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オマケの魔猫と人の子   作者: 原田 和


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18/19

18. 時々、蒸し騒動




王都では今、蒸し料理が爆発的に流行っていた。

始まりは、屋台料理であった。そこで提供される料理は一風変わっていたがおいしい、しかも健康と美容にもいい。と広まり、手軽に作れるとあって、提供する飲食店が増えたという。その為の、蒸し器なるものも売れに売れているとか。最近の主婦達の会話は、独自に編み出した、我が家の蒸し料理自慢らしい。

そして、此処にも流行りに乗っかる男が一人……。


 「えーと何々……?まず洗う?すぐには使えねーのかよ」


冒険者ギルド。

今日も今日とて、騒がしい。併設された酒場には、まだ昼にも関わらず酒を吞み交わす冒険者達。そのお供はやはり、


 「マスター!肉くれ肉!」


 「俺も!やっぱ肉じゃねーと力出ねーよな!」


 「俺は……今日はなんかこう、肉的なメシがいい」


肉じゃねーか。

マスターは心でツッコみ、しばし無言でつまみを作り続ける。傍らには、新品の蒸し器が。

そう、マスターは買い出しの最中、見付けてしまったのだ。いち酒場のマスターとて、情報は仕入れている。当然、蒸し料理の存在は把握していた。簡単に作れるし酒のお供にも最適だよ、という店主の勧めでついに買ってしまった。予算内で買える値段であったのもある。

しかし、焼いて炒めてクッタクタに煮る!……な料理たちしか作った事がないマスターにとって、蒸す行為は未知の領域だった。何気に食べた事も無い。


 「味を知らんのは痛いな……」


つまみを冒険者達に持って行かせ、店主がくれたメモを隅々まで読む。蒸し料理は、割となんでもできるようだ。それこそ、肉でも燻製物でも相性が良く、野菜も旨味が増しおいしくなるとも。

おお、と声を上げるマスターだが、大事な事が書かれていないと気付いた。作り方だ。

おおう、と嘆くマスター。店主は、鍋で湯を沸かしてコレに材料ぶっこんで載せれば勝手にできるよ!と言っていたが、余りにも雑過ぎる説明である。

あれだけ流行っており、これだけ人が居るのだ、作り方を知っている者が居るだろう。そう切り替え、カウンターからギルドを見渡すマスターの目に、その人物が入った。


 「じゃ、少し待っててくれよファス。すぐに終わらせるから」


 「はい」


Sランクパーティに手を振る、いつぞやのメシウマ少年。マスターはカウンターを飛び越えた。










 「そ、それなら知ってます…。え、その、何を蒸したいですか……?」


怯えさせてしまった。対応するのが無邪気な冒険者ばかりなので、少し威圧的だったかもしれない。

マスターは内心で猛省しながら、冷蔵室から材料を持ってくる。買い出ししたばかりなので、今は何でも揃っていた。


 「とりあえず、一通り味見をしたい。食べた事がなくてな」


 「わ、分かりました。大きい蒸し器ですし、それぞれ一種類ずつ作れそうです」


 「見せてもらってもいいか?」


はい、と包丁を握るメシウマ少年。怖がって、指を切ってしまわないだろうかとハラハラ見守る。

が、しかし意外にも素早かった。小気味良い包丁の音を鳴らしながら、食材を切っていく。その表情は、楽しそうだ。


 「お湯を沸かしてる間に、全部切っておいて…こうして、入れていきます」


 「ふんふん」


 「あ、綺麗な布巾か、調理用の紙はありますか?」


 「紙……確か此処に、ああ、あった」


使い所が無く、しまい込まれていた紙を持ってくるマスター。それを広げ、蒸し器の大きさに合わせ切り取ると、少し湿らせ敷き込む。そして食材を入れていく。

すっかり沸いて、湯気を上げる鍋の上に重ねて置き、蓋をする。


 「これで、十分……二十分くらいかな。様子を見て、蒸していきます」


 「おおぉ、ふんふん。手慣れてるな、よく作ってるのか?」


 「は、はい。家族が好きなので……特に、野菜がおいしいってたくさん食べてくれるんです」


 「肉は食わんのか?」


 「食べます……あ、お肉をおだしに漬けて、それを蒸したのが一番のお気に入りです」


マスターは、ハッとメシウマ少年を見る。今のは、少年が独自に作り上げた蒸し料理に違いない。しかも、家族大絶賛のうまさ。


 「……そ、それは…俺にも作れる感じでもない感じか?」


 「……?おだしがあれば、誰でも作れると思います…」


 「ふんふん。そのおだしというのは?」


マスターが真剣に、おだしの作り方をメモしている間に、蒸し器からいい匂いが漂う。

作ったからには、最後まで。メシウマ少年、もといファスは、蓋を開けて確認。クシで刺し、抵抗なく通ったので火を止める。調理台に用意しておいた皿の上に一段目、二段目と開けていく。


 「いー匂いすると思ったら、それ蒸し料理だよな?!」


 「え、」


 「あっあいつ、めちゃうまメシ作るヤツじゃ……!」


 「え、てことはアレも絶対うまいやつじゃん!!」


目敏い冒険者達が、いつの間にかカウンターに群がっていた。できあがった蒸し料理を見る目はハンターである。固まるファスの前に、マスターが仁王立ちすると、少しだけ圧が治まった。


 「これは味見用に作ったもんだ。お前らにじゃねーぞ」


 「はいはいはい!味見なら俺もする!」


 「俺も俺も!多様な意見が必要だろ?!だろ??!」


 「何が多様だ!普段使わねー単語振り絞りやがって!!そんなに食いてぇなら野菜食え!!」


いただきます!!


 「なんだとぉぉぉぉ???!!」


添えた野菜すら残す、偏りが過ぎる冒険者共が一斉に食いたいと声を揃える。マスターは驚愕を隠せない。オロオロとするファス。

カウンターと調理台が間にあるので、飛び掛かられる心配はないが、このままではまた、怯えさせてしまう。


 「何やってんの!!強面がそんな一斉に来たら怖いでしょ!散って散って!順番だよ!」


Aランク冒険者、うららの一喝が飛んだ。そのもう少し後ろ、酒場の入り口には、カイとトオヤも。何故か、Sランクは羽交い絞めにされていたが。だが、天の助けである事は変わりない。


 「ファスさーん、どれがオススメ?どれもおいしい?」


一番を取ったうららは、身を乗り出して覗いている。

……天の、助け……だろう、多分。











 「にゃああぁぁぁぁ……!」


 「にいぃぃぃぃ……!」


パクたちは、大好きな蒸し料理に夢中だ。どれも、何も付けなくてもおいしい。満遍なく確保し、にゃあにゃあ賑やかに食べ続ける。

その中に混じって、うららも幸せそうに唸る。


 「ん-!このお肉ホントおいしい!」


 「よかった…。まだあるので、たくさん食べてくださいね」


 「んにー、んにゃあ」


 「あ、お野菜だね。ちょっと待ってね」


カイとトオヤは無言で食べ進める。おいしいと言葉少なになるのが、この二人なのだ。

ファスからおかわりをもらい、ソラはくるると喉を鳴らす。次に来たしらゆきは、にんじんが気に入ったようだ。甘くなっておいしさが増したにんじん、少し多めを希望する


 「トマトもあるよ」


 「にぃ、にー!」


ころんと一つ、お皿に入れてもらい、しらゆきもごきげんだ。


 「それにしても、凄かったな。すぐ助けられなくてごめんな、ファス」


 「いえ、マスターの方も、いい人だったので。それに…」


ファスは、厨房の様子を思い返す。

調理器具もどれも大きくて、けれど大事に使っていると分かる程、手入れされていた。自分の仕事に誇りを持っているのだ。マスターのその姿勢は、


 「とてもカッコイイと思うんです」


 「………ん?」


 「ああいう所で作った事なかったので、なんだか凄いなと」


 「ほお」


……カイが嫉妬している。トオヤとうららは、食べる手は止めず見守る。パクたちも不穏な空気を察知し、モグモグしながら耳を動かす。


 「やっぱり、自分の仕事に誇りを持ってる人って、空気が違うんですね。カイ達がいつもカッコよく見えてしまうのは、その自信が出てるからなんだって、思いまして」


 「いつも……?そう?俺、ファスの中でいつもかっこいい?」


 「はい、皆さんかっこいいです」


あ、大丈夫だ。トオヤとうららは、少し照れながら食べ続ける。カイは隠さず上機嫌だ。パクたちはにゃあにゃあとごはんに戻った。




余談だが、教えてもらったおだしに漬けた蒸しお肉。マスターの一人晩酌の仲間入りを果たしたらしい。







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