第2話 山で暮らす親子 2
「妻は半年前に亡くなり、自分も寿命が近いのが分かります、体が衰えているんです…寝込む日が多くなりました」
泉は妻は年上でしたから…と力なく呟いた。ティートリーは、流石に迷った。異性との治癒は、デメリットが大きい。
ティートリーは混血は見たことがあっても、純血は今まで見た事がなかった。紅霞は、桜良国人だ。桜良国から紅霞の純血をなんとか雇えたとして、プランタン国に連れて帰るのは手続きが厳しい。紅霞の純血は桜良国内外で売られた歴史があるため、人身売買の疑いで許可はおりないだろう。
プランタン国には、売られた紅霞の純血がそのまま住み着いている場合がある。ティートリーは、プランタン国で長年探し続けて今日やっと純血に出会えた。ティートリーは、未来が分からない暗い希望の光を、逃すつもりは無かった。
「今日からお願いしますね。娘さんをうちの屋敷に託して、貴方はどうしますか?」
「妻と過ごしたこの家で、しばらく住みます。本の翻訳の仕事がまだ残っていますし。娘のためになるべく金は稼ぎたいので、今出来る仕事をやっています。」
「定期的に使用人に見に行かせます。落とし穴の場所は教えて下さい」
「自分の部屋に落とし穴の地図があるので、持ってきます。アマリリス、よく聞きなさい」
「はい」
「この方は、アマリリスがこれから働く屋敷の主人だ。旦那様に失礼のないように」
泉がアマリリスの意志等聞かず、働く事を決めた。琴葉が生きていた時の泉は、妻に尻に敷かれていたが、娘の世話を今後出来ない父親としてこれが良い事だと決めた。
泉はリビングのドアを開けて、部屋を出て行った。ティートリーは、アマリリスに年齢を聞く。
「13歳です」
「治癒してもらう子供は君と同い年なんだ。仲良くして貰えるかな?」
「その子とお友達になってもいいんですか?」
「病弱だからベッドで1日寝込む生活で、友達どころか、姉弟達とも遊べないんだ」
泉が昔自分で書いた落とし穴の地図を持ってきて、リビングに戻ってきた。ティートリーが受け取り地図を見ると、こんなに掘ったんですか、と半分感心したかのように呟いた。
「旦那様、大事な確認です。治癒する子供は女の子ですか?」
「娘に悪い虫がつかないか心配なんですね」
ティートリー達は微笑ましそうに笑う。だが、泉は違いますときっぱりと答える。
「紅霞の治癒は異性だと体の構造が違うので、一生治癒しないといけないんです。だから、異性はやってはダメなんです」
「異性でも治癒は出来るのは、存じております。昔、混血の子に聞きました。治癒はどれくらいの頻度でやりますか?」
「治癒は紅霞の体に負担がかかるので、子供の紅霞の場合は月1回です。大人は週2回できるので、数年で相手は健康体になりますが。ただ、異性だと健康体になっても一生の契約になります」
「問題ない。うちの子供は女の子の格好をしています。それより、何故貴方は異性の治癒について詳しく知っているんですか?」
引っ掛かる言い方をする、ティートリーは話をずらす。父親はいつ死んでもおかしくないため、藁にすがる思いで娘に頼むしかないのだ。
「最初の妻との話で、とても……恥ずかしいのですが、もし貴方がたが私のように過ちを犯しても、繰り返さないように注意をして頂けるように話します。」
泉は少し迷い「アマリリスも聞きなさい」とアマリリスを一瞬見る。泉は父親のプライドがあり、娘に自分の黒歴史を聞かせたくなかったが覚悟をきめた。
「数百年前に桜良国の夕霞の治癒院で働いていて、私に一目惚れしたという女性の患者さんがこの人じゃないと治癒を受けたくないと言って…」
治癒院には体の弱い者、体力がない者、病に苦しむ者が訪れる。純血の紅霞しか治せない。
須実という患者は事情があって、すぐに病を治して欲しいと両親と治癒院に駆け込んだ。
泉が働く治癒院の院長の放蕩息子は、須実の父親から借金をしていた。借金をチャラにする事を条件に、泉は須実を治癒させた。治癒院は異性の患者を治癒するのは、何故禁止しているのを泉は知らなかった。
院長から従わなければクビにすると脅されたので、1回きりを条件で引き受けた。異性の治癒は一生の契約のため、同性でも治癒が出来なくなり職場で働けず、泉は須実の屋敷で住み込みで治癒をした。
須実と泉は結婚するが、数年後に泉は須実の屋敷から追い出された。須実が治癒院に来たのは病を治して恋人と結婚するためだったが、泉に出会い恋人を捨てた。須実は結婚後もそっけない泉に不満があり、恋人とよりを戻して身籠った。須実に恋人がいた事を泉は初めて知り、どうりで下女達は泉によそよそしいと納得した。
結婚記念日として夫婦で買った陶器の鶴の置物を、須実の恋人に化け物と罵倒されながら投げつけられた。床に叩きつけられ粉々になり、夫婦の終わりを告げるようだった。
須実は泣くばかりで院長と須実に騙され疲れ果てた泉は、周りに言われる通りに離婚した。
2人の間でトラブルがあっても関係なく、須実は治癒の契約に縛られており、最後の治癒から10年以内に衰弱死する。どちらかが死ねば、契約が終わる。
ティートリーは、泉の説明に何て言えば良いかわからなかった。他の人間もそう。悲惨の一言。
そもそも、アマリリスという娘は今後どうなる?人助けになって、娘は感謝して一生懸命働いてくれて泉と相互利益になるのではと、ティートリーは顎を撫でる。
泉は迷いながら口を開いたが、閉じた。アマリリスには、簡単な料理を教えて大人になるまでこの家で暮らせるように計画して、翻訳の仕事で貯金を増やしていた。
頼れそうな仕事関係の人間には娘の話はしてあり、連絡先をまとめたノートも作成した。アマリリスには将来仕事が見つからなかったり、困った事があればこの人達に連絡しなさいとノートを渡した。ヴァイオレット家に頼れば、全て解決する。金の心配もなく、立派な屋敷住まいなら人攫いは手出しできない。
危険な取引と分かっていながら、ティートリーに結局託した。泉はティートリーに頭を下げてお願いして、アマリリスもつられて頭を下げた。
泉は桜良国にいた頃に、知り合いに聞いた話があった。連れ子がいる紅霞の純血と結婚して子供を友人に預かってもらい、子供は売られて友人は失踪した。目的があり身元がはっきりしているティートリーの方が信用できた。
泉の住んでる家は、廃村で1番状態がマシで住みやすそうな家を選びました。家のリフォームは、仕事関係の人に信頼できる業者を紹介してもらいました。治癒→翻訳仕事をしている人なので、家の修繕は全くできません




