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白銀の花は不老に咲く  作者: 季原若草


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第1話 山で暮らす親子 1


 プランタン国にある、崩れかけた廃屋だらけの村だった場所には、花に囲まれた一軒家があり、庭には小さな畑があり野菜が実っている。室内にいた白銀の髪の男性が、騒がしさに異変を感じて、娘と一緒に窓の外を見る。知らない男3人が家に近付いてくるため、落ち着かない娘に、家から出ては駄目だと肩を掴んで言い聞かせると、娘は頷いた。娘の肩から手を離して、意を決してドアを開けて外に出る。

 知らない男達に警戒するが、1番身なりの良い金髪の男性が前に出た。地黒で彫りが深く、金の目には緩やかな鷲鼻で、猛禽類を思わせる容姿。衿元には宝石で、作られた鷹のブローチが光った。


「僕達は人攫いではありません、安心して下さい。カレンデュラ社をご存知ですか?」


 金髪の男性の顔に見覚えがあったので、白銀の髪の男性は警戒を解く。数日前に読んだ雑誌のインタビュー記事に、金髪の男性の写真が掲載されていた。

 

「確か、ハーブの専門店ですよね。亡くなった妻が、その会社の化粧水をよく使っていました」

「ありがとうございます。僕がカレンデュラ社4代目の、ティートリー・ヴァイオレットと申します」


 カレンデュラ社は町に店が数軒あり、スキンケアからギフトまで、幅広く扱っている。屋敷や飲食店にも商品を卸している。

 細々と自国の商品のみで商売をやっていたが、野心のある2代目が当時プランタン国では、手にはいらない桜良国の和ハーブを積極的に輸入して、新商品を開発して事業拡大した。貴族の間で一大ブームとなり、現在は定着して「ハーブの店といえばカレンデュラ社」という認識で安定した売り上げを維持している。


 

「泉と申します。貴方達が、わざわざ来たのはそういう事ですか」

「人が住んでる家を見つけた時には、ホッとしましたよ。貴方達以外、誰もいない」

「人攫いが来ないよう対策のためと、周りに迷惑をかけないために廃村に隠れて住んでますが。結局、噂になって貴方達は来たのですね」

「分かりづらい場所で、探すのに時間がかかりましたが」


 ティートリーは、やっと報われるとばかりに話す。

 

「ヴァイオレット家には、1番目の妻の子供は病弱で…泉さん、ご協力頂けますか?」 

「つまり、貴方は私達の不思議な力が必要だから、紅霞の人間が住んでると噂を聞いて、こんな辺鄙な所まで来たんですね?…とりあえず、家に入って下さい。遠い所からお疲れでしょう」


 泉がドアを開けて、男達は家の中に入っていく。リビングに案内されると、木の温もりを感じるような素朴な部屋で、窓辺には吊り下げられた観葉植物が数鉢ある。ティートリーは視線を感じて振り向くと、台所から人目を惹くような美しい少女が隠れて覗いている。


「アマリリス来なさい」

「はい、父様」 

 

アマリリスと呼ばれた少女はウェーブがかかった白銀の長い髪を、ゆるく後ろに束ねている。金の髪飾りは、とんぼと草花で彫られガラスが所々埋め込まれている。赤いとんぼとガラスのイヤリングを付けて、どちらもプランタン国にはない装飾品だ。フリルが付いた黒いワンピースを着て、肌は色白で、アーチ眉。ぱっちりとした目は紅色で、唇は目の色を引き立つように淡い色をしている。父親も娘と同じく白銀に紅色で、美しい顔をしている。


「紅霞の純血は白銀の髪で瞳は紅色。老いる事なく美しい人間しかいない、という話は本当だったのか」



 泉の見た目の年齢は20代前半で、温和で甘い顔の造り。娘と並ぶと美形父娘で、町で歩いたらさぞ目立つだろう。ティートリーは、棚に飾ってある家族写真を眺める。娘の後ろに母親が写っているが母と娘はそっくりで、長い髪をして娘と同じイヤリングを付けている。母親も泉と同じような年齢の見た目をしている。

 泉を見るととんぼとガラスの指輪をチェーンに通して、ネックレスとして付けている。


「とんぼのイヤリングを付けている女は、私の妻の琴葉です。半年前に亡くなりました」


 泉がお茶の入ったカップを盆に載せて、テーブルに置く。泉の胸元の指輪が揺れて、ティートリーは紅霞の混血の人間も、付けていたのを思い出して聞く。


「桜良国の夕霞という町は、紅霞の純血混血が沢山住んでいます。夕霞にはとんぼが沢山いるので、特殊なガラスを使った魔除けとして、紅霞の人間はみんな身に付けてます。」

「魔除けの品に、名前はありますか?」

「そのままですが、魔除けとんぼと言います」

  

 アマリリスが会話してる2人の横で、カップを全員に配っていく。ティートリーが礼を言って受け取り、アマリリスは泉の隣の椅子に座る。


「本題にはいる前に。家の近くに落とし穴が沢山あって、フットマンのおかげで私は無事でしたが、従者が落ちそうになりました。アレは何ですか?」

「それは、申し訳ない。人攫い対策なのでご勘弁下さい。」

「あんな、深い穴は確実に怪我します。まさか人攫いを殺す気ですか?」

「当たり前ですよ。前に人攫いが襲いかかってきたので、落とし穴に誘導して妻と一晩かけて埋めた事があります」

「君達で数メートルある、あの穴を」

「売られた紅霞の純血は男も女も良くて金持ちの愛人で、今はないと思いますが最悪繁殖場で生涯を終えますからね。人攫いを恨んでない紅霞はいません」


 ティートリーは、あんぐりと口を開く。虫一匹殺せないような温和そうな男性の口から出た、殺意に満ちた言葉は紅霞の悲惨な歴史を語っている。買った人間が不老不死に夢を見て、食われた紅霞の純血もいたが泉はその話は流石にしなかった。


「あれは、やっぱり夢じゃなかったんだ。助けてくれ!とかやめてくれ!って、男の人が叫んでいたけど」


 真夜中。外から聞こえる騒ぎ声に、アマリリスはベッドから起きて外を見に行った。

「姉さんの仇!」と生ゴミと一緒に埋めようとする琴葉を羽交い締めにしていた泉は、アマリリスに珍しく怒鳴って追い返した。


 アマリリスは納得したとばかりに、呑気にお茶を飲む。家に招かれた時に手土産として、従者が渡したカレンデュラ社のフルーツハーブティーだ。


「私は一度落とし穴にうっかり落ちて、打ちどころが悪くて死にましたが」

「まさか、生き返ったんですか?」

「紅霞は数百年の寿命を削って、生き返ります。ただし、食われたり首を切断すると生き返りません」


フットマンと従者は、泉を化け物を見るような目で見る。ティートリー達は、紅霞の不思議な力を噂で聞いていているので、冗談扱いしなかった。 

 ティートリーは、本題に入ろうと咳払いをする。泉は緊張した顔で背筋を伸ばす。


「泉さんに使用人として、うちの屋敷で僕の子供を治癒して頂きたい。子供を病弱な体から、健康体にしてほしい。娘さんも連れて一緒に住んでも大丈夫です。」

「私ではなく、うちの娘を使用人として屋敷に働かせて下さい。」

「え?」


 アマリリスは、ポカーンとしている。空のマグカップを、握ったまま泉を見た。


(父様が誘われたのに、何で私が働くの?)

 

アマリリスは大人になったら外で働くと思っていたし、どういう仕事に就きたいかなんて特に無かった。



 


参考文献 (敬称略)


資料

・英国メイドの世界 久我真樹 2010年11月11日 講談社

・図説 英国メイドの日常 増補版 (ふくろうの本)

 村上リコ 2023年1月30日 河出書房新社

・日本の有毒植物 フィールドベスト図鑑 Vol. 16

 (電子版) 佐竹元吉(監修)2013年9月 学研教育出版

・図説 英国貴族の城館 カントリー・ハウスのすべて  田中亮三(文) 増田彰久(写真)

 2011年1月30日 河出書房新社

・図説 イングランドのお屋敷〜カントリー・ハウス〜  トレヴァー・ヨーク 2015年10月20日 マール社

・和ハーブのある暮らし 平川美鶴 2023年7月7日 エクスナレッジ


名付け

・ハーブのすべてがわかる事典 

 特定非営利活動法人 ジャパンハーブソサエティー 2025年6月1日 ナツメ社

・大きな字の創作ネーミング辞典 (ことば選び辞典)学研辞典編集部(編) 2017年10月31日 学研プラス

・欧羅巴人名録 URL:https://europe.worldsys.org  2026年5月7日



※2026年8月23日に資料追記



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