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オマケの魔猫と人の子   作者: 原田 和


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19/19

19. 時々、たなばた




季節はすっかり夏。

梅雨も明け、カンカン照りの太陽が顔を出し、容赦ない熱気が地上に降り注ぐ。

人通りが絶えず賑やかな王都、毎日喧騒で溢れている冒険者ギルドも、この暑さのせいか普段より大人しく静かになった気がするそんな夏。

ファスとパクたちは、毎年恒例の薬草群生地にお邪魔していた。

守り神様に挨拶を済ませ、涼しい内に全員で薬草採り。午後の暑い時間は無理をせず、巣や小川近くで涼みながら花々を愛でたり読書したり、のんびりと過ごす。


 「…よし、」


そんなゆったりとした時間が流れる中、ファスは小さな台所で腕まくり。パクたちはすやすやお昼寝中だ。

先日、みんなで読んだ本にあった行事。今日は『たなばた』という日らしいのだ。

技芸や裁縫の上達を願う日。神様の為に着物を織って秋の豊作を祈り、人々の穢れを祓う禊の日。

ファスはなんとなく惹かれ、隅々まで読み漁った。そして、その日に食べるお菓子があると知ったのだ。その名は『さくべい』。

これは、お世話になっている御方サマと守り神様に作りたい。そう思い立ったファスは気合いを入れ、取り掛かる。初めて作るものなので、基本に忠実に。

用意した粉類と花蜜、塩を混ぜ合わせ、水を加えて生地を作る。パン作りで慣れているファスの動きは、迷いがない。粉気が無くなるまで練り、ふわりと柔らかい生地になれば、丸くして涼しい場所で一休み。

その間にボウルを洗い、揚げ物の準備。


 「この形は、やったことない。縄の形……だったよね、確か」


次は成形だが、むぎなわ、と呼ばれる形が一般的らしい。絵図は確かに縄のような形をしていた。

何か、お手本はないかと巣を見渡すファスの目に、ポポワタゲの糸束が。

しらゆきとオネムが、こうしてひねって置いておく、と器用に束にしていたと思い出す。


 「えっとこうして、あ、先に棒みたいに伸ばそう」


手がかりを得たファスは、生地を分け伸ばしていく。それから糸束を作るように、千切れないよう慎重にひねる。絵図で見たものと似た感じだ。ファスの目が輝いた。

コツを掴み、手早く成形を終えると、あとは低温で揚げるだけだ。


 「揚げ過ぎると黒くなるから、気を付けないと……」


温まった油に、崩れないようそっと滑らせるように投入。じゅうぅ、と浮き上がってきたら、引っくり返して両面きつね色に。味見用の小さな欠片も忘れずに入れ、どんどん揚げていく。

小さな巣に、いい匂いが漂う。風通しがいいように木戸も開けているので、外にもふわりと流れていく……。







 「できた……!」


ファスは汗をふきふき、初めての『さくべい』を見る。見た目は綺麗なきつね色、大事なのは味だ。

水分補給をしっかりとして、欠片をいざ味見。


 「……」


外はさっくり、中はもちっとしていてほんのり甘い。このままでも食べられるけれど、パクたちには物足りない甘さかもしれない。


 「ジャム……。ううん、花蜜と、そうだうめシロップ。好きな方をつけて食べれるようにしよう」


今年も、御方サマからうめが贈られたのだ。全員でシロップとお酒を作り、少し前にできていた。それを思い出し、ファスは準備すべく振り返る。

……台所の入口に、期待に輝く六対の目が。そしてテーブルには、同じく輝く金の目を向ける御方サマ。外の大木がわさわさ揺れる。

全員、ファスが集中している姿を見、揚げ物中は危ないからと言われているので、大人しく静かに、けれどワクワクと新しいお菓子を待っていてくれたらしい。


 「お、御方サマ、気付かずすみません。今すぐお茶を用意しますねっ…!」


 「よいのじゃ。うまそうなにおいを、ぞんぶんにかいでおったからの。それより、それはなんじゃ?」


 「これは、さくべいという揚げたお菓子です。たなばたの特別なお菓子と知ったので、作ってみました」


 「とくべつとな?!」


 「にゃあ!にゃあぁぁ!」


 「うん、みんなのも勿論あるからね。もう少し待っててください」


ファスはお茶を、パクたちはにゃあにゃあとテーブルセッティング。すぐにおやつ準備は整った。

こんもりとさくべいを乗せたお皿に、花蜜とうめシロップを入れた小皿と共に、まずは守り神様へ。祈っている内に、ひゅんと消えた。

気に入ってくれるといいなぁ、とファスたちは微笑んだ。







 「うむ、うまい!モチモチなしょっかんがよいのぅ」


 「にぃ、にゃんにゃ」


 「にゃむむ、にゃむ!」


 「わらわは、うめがいいのぅ。それにしても、たなばた、か。ニンゲンはいろいろとかんがえだすのだな」


初めてだったが、好評で次々と食べてくれる。お皿は空になりそうだ。ファスはほっと一安心、昨日作っておいたクッキーもテーブルへ。


 「王都では知られていないようですけど、東の国では華やかな飾り付けをしたり、魔除けの笹にお願い事を書いた紙を吊るしたりするようです」


 「ふむ…。ファス、おぬしはなにかねがいごとはあるのか?ほしいものがあるなら、わらわがてにいれてくるぞえ」


目を丸くしながら、ファスはおかわりを配る。


 「こうしてあまいモノにありつけるのは、おぬしのおかげだからの」


 「いえ、そんな!充分ですよ。うめのお裾分けもいただいて、何よりこうして此処に居ていいって許可もくれて…!」


 「そうか?まぁ、むりにとはいわん」


こうして遠慮するのは分かっていたので、御方サマはあっさり下がった。

たなばた。棚機(たなばた)か。一つ、ファスと魔猫どもに着物を織ってみるか。と心の中で頷く。


 「では、なにかじょうたつしたいとねがうことはあるのか?」


 「そうですね……、やっぱり、料理の腕でしょうか。もっとうまく作れるようになったらいいなぁ、と思います」


 「ファスらしいのぅ。それはわらわもねがいたい。じょうたつすれば、またうまいモノがたべられるのだからな」


 「にゃあ、にゃあにゃ!」


パクたちも、それがいいとにゃあにゃあ声を上げる。ファスの願い事が叶いますようにと、全員お祈りポーズだ。

ファスは一瞬目を丸くし、そして嬉しそうに微笑む。

ありがとうを込めて、ぎゅうっと団子になる仲良し家族を、御方サマは頷きながら眺めていた。

守り神は、空の皿を持ってじりじりと近付く。おかわりを求めて。





後日。

御方サマから着物を贈られたファスとパクたち。恐れ多くて飾っていたが、それが物凄い魔物除け効果を発揮し、カイ達に何処で手に入れた??!……と詰め寄られるのは別の話。





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