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オマケの魔猫と人の子   作者: 原田 和


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14/19

14. 時々、いちご日和




ファスはどちらかと言うと、ゆるーい倹約家だ。

薬を売ってもらった報酬は、食費に日用品費、パクたちの知識費……と分けられ余った分は貯金。

それをコツコツ繰り返し貯められたお金は、主に冬の備蓄費用に充てられるのだが。もう一つ。


 「今年は二つも買えた……!」


ホクホク笑顔のファスの手には、二盛り分の真っ赤な粒揃いの実。

そう、いちごである。いちご貯金は、前年より貯まっていたのだ。パクたちが喜ぶ顔を思い浮かべ、ファスも思わず、優しい笑顔。


 「カイ、見てください。おいしそうです」


 「よかったなぁ、あいつらもきっと喜ぶぞ」


そんなファスを脳内でめちゃくちゃ愛でながら、カイも笑顔で応じ、さり気なく荷物を持つ。

今日は天気も良く、まさしく買い物日和。毎年お世話になっている出店に立つ夫婦に頭を下げ、二人は市場を連れ立って歩く。あちこちから活気ある声。それに加え、時折黄色い声も上がった。

王都を拠点としているのだから、カイが此処で買い物をしていても何ら不自然ではないし、珍しい事でもない。が、やはり目立つので注目されてしまうらしい。

慣れていないファスが委縮しないよう、好奇の視線から隠しつつ通りを出る。自分の見た目がいいのは承知しているが、偶のデートもゆっくりできないとなると、


 「……変装するか?」


いや、とすぐに打ち消した。顔見知りが多く居る王都だ。意味が無い。仲間二人から、何してんだお前と真顔で言われそうである。


 「…カイ、俺は平気ですよ」


 「ん?けど、ファス苦手だろ」


 「カイが皆から頼りにされてるんだって、そう思うと嬉しいです。それに」


ファスはそっとカイの手を握り、微笑んだ。


 「…こうして、隣に居てくれると安心できます。だから、大丈夫」


カイはその時程、器用な自分に感謝した事はなかった。

表面上は優しく見つめ、だがしかし内面は。

危ねぇ理性爆発する所だったわ何だっけこのかわいい存在俺の嫁だわそうだったわやべぇめちゃイイめちゃ好きスゲー好き結婚したいいやしてたわくっっっそかわぁぁぁぁ………云々。

と、すこぶる大荒れであった。そしてそれは、自ら城門の壁に激突するまで続いたのである。








 「にいぃぃぃぃぃ……!!」


 「にゃああぁぁぁ…!」


王都裏山。小さな巣に帰り着くと、ファスは早速いちごを洗う。

パクたちが目を輝かせ、しらゆきは更に輝き、手伝う!と手を挙げた。赤いキラキラを、もっと見たいようだ。お願いねと洗い終わった一カゴ分を渡すと、ソラと共に喜々と選り分け始める。


 「にゃむ」


 「ぶにっ」


パクたちも、ヘタを取ったり洗ったりとお手伝い。しらゆきのお眼鏡にかなったいちごは、それぞれのお皿に入れて、まずはそのまま味わうのだ。


 「な、なーおう」


 「俺にも?いいのか?」


いちごが入った小皿を前に置かれ、カイは思わず目を丸くする。はやては当然だ、と頷くと自分のいちごを頬張った。幸せそうに喉を鳴らす。今年もいい出来のようだ。

こういった小さな事で、家族として認められてるのだと分かる。面映ゆい気持ちを隠し、カイも一つ。

しかし、彼の額の怪我には全く触れないモフモフたち。そこは心配していないようだ。

ファスはボウルに盛ったいちごを眺め、どうしようかと悩む。


 「ジャムかな。それとも、いちごのケーキ。たくさんあるしタルトもいいかな。あ、でもいちごのドライフルーツも作ってみたい……」


にゃあにゃあと旬のいちごを味わうパクたちに笑顔を向け、手伝ってくれたカイにもお礼をしなければと考える。

カイも楽しめるもの。


 「パンケーキとスコーンにしよう」


甘さ控えめ、ジャムやクリームを好みでつけるように。ファスは生地作りに取り掛かる。

手慣れたもので、小麦粉に重曹、塩と花蜜と、卵に牛乳にバターをささっと必要分用意。まずはパンケーキからだ。ジャムは時間が掛かるので、前に作って好評だったいちごソースを。

段取りを決め、黙々と集中して作り続けるファスの後ろ姿。カイはお茶を飲みながら、実に幸せそうに眺め続ける。パクたちはまんまるの目で、山盛りボウルを見つめていた。もう少し、食べたい。

ちらとファス、カイに目を向け、パクたちはそーっと手を伸ばす。


 「一個ずつだぞ」


 「にゃっ」


にんまりと笑うカイが、此方を見ていた。気付かれていたらしい。

Sランク冒険者の目を盗むのは、容易ではない。パクたちは大人しく、一粒ずつ。そして、これで共犯だとカイのお皿にも入れてやった。









スコーンだってよ、と手渡された包みから、ほんのり甘い匂い。しかも、ジャム付きだ。至れり尽くせりである。


 「ありがとうファスしゃん……!私はなんて幸せ者なんだろう……!!」


うららは手渡された包みを大事に抱え、聖母とモフモフたちに思いを馳せる。思わぬ手土産に、心もほこほこだ。これで明日も頑張れる。おいしいって、大事。


 「俺達の分まで作ってくれたのか。いちごはパクたちの好物だろうに」


 「いつも多めに作るから大した事ないってさ。今日はパンケーキも作ってくれたんだけどな、ジャムとは別のいちごソース。それがうまい」


 「何それどんなの?!」


瓶に詰められた赤。それを見ただけで、にゃあにゃあと賑やかに食べる姿が浮かぶトオヤだ。

カイは羨ましがるうららに、いちごソースなるものを説明している。本人曰く、嫁自慢。

すり潰したいちごに、花蜜と塩少々で味を調え、更にざっくりと切ったいちごを加えたものであったらしい。残念ながら食べられなかったトオヤは想像するしかないが、多分、うまい。

うららはとても食べたそうにしている。


 「カイなんかに遠慮せず行けばよかった」


 「なんかってなんだよ」


 「んー、でもさ。こうやって、カイとトオヤとで甘い物で盛り上がれるようになるなんて、意外だよね」


あからさまに話を逸らしたうらら。だが、特に追及される事もなく同意が返ってくる。本人達が、一番意外だと思っているのだ。


 「ファスのに限る、だけどな」


 「俺もだな。やり過ぎな味は、やはり苦手だ」


 「私でも偶に、甘過ぎって思う時あるもん」


 「お前は何でも来いな奴だと思ってた」


失礼だなぁ、と膨れるうらら。けれど、このやり取りが楽しい。

組んだばかりの頃は、ここまで腹を割って話せるようになるとは思っていなかった。互いのプライベートには入り込まない、淡泊な関係。自分達は、それで丁度いいと思っていた。

緩やかに変わっていったのは、間違いなくファスとパクたちと知り合ってからだ。

今でも線を引いている部分は互いにあるが、それを気遣うようになり、壁ではなくなったのは大きな進歩。


 「また今度、差し入れ持って行くか…」


 「新婚の邪魔すんなや」


 「もう受け流していいか?」


うららは感謝も込めて、大事に大事に包みを持って、二人を追ってギルドを後にした。




……三人が三人共、顔つきが穏やかになった。大きな黄色い声の中に、そんな小さな声も混じっている事は三人は知る由もない。


 「あいつら、今日も仲良いな」


 「だなー。……なんか、うまそーな匂いすんなぁ。腹減ってきた」


若手の冒険者達は、今日も先輩冒険者達に見守られている。






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