13. 時々、モフモフとカリカリと
しとしとと降る、春の雨。こんな日は山は肌寒く、まだまだ暖炉が活躍中。
毛皮を濡らして帰ってきたパトロール隊、パクとはやてとソラを出迎え、ファスは用意していたタオルで丁寧に拭いていく。
途中で降られてしまい、雨宿りしながらの帰り道だったので、薬草もあまり採れなかったようだ。
「にゃあ、にー」
「大丈夫だよ、みんなお疲れ様」
「なぁう」
「んにゃあ」
ダイチとオネムが、暖炉前に毛布を敷いている。そこへ移動し、新しいタオルをかけられ一休み。
ファスはお茶の用意の為、台所へ。しらゆきがお湯を沸かしてくれていた。
「ありがとう、しらゆき」
「にぃ」
「お茶と、…少し早いけど、ごはんにしようか」
ファスは作っておいた、おこげを持ってくる。焼いて干したお米は、普段のごはんとはまた違い、パクたちのお気に入りだ。ザルのおこげを、しらゆきは輝いた目で眺めた。
これから少しの油で揚げて、カリカリにする。ファスは危ないよ、としらゆきを椅子へ運んで、腕まくり。
小さな巣は、すぐにおいしい匂いで満たされた。うとうとしていたパトロール隊が、ばっちり覚める程に。
「にゃむ、にゃむぅ」
「おかわり?はい、どうぞ」
オネムはおこげを追加してもらい、喉を鳴らす。ファスのごはんは全部好きだが、中でもオネムのお気に入りはカリカリだ。この食感と香ばしさがいいのだ。
カリカリが出た時は、必ずおかわりをすると決めている。それに気付いているファスも、オネムのおかずだけ少なめにしていた。
「んにゃ、んにゃあにゃ。みゃ」
「え、さくらの所まで行ってたの?」
「んにー」
同じく、おかわりをしたソラからさくらの報告。だから帰りが遅かったのかと、ファスは本日のパトロール隊を労った。
もうすっかり定番になった、お花見。今年もあのさくらを見に行こうと、みんなで心待ちにしていた。まだ蕾が多かったが、少しずつ咲き始めていたとの事。雨が上がって、お日様が顔を出したら、一気に花盛りになるだろう。
「じゃあ……二、三日後には見頃になるかな」
「にゃあ、にゃああ」
パクたちの予報では、雨は今日まで。明日からは晴れ、暖かくなるそうだ。
今回のお花見は、レオたちも一緒にと約束していた。予定が合うといいのだが。
「お弁当、何がいいかな…」
「にゃむにゃ!」
おこげ!と手を挙げるオネム。パクたちもそれがいいと賛同する。
おこげは、お弁当にした事がなかった。レオたちも、まだ食べたことがない筈。ファスは考えながら、みんなにおかわりを配る。
「カリカリを味わって欲しいから、揚げるのはその日にして……。スープもつけようかな。おかずは…」
「にゃあにゃ、にーい」
「うん、おやつもだね」
お花見を楽しみに、にゃあにゃあと盛り上がる。それをにこにこと眺め、ファスはお弁当作りに気合いを入れるのだった。
にゃあにゃあにゃいにゃい。
本日快晴、お花見日和。お花見は初めてのレオたちは、さくらを見るなり駆け寄った。薄桃色の花弁が、出迎えるよう降り注ぐ。
七分咲きといった所か、見事なさくらに溜息が出る。何度見ても、力強く美しい姿だ。
「にゃいぃぃぃ……!」
「にゃーあ、にゃ!」
レオたちもすっかり見惚れて、ゆっくり歩き回り、薄桃色の景色を堪能する。時折、ひらりと舞い落ちる花びらを掴まえたり。楽しそうだ。
「うららから聞いてはいたけど、確かに立派なさくらだ。まさかこんな穴場があるなんて…」
「はい、本当に…!パクたちが見付けてから、毎年見に来てるんです。毎年違う美しさがあって、見惚れてしまいます」
ファスに同意しながら、保護者として付いてきたシドも、立派なさくらの古木を眺める。
レオたちが周りで動くたび、花びらも共に遊ぶようにくるくると舞う。毛皮には花びら。はしゃぎ回る姿に、シドの口元も緩んだ。
王都ではこうはいかない。どこもかしこも人で溢れ、とてもレオたちを連れてはいけないのだ。
ここなら、ゆっくりできそうだ。敷物を広げていたファスを手伝い、シドは腰を下ろす。お茶を受け取り、しばし見事な景色で目を楽しませた。
……ところで、いつもなら必ず居る冒険者三人組。今回はまだ肌寒い時に依頼が入り、旅立って行った。本来ならすぐに終わる予定であったのが、向こうで高ランク依頼が片付かないと泣きつかれ、こうして春の花々がすっかり目覚めても戻れなかった。ただいま全力で駆逐中。
仕事だから仕方ないです。とファスはモフモフと共に、無事を祈る毎日である。
「…?それは?」
「おこげです。お米を食べきれなかった時に、焼いて干しておくと保存食になるんです」
「へぇ、このまま食べるのかい?」
お弁当の準備をしていると、匂いに気付いたモフモフたちが一斉に駆け寄ってくる。中々圧巻である。興味津々と、レオたちはおこげを覗き込む。
「こら、手を洗ってからだよ」
「にゃい!」
急いでオネムとくりに水をだしてもらい、綺麗に洗う魔猫たち。それから、きちっと敷物に並んで座る。
「まずはスープを温めて、おこげもあっためる?」
「にゃ!」
「僕がやろう。何もしないというのもね」
シドがすい、と手を翳すとスープからは湯気が上がり、おこげも皿ごと温かくなっている。その早業に、ファスとパクたちの目は丸くなり、レオたちはキラキラの目をシドに向けた。
「大した事じゃないよ」
「す、すごいです…!火も出さずに……」
「にゃー……!」
「それより、早く食べよう。おこげは食べた事ないんだ」
シドも、冒険者達と同様に、胃袋を掴まえられているのだった。
『……ワタシ、おこげっていうのも食べてみたいわ。おいしそうだったもの』
「んにゃ?んにゃ、にゃーにゃ」
『甘いの、好きよ。でも……アナタたちが食べてるの見てたら、おいしそうで…』
さくらの精はかぷりとケーキをかじる。ドライフルーツ入りのパウンドケーキだ。一口で気に入ってくれたのは良かったが、今年のさくらの精は、ごはんも気になってしまったらしい。
ソラは待ってて、とファスの元へ。素敵な景色の御礼、できる限りの事はしたい。
「これで最後だよ」
「んにゃ!んにゃにゃー!」
「にゃむ?」
ファスが渡した先は、オネム。ソラは固まった。
オネムはこの中の誰よりも、カリカリが好きなのだ。他のおかずを減らしてまで、おかわりする徹底ぶり。それを知っているソラ、分けてとは言えなかった。大好きなものを横取りなんてできない。
しゅん…と落ち込むソラに、オネムは首を傾げ、さくらを見た。
さくらのせいが、たべたそうにこちらをみている!
オネムはくちをあけ、たべるふりをした!
さくらのせいが、あわてている!
オネムはもういちど、くちをあけた!
さくらのせいが、なきそうになっている!
「……にゃむぅ…」
オネムは悩んだが、仕方ないとおこげを持ってさくらの元へ。ソラが慌てて付いてくる。
優しい顔の、さくら色の髪の少女。この子は今年しか会えないのだ。味わえないのだ。
「にゃむにゃ、にゃ」
『……!く、くれるの?』
「にゃむ」
『ありがとう!どうやって食べたら、おいしいの?』
「にゃいにゃ、にゃー」
横から、レオがスープを差し出した。これにつけて食べたらおいしいよ、と。ほかほかと湯気が上がっている。
さくらの精はふうふうと冷まし、そうっとおこげをつけて……、
「わっっ??」
「えっ?」
ぶわっっ……と、ファスとシドの目の前で、蕾が一気に開き満開になった。ぶわわわわっと咲き誇り、喜ぶように枝が揺れている。
「にゃあ」
「にゃい」
魔猫たちが見上げる先には、輝く笑顔で食べ続ける、さくらの精。お気に召してくれて、よかったです。
ソラは喉を鳴らし、オネムに御礼を言った。自分が好きなものを気に入ってもらえて、満足なのだろう。オネムはででんと胸を張っていた。
『ありがとう、優しいコたち。ワタシも、前のワタシたちも幸せよ!また、会いに来てね』
もちろん!魔猫たちは揃って応えた。
「僕には視えないけど……居るんだろうね」
「はい。毎年、パクたちはお菓子を持っていくんです。ごはんは初めてですけど…」
シドは、のほほんと答えるファスを見、魔猫たちを見た。
恐らくは、とても貴重、且つ重要な発見である。魔猫は精霊が視える。
「……。まぁ、いいか」
騒がれるのは、望まない。
シドは今の出来事を、そっと胸の内に仕舞うのであった。




