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オマケの魔猫と人の子   作者: 原田 和


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15/19

15. 時々、本の日




パタパタと、屋根を叩く雨の音。それを聞きながら、パクは窓から外を眺める。

周りの木々もしっとりと濡れ、伝う雨粒を地面に落とす。パクの耳は、外からの色々な音を拾っていた。

倉庫が開いて、閉まる音。出迎える為、ダイチと一緒に巣の戸を開ける。朝から降り続いている雨は、強くなっていた。

今日の薬草採りは、お休みだ。その代わりに、糸作りに編み物、巣の片付け……とみんなで自由にやっていたのだが、一区切りついてしまった。はやてとオネムが確認している、薬草干しも終わった。


 「ありがとう、倉庫は大丈夫だったよ。しらゆきもソラも、ありがとうね」


 「にぃ」


 「んにゃあ」


足が濡れないようにと、抱っこされたまま帰ってきたふたりは、ファスの代わりに抱えていたカゴをテーブルへ。二つのカゴには、今日の食材。あともう一つはと、しらゆきは重ねられていたカゴを持ち上げる。中には、布にくるまれたもの。


 「に?」


 「んにゃ?」


これは?と顔を見合わせ、ファスを呼ぶ。台所から顔を出したファスは、開けていいよとにこりと笑う。

昨日買物帰りに見付け、倉庫に隠していたようだ。

みんなで集まり、興味津々布を取る。出てきたのは、二冊の本。

新しい本だ!と、全員の目が輝く。急いでテーブルに並べ確認。魔法学と伝奇伝説本だ。


 「にゃあぁぁぁぁ……!!」


歓声が上がる。パクたちは最近、レオたちの影響か、歴史などにも興味を持つようになったのだ。カイ達が持ってくる土産話……各地の伝説や昔話にも耳を傾けているので、きっと気に入る筈、とファスは厳選して手に入れてきた。あらゆる土地の話を収集したものらしく、読み応えがありそうだ。

もう一冊の魔法学も、古代魔法なるものから今に至るまでの過程が絵図と共に分かりやすく載っている。ある意味歴史書となるので、楽しめるだろう。


 「にゃんにゃ、にゃー?」


みんなと同じく喜んでいるしらゆきだが、少し心配そうだ。本は中古でも、安くはない。無理をしたのではと、耳を下げている。ファスは大丈夫と優しく撫でた。


 「今日は、本の日なんだって」


 「にゃ?」


 「親しい人に、本を贈る日。いつもの本屋さんで教えてもらって、それもあって安く売ってたんだ。みんなで読みたいなって思ったのを、選んだんだよ」


王都には、人の世界には本当にいろんな日がある。パクたちは顔を見合わせ、喉を鳴らす。本の日は、大歓迎だ。


 「にゃあにゃ、にゃあ!」


 「喜んでくれて、よかった。お茶入れるね、みんなで読もう」


 「なうー、な!」


うきうきとお手伝いをしていると、ダイチとオネムとソラが、そっと巣の外へ。パクが覗くと、大事にしている花壇の花を選んでいた。ファスへのお返しだろう。

終わるまで、バレちゃいけない。パクはささっとタオルと花瓶の準備。しらゆきとはやては、台所にてファスの動きを見てくれている。


 「んにゃにゃ、」


 「にゃむーぅ」


 「ぶにゃにゃにゃ……」


そそっと戻ってきたのでタオルを被せ、花瓶に見映えよく活け、さささっとテーブルに飾る。毛皮を拭き終えたダイチたちも、満足気だ。


 「わ、飾ってくれたんだ…!ありがとう、華やかになったねぇ」


キレイだねと嬉しそうに眺めるファスに、パクたちはででんと胸を張る。

花を真ん中に、お茶とおやつを配っていく。今日は本の日、読書会の日だ!と、パクたちはまんまるの目を輝かせながら、本を開いた。







 「……」


ファスは顔を上げた。雨の音はまだ、続いている。暖炉の火は、小さく揺らめく。

もうすっかりとっぷり、夜になってしまった。寝る準備をしなければ。そう思うものの、ファスは動けずにいた。


 「みんな、眠くない……?」


 「にゃ、」


 「そっか……」


パクたちは、多少暗くとも問題無いようだ。六対の光る目は、本に注がれている。対するファスはというと、暗過ぎてとうに読めなくなっていた。灯りを付けたいが、膝にパクとオネムが乗っており。集中しているので邪魔もできず。

ファスは暗闇の中、ぼんやりと浮かび上がる花を眺める。時折、ぺらりと捲る音。

懐かしいなぁと、ファスは思い出す。初めて、魔法学の本をお土産に持ち帰った時、こんな風になったことがあるのだ。暗闇の中で、爛々と目を光らせ読み耽っていたパクたち。その時も読めなくなってしまい、仲間に入れず落ち込んでいた。

けれど朝、気付いたパクたちが全員で教えてくれたので、いい思い出として残っている。

なんとか、一緒に読めないか。夜目の鍛え方をカイ達にも訊いてみたが、暗闇で本を読むのはまた違うと言われ。


 「パクたちはともかく、ファスはただ目が悪くなるだけだ。普通に、灯りを付けて読みなさい」


至極最もな意見を、トオヤから頂いた。なので、こうなったらファスは諦める事にしている。

静かに毛皮を撫で、欠伸を一つ。


 「にゃっ」


 「え、」


ぐりん、と。六対の目が一斉に向けられ、ファスは動揺した。


 「にゃあ、にゃーにゃにゃ」


 「にっ」


 「え?」


ぱたんと本が閉じられ、パクたちは俊敏に動き出す。膝から温かみが消え、ファスは辺りを見回す。見えないまま動けば、ぶつかってしまうかもしれない。座ったまま動かず、素早い気配だけを追う。


 「にゃむむっ」


 「オネム、どうしたの?」


 「んにゃにゃ、にゃっ」


 「ソラ?」


てしてしと手を叩かれ、引っ張ってくるので立ち上がり、声が聞こえる方へ向かう。寝室だ。

ベッドに上がると、すっかり寝る準備が整っていた。パクたちがやってくれたらしい。

でもどうして、と首を傾げていると、パクたちも寝る準備。いそいそと潜り込んでくる。


 「みんな…、本読まないの?」


 「にゃーにゃ、にゃあ。にーい、に」


明日、またファスと読む。一緒がいい。

パクはそう言って、丸くなってしまった。あちこちから、寝息が聞こえる。


 「……、……うん、また明日、みんなで読もうね」


パクたちも、あの時の事を覚えていてくれたのだ。落ち込んでいると思われたのかもしれない。

でもこうして、一緒がいいと、仲間だよと、パクたちは伝えてくれる。


 「……ありがとう、おやすみ…」


嬉しくて、温かい気持ちいっぱいに、目を閉じる。

くるる、と小さく鳴る音に、ファスは微笑んだ。







今日は、サン・ジョルディの日だそうです。

本の日。日本では、こども読書の日だとか。いろんな日があるんですねぇ…


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