第4話 屋敷の採用試験 2
シオリはドアを開けて部屋に入り、アマリリスも後につづいて部屋に入る。広く豪勢な部屋で、絨毯を踏む感覚は足に優しい。1番目の妻の子供の部屋だからかな?と、アマリリスはキョロキョロと見回す。
「バルバラ。マレインの調子はどう?」
「食事は少ししか、食べていません。立つのが辛いと言っていました」
バルバラとシオリが話している横で、アマリリスはベッドを覗き込む。襟にフリルが付いたドレスのようなネグリジェを着た少女が、少し苦しそうに眉間にしわを寄せて眠っていた。母親そっくりで、眉は濃く平行。濡烏色の長い髪はボサボサで、鼻筋が通っている。アマリリスは靴を脱いで、ベッドに上がり込む。
「何しているの?マレインの隣に寝て」
「治癒ですよ。30分くらいかかります」
アマリリスはマレインの冷たい手を握り、目を瞑り意識を集中する。純血はだいたい6歳ぐらいから、親から治癒のやり方のコツを教わり、月に1回練習して取得する。18歳までに取得しないと、純血という生まれでも治癒は永遠にできない。
シオリは半信半疑だが、椅子に腰掛けて待つ事にした。血色の悪いマレインの顔色は少しずつ良くなっていくが、アマリリスは反対に顔色は白くなっていく。
30分以上経つとアマリリスは手を離すが、起き上がらずまた目を瞑る。疲れて眠ってしまった。
シオリは、椅子から立ち上がりマレインを揺すって起こすと調子はどうか聞く。顔つきは治癒前より穏やかだ。
「調子はどう?」
「久しぶりに頭がスッキリして、体がだるくない。ねえ、この子は誰?」
「いいから、寝てなさい。ティートリーに話してくるから」
シオリは有無を言わさずに、無理矢理毛布をかける。2人をしばらく寝かせる事にして、ティートリーの部屋に向かった。シオリがドアを閉めた後に、マレインは顔を横に向ける。長いすだれまつ毛は影を落として、三白眼の菫色の目はアマリリスをじっと見た。
シオリがマレインの部屋に戻ると、マレインは結局眠らずベッドで大人しくしていた。
「人の顔をジロジロ見ちゃダメでしょ」
「可愛い子だなって。何で、女の子が俺の隣で寝てるの?」
「俺じゃなくて私。貴方が男の子だとバレるから、気を付けなさい」
「奥様もお気をつけ下さい。この子は眠っていますが、その話は人前で危険です」
シオリはエメルトに注意されて、口を噤む。バルバラが起きて下さいと声をかけて頬を優しく叩くと、アマリリスは目を覚ます。
「おはよう。家政婦が貴女のお部屋を用意したって」
「……?」
「貴女は、マレインの治癒係してもらうわ。週一回よろしくね」
採用を握る女主人には、終わったら本当の事を伝えようとアマリリスは考えていた。ティートリーはアマリリスが気絶している間に、外堀を埋めていた。疲れるがしばらくの間だけ、我慢するしかないが、正式に雇ってもらい住む場所が確保できたのは喜ばしい。
「名前は何ていうの?」
「アマリリスです、マレイン様」
「マレインでいいよ、アマリリスちゃん」
「私もマレインちゃんで」
横からマレインがアマリリスに話しかけて、シオリは不思議そうに2人の会話を聞いている。息子が異性相手に積極的に話すのを初めて見た。こういう子が好みなのかと、息子の知らない一面を知った。
「髪を縛らないで伸ばしっぱなしで寝てる時に痛くない?」
「体調悪くて構ってられる余裕はなかった」
「そうだ!マレインちゃん、じっとしていて」
アマリリスは自分の髪飾りを外してシーツの上に置く。マレインの髪を手櫛で整えていくと、マレインは固まる。シオリがバルバラと呼び付けてブラシを持っこさせたので、お礼を言って借りて揃えていき前サイドに一つに纏める。アマリリスの髪飾りで、纏めた髪を留める。
「これなら寝る時痛くないでしょ?髪飾りはあげる」
「いいの?アマリリスの大事な物じゃないの?」
「母様が2度目の結婚する前に、故郷の夕霞に帰って、沢山とんぼの髪飾りやアクセサリーを買ったので大丈夫です」
「2度目!?アマリリスは、お母さんが2度目に結婚して出来た子供なのね」
「母様は3度目に結婚して私を産みました。私の父様はプランタン国に住んでいましたが、夕霞に滞在していた時に、とんぼの髪飾り等を買いに来た母様と偶然出会いました。」
「はあ!?2度目の離婚は不倫が原因!?」
エメルトはシオリに「奥様、子供の教育に良くない発言ですし、人様の家庭です」と注意して、マレインはどういう事?とアマリリスに聞く。
「母様と父様はしばらく文通しただけで、母様は2人めの旦那さんと離婚してから父様の家でメイドとして働いて結婚しました」
「うちの奥方に1人だけ元メイドはいるけどね。ありえないと思っていたけど」
「ちなみに、父様は2回結婚してます。紅霞は寿命が数百年あるので、2回結婚するのは珍しくないそうです」
シオリは全て衝撃だった。数百年の寿命と、結婚の価値観。マレインは2回結婚…と真っ青になって、ぶつぶつ呟いている。
「ティートリーは紅霞の人間については、僕の方が詳しいと偉そうなのに、あいつは寿命の事なんか教えてくれなかった」
「あんな事があったから、ソレイユさんと連絡が出来ないですからね」
「そもそも、紅霞の知識なんてソレイユさんから全て受け入りなのよ」
シオリはエメルトにティートリーの不満を愚痴る。アマリリスは気づいた。フットマンと従者がいた時は、ティートリーを旦那様と呼んで影で呼び捨てにして使い分けている。自分の母親は客の前だろうが、構わず夫を呼び捨てにしていた。




