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オマケの魔猫と人の子   作者: 原田 和


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13/19

13. 時々、モフモフとカリカリと




しとしとと降る、春の雨。こんな日は山は肌寒く、まだまだ暖炉が活躍中。

毛皮を濡らして帰ってきたパトロール隊、パクとはやてとソラを出迎え、ファスは用意していたタオルで丁寧に拭いていく。

途中で降られてしまい、雨宿りしながらの帰り道だったので、薬草もあまり採れなかったようだ。


 「にゃあ、にー」


 「大丈夫だよ、みんなお疲れ様」


 「なぁう」


 「んにゃあ」


ダイチとオネムが、暖炉前に毛布を敷いている。そこへ移動し、新しいタオルをかけられ一休み。

ファスはお茶の用意の為、台所へ。しらゆきがお湯を沸かしてくれていた。


 「ありがとう、しらゆき」


 「にぃ」


 「お茶と、…少し早いけど、ごはんにしようか」


ファスは作っておいた、おこげを持ってくる。焼いて干したお米は、普段のごはんとはまた違い、パクたちのお気に入りだ。ザルのおこげを、しらゆきは輝いた目で眺めた。

これから少しの油で揚げて、カリカリにする。ファスは危ないよ、としらゆきを椅子へ運んで、腕まくり。

小さな巣は、すぐにおいしい匂いで満たされた。うとうとしていたパトロール隊が、ばっちり覚める程に。







 「にゃむ、にゃむぅ」


 「おかわり?はい、どうぞ」


オネムはおこげを追加してもらい、喉を鳴らす。ファスのごはんは全部好きだが、中でもオネムのお気に入りはカリカリだ。この食感と香ばしさがいいのだ。

カリカリが出た時は、必ずおかわりをすると決めている。それに気付いているファスも、オネムのおかずだけ少なめにしていた。


 「んにゃ、んにゃあにゃ。みゃ」


 「え、さくらの所まで行ってたの?」


 「んにー」


同じく、おかわりをしたソラからさくらの報告。だから帰りが遅かったのかと、ファスは本日のパトロール隊を労った。

もうすっかり定番になった、お花見。今年もあのさくらを見に行こうと、みんなで心待ちにしていた。まだ蕾が多かったが、少しずつ咲き始めていたとの事。雨が上がって、お日様が顔を出したら、一気に花盛りになるだろう。


 「じゃあ……二、三日後には見頃になるかな」


 「にゃあ、にゃああ」


パクたちの予報では、雨は今日まで。明日からは晴れ、暖かくなるそうだ。

今回のお花見は、レオたちも一緒にと約束していた。予定が合うといいのだが。


 「お弁当、何がいいかな…」


 「にゃむにゃ!」


おこげ!と手を挙げるオネム。パクたちもそれがいいと賛同する。

おこげは、お弁当にした事がなかった。レオたちも、まだ食べたことがない筈。ファスは考えながら、みんなにおかわりを配る。


 「カリカリを味わって欲しいから、揚げるのはその日にして……。スープもつけようかな。おかずは…」


 「にゃあにゃ、にーい」


 「うん、おやつもだね」


お花見を楽しみに、にゃあにゃあと盛り上がる。それをにこにこと眺め、ファスはお弁当作りに気合いを入れるのだった。






にゃあにゃあにゃいにゃい。

本日快晴、お花見日和。お花見は初めてのレオたちは、さくらを見るなり駆け寄った。薄桃色の花弁が、出迎えるよう降り注ぐ。

七分咲きといった所か、見事なさくらに溜息が出る。何度見ても、力強く美しい姿だ。

 

 「にゃいぃぃぃ……!」


 「にゃーあ、にゃ!」


レオたちもすっかり見惚れて、ゆっくり歩き回り、薄桃色の景色を堪能する。時折、ひらりと舞い落ちる花びらを掴まえたり。楽しそうだ。


 「うららから聞いてはいたけど、確かに立派なさくらだ。まさかこんな穴場があるなんて…」


 「はい、本当に…!パクたちが見付けてから、毎年見に来てるんです。毎年違う美しさがあって、見惚れてしまいます」


ファスに同意しながら、保護者として付いてきたシドも、立派なさくらの古木を眺める。

レオたちが周りで動くたび、花びらも共に遊ぶようにくるくると舞う。毛皮には花びら。はしゃぎ回る姿に、シドの口元も緩んだ。

王都ではこうはいかない。どこもかしこも人で溢れ、とてもレオたちを連れてはいけないのだ。

ここなら、ゆっくりできそうだ。敷物を広げていたファスを手伝い、シドは腰を下ろす。お茶を受け取り、しばし見事な景色で目を楽しませた。

……ところで、いつもなら必ず居る冒険者三人組。今回はまだ肌寒い時に依頼が入り、旅立って行った。本来ならすぐに終わる予定であったのが、向こうで高ランク依頼が片付かないと泣きつかれ、こうして春の花々がすっかり目覚めても戻れなかった。ただいま全力で駆逐中。

仕事だから仕方ないです。とファスはモフモフと共に、無事を祈る毎日である。


 「…?それは?」


 「おこげです。お米を食べきれなかった時に、焼いて干しておくと保存食になるんです」


 「へぇ、このまま食べるのかい?」


お弁当の準備をしていると、匂いに気付いたモフモフたちが一斉に駆け寄ってくる。中々圧巻である。興味津々と、レオたちはおこげを覗き込む。


 「こら、手を洗ってからだよ」


 「にゃい!」


急いでオネムとくりに水をだしてもらい、綺麗に洗う魔猫たち。それから、きちっと敷物に並んで座る。


 「まずはスープを温めて、おこげもあっためる?」


 「にゃ!」


 「僕がやろう。何もしないというのもね」


シドがすい、と手を翳すとスープからは湯気が上がり、おこげも皿ごと温かくなっている。その早業に、ファスとパクたちの目は丸くなり、レオたちはキラキラの目をシドに向けた。


 「大した事じゃないよ」


 「す、すごいです…!火も出さずに……」


 「にゃー……!」


 「それより、早く食べよう。おこげは食べた事ないんだ」


シドも、冒険者達と同様に、胃袋を掴まえられているのだった。









 『……ワタシ、おこげっていうのも食べてみたいわ。おいしそうだったもの』


 「んにゃ?んにゃ、にゃーにゃ」


 『甘いの、好きよ。でも……アナタたちが食べてるの見てたら、おいしそうで…』


さくらの精はかぷりとケーキをかじる。ドライフルーツ入りのパウンドケーキだ。一口で気に入ってくれたのは良かったが、今年のさくらの精は、ごはんも気になってしまったらしい。

ソラは待ってて、とファスの元へ。素敵な景色の御礼、できる限りの事はしたい。


 「これで最後だよ」


 「んにゃ!んにゃにゃー!」


 「にゃむ?」


ファスが渡した先は、オネム。ソラは固まった。

オネムはこの中の誰よりも、カリカリが好きなのだ。他のおかずを減らしてまで、おかわりする徹底ぶり。それを知っているソラ、分けてとは言えなかった。大好きなものを横取りなんてできない。

しゅん…と落ち込むソラに、オネムは首を傾げ、さくらを見た。


さくらのせいが、たべたそうにこちらをみている!

オネムはくちをあけ、たべるふりをした!

さくらのせいが、あわてている!

オネムはもういちど、くちをあけた!

さくらのせいが、なきそうになっている!


 「……にゃむぅ…」


オネムは悩んだが、仕方ないとおこげを持ってさくらの元へ。ソラが慌てて付いてくる。

優しい顔の、さくら色の髪の少女。この子は今年しか会えないのだ。味わえないのだ。


 「にゃむにゃ、にゃ」


 『……!く、くれるの?』


 「にゃむ」


 『ありがとう!どうやって食べたら、おいしいの?』


 「にゃいにゃ、にゃー」


横から、レオがスープを差し出した。これにつけて食べたらおいしいよ、と。ほかほかと湯気が上がっている。

さくらの精はふうふうと冷まし、そうっとおこげをつけて……、


 「わっっ??」


 「えっ?」


ぶわっっ……と、ファスとシドの目の前で、蕾が一気に開き満開になった。ぶわわわわっと咲き誇り、喜ぶように枝が揺れている。


 「にゃあ」


 「にゃい」


魔猫たちが見上げる先には、輝く笑顔で食べ続ける、さくらの精。お気に召してくれて、よかったです。

ソラは喉を鳴らし、オネムに御礼を言った。自分が好きなものを気に入ってもらえて、満足なのだろう。オネムはででんと胸を張っていた。


 『ありがとう、優しいコたち。ワタシも、前のワタシたちも幸せよ!また、会いに来てね』


もちろん!魔猫たちは揃って応えた。






 

 「僕には視えないけど……居るんだろうね」


 「はい。毎年、パクたちはお菓子を持っていくんです。ごはんは初めてですけど…」


シドは、のほほんと答えるファスを見、魔猫たちを見た。

恐らくは、とても貴重、且つ重要な発見である。魔猫は精霊が視える。


 「……。まぁ、いいか」


騒がれるのは、望まない。

シドは今の出来事を、そっと胸の内に仕舞うのであった。






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