第11話 アマリリスは○○する 2
ニルデとケヴィンは、エメルトとロッティが隣同士椅子に腰掛けている姿を見て、裏切り者!というような目をロッティに向ける。ロッティの、尋問はまだ終わっていない。
「ロッティさん。アマリリスさんが、夕食の食器を返却しにこないと気づかなかったんですか?」
「スカラリーメイドが、アマリリスさんの食器と盆を洗っています。彼女達は仕事の量が膨大なため、そこまで気がまわらないと思います」
「では、朝食を取りに来ないのはおかしいと思いませんでしたか?」
「ニルデが、どーせ寝てると言って朝食を片付けてしまいました」
「今まで、おかしいと少しも思わなかったんですか?」
あまりの杜撰さに、エメルトが強い口調で問い詰めるとロッティは言葉を詰まらせる。
「ニルデはよく話す同僚で、休日には2人で遊びに行った事もあります。ケヴィンはたまに手伝ってくれましたし。シオリ奥様達とは必要な事以外話した事がなく、使用人達の方が良く知ってる人で、おかしいと思っても、ちゃんと2人に言えなかったのもありました」
ロッティは、仕事でしか接しない近寄りがたい主人より、身近にいて苦労を分かちあう、自分と似た境遇の人間に親しみを覚えてしまい。良くしてもらい、疑う事に罪悪感があった。
「アマリリスさんに、聞きましたか?」
「アマリリスさんから、何も言われませんでした。」
「お医者様が言うには、アマリリスさんは食器の破片で自分の腕を無我夢中で切りつけたそうです。叫び声をあげると迷惑になると思って、自傷行為をしたと思います」
「貴方達がやったのはこういう事。分かった?」
シオリは、トゲトゲしい声で3人を1人1人の顔を見て言い放つ。
2人は他人事のような顔をしているが、ロッティは、アマリリスさんは私に言わなかったのはシオリ奥様に気を遣ったんだ。こんな事になるなんて……と顔を手の平で覆う。ロッティは目の前にいる主人に頼らず、関係ない人間の言葉を鵜呑みにして引き起こした。
シオリは、腕を組みニルデとケヴィンの前にカツカツと歩く。
「単刀直入に聞く。どうしてこんな事やったの?」
ケヴィンは黙っている。ニルデは自分の番が来たとばかりに、キッとシオリを親の敵のように睨みつけた。
「アンジェリカ様を、奥様は虐めたじゃない!そうやって人を追い詰めるから、アンジェリカ様は屋敷に帰ってこなくなった」
ニルデは正しい事を言ったとばかりに、勝ち誇る。アンジェリカとは、ティートリーの10歳下の妹で、嫁に行っている。現在は、アンジェリカ・ブライアント。
ヴァイオレット家の屋敷は元々、ティートリーと両親と妹が住んでいた。ティートリーは、両親が年をとってから出来た子供だ。シオリとティートリーが結婚する少し前に、両親が出ていき隠居した。アンジェリカも、もちろん一緒に引っ越した。
ティートリーの両親は、前から住んでみたかった土地で小さな屋敷を買って、今はそこで暮らしている。アンジェリカは屋敷のメイドと仲良しだったため、よく泊まりに来ていた。結婚当初から、シオリとティートリーは冷え切っていたのと。ヴァイオレット家の屋敷は広いため、新婚夫婦の家庭にアンジェリカは邪魔にならなかった。
アンジェリカは、若いメイド達の相談相手になっていた。ほとんど、趣味だと当時の家政婦サジュマンは呆れていた。
ニルデは、当時最年長のスカラリーメイドだった。食器類等を洗い雑用全般係のメイドだ。重労働で薄給。それだけでなく、使用人で1番低い階級だ。嫁いで、たまに屋敷に遊びに来ていたアンジェリカと仲良くなり、ニルデは相談した。
「辛くて辞めたいけど、お金の心配がある」
アンジェリカには「頑張った人には、ちゃんと結果が返ってくるわ」と天使のような笑顔で、ニルデの水仕事で荒れてボロボロになった手を握った。アンジェリカの助言を信じて、働きキッチンメイドに昇進した。
「ケヴィンは?どうしてこんな事をやったの?」
シオリは、ケヴィンを問いただす。ニルデは、言いたい事はまだあり、強制的に終わらせられて頭に血が昇る。
「アンジェリカ様が可哀想!あの方は、私を、1人の人間として尊重してくれた。それにひきかえ、奥様は言葉がきつくて…」
「転職の際に必要な紹介状を書くのは、シオリ奥様です。アンジェリカ様に書いて頂いたら、どうでしょうか?」
主人の代わりに、ディハニヒが言い返す。悪く書くのも、紹介状を出さないのも主人次第。ニルデは周りが見えていなかったが、自分の置かれている立場にやっと気づく。
ケヴィンは、一度自分は呼ばれたがニルデが注意を引いてるおかげで、嵐が過ぎるのを待つだけだと思っていた。浅はかな考えは、通用する事はなく。自分の名前を、シオリに再度呼ばれてビクリと体がこわばる。
「あの子は、新入りの使用人なのに…見た事ないアクセサリーを付けて。使用人ホールで使用人達と食事もしないで、主人気取りで生意気だったから」
ケヴィンは、同僚から新しい子が入ってきたと聞いていた。蓋を開ければ、制服を着ることなく。メイドが「使用人があんな可愛い格好してずるい」と羨ましがり、上級使用人のように個室を与えられていた、しかも初日に。ケヴィンは、ハンカチを渡されたら噛み千切る自信はあるくらいやっかんだ。ケヴィンの、不満は終わらない。使用人と主人は、階段も玄関も分けられている。使用人専用の飾り気のない裏階段を当たり前のように一度も使う事なく、それどころか主人が使う広い華麗な主階段で、カルミアとイリスの3人で、ジャンケンして「パイナップル」と階段を下っているのを目撃した時には悔し泣きをした。使用人のあの子が、特別なのは目と髪の恩恵を受けているだけ。珍しいからと金持ちの道楽でろくに働かせずに、使用人として迎えたのかとケヴィンの頭の血管が千切れそうになった。
「1人は私が気にくわないけど、嫌がらせできないからあの子にあたり。もう1人は生意気だから、あの子を殺そうとしたんだ?」
シオリは、何の感情を込めず淡々と聞く。アマリリスは、一度死んで生き返ってるがまぶたを閉じたまま。もちろん、生き返ったと言えないためアマリリスは死にかけた事にしている。




