ?」
クッキーより薄い。カリカリしていて、塩気がある。パクがカリカリと食べていると、オネムの目が輝く。
「これにね、うめジャムをのせて……はい、どうぞ」
パクは頷き、カリッと一口。クラッカーの塩気とジャムの甘酸っぱさが広がる。
「にゃああぁぁぁぁ……!」
「にゃむ、にゃむむ!」
パクの反応で分かったのだろう、おいしいと。カリカリ好きなオネム、珍しくみんなより先に前に出る。ファスは何もつけていないのと、ジャムをつけたものをお皿に入れて、まずはオネムへ。そして、みんなに配った。
全員の尻尾がピンと立っている。気に入ってくれたようだ。
さっぱりしたお菓子はないだろうかと探し、見付けたクラッカーのレシピ。乗せるものによっておつまみにもできるようなので、御方サマと守り神様にも作ってみよう、とファスは頷く。きっとパクたちも食べる筈だ。
「そうだ、戻ったらカイ達にも…。気に入ってくれるといいな」
「にゃあ、にゃにゃあ!」
「んにゃにゃ、にゃ!」
まんまるの輝いた目でおかわりを求める家族に、ファスはカゴから甘露煮と山盛りクラッカーを取り出した。
にゃあにゃあと歓声が上がる。今年の夏も、全員元気に過ごせそうである。
……今日のお供えはあの、『くらっかー』なるものか。
守り神は夕飯時を楽しみに、わさわさと木々を揺らしていた。
「……」
「……」
「……気持ちは分かるが、依頼を聞く時ぐらいは起きろ。寝そべるな」
「あ、うん。いいんだよトオヤ君…。こうして出てきて、聞きに来てくれただけでも。受ける受けないは別の話だろうし……」
王都の別次元の暑さ、極度の癒し不足、おいしいもの不足、完全な嫁不足。
異様な程の不足が重なり、カイとうららはソファに寝そべっていた。何処から見ても完全なる無気力。いっそ清々しい。立っているのはトオヤと、執務室の主であるアレクの二人であった。
「それで…どお、トオヤ君。この依頼」
「……『南地区で魔物活性化。至急、Cランク以上の冒険者募る』」
聞いてはいるだろうが、二人はピクリとも動かない。
「南地区には確か…暑い気候の土地にしか生えない薬草があったな。以前、中々採りに行けないと全員落ち込んでいたか。ついでだ、土産でそれも採っておく、」
「よーし!!どれだ?どの薬草だ?!」
「師匠から保存できる入れ物借りてくるよ!!」
「受けるようです」
「ありがとうトオヤ君!!!」
俄然、やる気に満ち溢れた二人は、夏の暑さにも負けず立ち上がる。
アレクは、高ランク依頼を片付けられると泣きながら、トオヤの手を掴んでブンブン振った。やはりSランクパーティを動かすには、冷静な男を挟むのが効果的なようである。
王都は今年も暑いが、冒険者三人組は秋の再会を楽しみに、なんとか乗り切れそうだった。
改めまして、この場を借りて暑中お見舞い申し上げます。
外へ出れば熱気と湿気、えげつねぇ暑さにも負けずに戦っている皆さんへ。少しでも癒し……と感じてくれれば幸いです。
体調に気を付けて、お過ごしください




