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オマケの魔猫と人の子   作者: 原田 和


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16/19

16. 時々、ふかふかパン




はやては目を覚ました。まだ、薄暗い早朝だ。

ぼんやりしたまま、ベッドを見渡す。みんなはまだ、夢の中。けれど、ファスの姿がない。

そっと抜け出し、ぐいぃ、と体を伸ばすと台所へ。

嗅ぎなれたいい匂いがする。ひょいと覗くと、ボウルを運ぶファスが居た。


 「なぁう」


 「はやて、おはよう。起こしちゃったかな」


 「なーな」


挨拶代わりのすりすりを終えると、椅子に上り一緒にボウルを覗き込む。そこには、すっかり発酵して膨らんだパン生地。はやての尻尾がピンと立った。

確認の為、人差し指を入れ頷くファス。はやてもいそいそ手袋をつけ、そっと触れる。

柔らかくてふかっとしていて、ほんのりあたたかい。


 「なー……!」


ふか、ふかふか。

はやてが喉を鳴らして楽しんでいる間、ファスは準備を進める。いつもの丸いパンもいいけれど、今日はちぎりパンにしてみるつもりだ。打ち粉に刻んだドライフルーツ、大きめの四角い容器、めん棒を台の上へ。


 「まずは生地の空気を抜いて、平らに伸ばす。あ、はやてもやる?」


 「なうっ」


めん棒を持つはやてに、にこりと微笑み生地を台に広げる。一緒に空気を抜くと、めん棒を器用に転がし、均一に広げていく。はやては真剣だ。平べったくし過ぎてもいけないと、力加減に気を配る。


 「な?なーおう」


 「すごく上手だよ、はやて。次はこれを生地に散らして……」


生地にドライフルーツを満遍なく、そして破れないよう巻いていく。初めて見る作り方に、はやての目が輝く。フルーツがこぼれない様巻き込んで、うずまき状の筒ができあがった。最後にしっかり端を合わせておく。


 「あとは切って、並べて二次発酵」


 「なう、にゃ!」


 「切ってくれるの?…じゃあ、お願いしようかな。八つにして、この中に入れたいんだ」


 「なー…」


はやてはあちこちから筒を観察、そして肉球を光らせ、小さく風の刃を作った。一つ二つ三つと数を増やし……、


 「なうっっ」


整列した風の刃が、すぱんっと優しく筒を切った。綺麗なうずまきの断面に、ファスは思わず拍手。ふたりで慎重に並べ入れ、笑い合う。


 「発酵が終わったら、後は焼くだけ。その間にスープ作っておこうかな。ありがとう、御蔭で早く終わりそうだよ」


優しく撫でられ、はやてはゴロゴロ喉を鳴らした。

今日の朝は焼き立てパンと、スープ。みんなで食べるのを楽しみに、はやてはお手伝いを続けた。






……ふんわりと巣に広がる、焼き立てパンの香りに、パクたちはばっちり目を覚ました。

それぞれぐいぃぃ、と体を伸ばし顔を洗い、いそいそと台所へ向かう。


 「にゃあ、にゃーあ」


 「あ、みんなおはよう。よく眠れた?」


 「なーう、なー」


 「にゃんにゃ、にーい」


全員にすりすりされ、ファスも笑顔で優しく撫で返す。今日もぽわぽわはあったかい。パクたちは挨拶を終え、一緒になって台を覗き込む。そこには、ふっくらうずまきパン。甘いフルーツと香ばしい香りが食欲をそそる。まんまるの目が輝いた。


 「ぶにゃ!」


 「綺麗でしょ、はやてが切ってくれたんだよ。まだ熱いから、もう少し冷ましてからね」


 「にゃむむっ」


 「んにゃ!」


みんなから褒められ、テーブルを拭いていたはやては、ででんと胸を張っていた。

にゃあにゃあとお皿を運び、セッティングを終えるとスープがよそわれ、パンも運ばれてくる。


 「ちぎりパンっていうんだって。こうして一つ一つ、取れるんだよ」


 「にゃー…」


まだあったかいので、ファスが一つずつお皿に入れていく。いつもより大きくて、食べ応えがありそうだ。全員に行き渡り、いただきます。

まずは、小さくちぎってふうふう冷まし、ぱくりと口へ。外はさくさく、中はふかふか、ほんのり甘い。

全員の尻尾がピンと立ち、ゴロゴロ大合唱。その様子でよく分かったファスは、にこりと笑った。


 「ゆっくり食べてね、スープのおかわりはあるから」


 「にゃ!にゃにゃ!」


琥珀色のスープは、優しい野菜のおだし。薬草も少し入っているようだ。ハーブの香りもよく合う。これもゴロゴロ大合唱。ゼイタクで幸せな朝ごはんだ。

このパンも好きジャム入れてもきっと合う、とにゃあにゃあ賑やかな中、はやてはパンをゆっくり味わっていた。


 「なー……!」


いつものまるパンも好きだが、はやては特に、ふかふかが好きなのだ。こうして大きくて、外はさくっとしているパン。中がふんわり過ぎず、ぎゅっと詰まっていない、その中間が好きなはやて。

そのふかふか好きは、パン生地にも。一次発酵が終わった、膨らんだ生地の感触も気に入っている。

初めてこっそり触れた時は楽しくて、加減せずにふかふかしたせいか、うまくいかなかったとファスを落ち込ませてしまった。それからはそっと、優しくふかふかを楽しむようにしている。


 「ぶにゃ、ぶーにゃ」


 「なう?なーな、にゃ」


そんな、はやてのふかふか好きを知っているパクたちは、分け合うようにしている。ふかふかは大体大きいので、一つずつなのだ。けれど、はやては受け取らない。おいしいからこそ、みんなにも食べて欲しいと思っているようだ。

今も、ダイチのパンを返そうとしているので、そのお皿をファスは受け取った。


 「じゃあこれは、俺がもらうね。はやてとダイチにはこっち……半分こだよ」


渡されたのは、一つ残っていたちぎりパン。ファスはにっこり微笑み、ふたりのお皿に入れた。

勿論、ファスも気付いているので、はやて好みのパンを作る時は、多目に作るようにしている。


 「にゃあ…」


嬉々と食べるふたりをパクが見ていたので、ファスはそっと自分のパンを渡した。

仲間思いの魔猫たち。今日も巣の中には、優しい風景が広がっていた。







 「…早起きしてよかったー……」


 「………」


 「モフモフがほわほわで尊い。そして絶対おいしい。かわいいがかわいい。今日も私がんばる」




……遠征に行く前に会いに来た、冒険者三人組が仲良く倒れているのを見付けるまで、あと少し。






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