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39話 制覇の報酬

「アイリ、それから……」

「オキナ」

「さっきはごめん。苦しい思いをさせて」


 大の字になって拘束され包囲された大手町(おおてまち)(キヨシ)は、さっきまでの勝負で生気を奪い気絶させた二人に謝った。お化け屋敷の外に出て日の光を浴びた二人は回復したが、霊体仲間にするつもりだったキヨシは、これ以上の執着を諦めた。

 なお自分たちも同じ目に遭わされたので謝罪を向けられるべきと思う茅場(かやば)久遠(クオン)三郷(みさと)楽阿(ラクア)の隣に移動してキヨシに無言でアピールする。ラクアはキヨシの攻撃を受けた際に気絶を回避すべく舌を噛んで意識を保ったときの痛みで喋りにくいので、必要なとき以外は極力声を出さないことにしている。


「……君たちは、お互い様ってことで」


 キヨシはクオンの手ぶりに気づく。彼女らの生気を奪ったことも覚えている。だが美南(みなみ)哀月(アイリ)たちと違うのは、足止めしたり逃げ回ったりしていただけでなく、攻撃してきたこと。両成敗だ。


「他の皆……閉じ込めた人を出して」

「じきに出てくるよ」


 キヨシはここにいるメンバー以外にも危害を加えている。施設の挑戦者の大半が中に閉じ込められている。西浦(にしうら)あかりは解放を要求すると、彼は頷いた。

 すると辺りが騒がしくなった。その施設から人が大勢出てきている。挑戦者の大半が一向に出てこなかった施設。だがそのからくりは時計を持っていないと動けない空間をキヨシが維持していたからで、降伏して効果が切れ、自由に動けるようになった結果だ。


「スタッフさんに聞いてきたけど、その人のことはお任せしますって」


 川口(かわぐち)青空澄(アスミ)はお化け屋敷のスタッフに声をかけ、施設に幽閉していた犯人を確保したと報告した。だが引き渡すのではなく、対処を任された。ここは特殊能力者がいる世界だ。関係者とはいえ素人が引き取るより、討伐するだけの実力がある人に委ねる方が望ましい。


 しかしキヨシは消えない。それができるなら最初から誰も巻き込もうとしなかった。彼は死んでなお生きていたときと同じように動ける。皆と違うのは、やがて皆が死んだ後も、いつまでも一人残り続けてしまう点だ。


「どうするの?」

「今は何もできない」


 そんな彼を標的に選んでやってきたのがクオン。だが彼女はあの世へ送ることはできない。今この場に彼をどうこうできる人はいないから、置いて帰るか一緒に帰るかの二択だ。

 そうなると彼自身の意思と、同級生のラクアの意見が重要になる。


「でも、また殺しにくる。嫌になるまで、何度でも」


 だがクオンの役目はおしまいではなく、いずれキヨシに会いに行く。そして再び襲撃し、不老不死である彼が鬱陶しくなって限界になるのを待つ。時が来たら彼はあの世へ行ける。



「……どこに行くの?」


 だがそれまでの間、クオンがどこで過ごすのかアカリは気になり呼び止めた。当初の予定では今回で仕留めて帰るつもりだったのだろうが、任務の途中で戻ることになったわけで、それでは帰る場所が無いと彼女が言っていたことを思い出し、心配になった。


「ああ、住まわせてくれる約束だったわね」

「……は?」

「うん。オーケーしてたよ。覚えてないだろうけど」


 その点なら心配要らないと思い出したクオンは、ラクアの家に行こうとした。

 最初から仕留める方針に舵を切っていればここまで苦戦することはなかっただろうに、彼がキヨシと友達だということで、助ける選択肢を残して立ち回ってきた。

 ラクアの望みを叶える代わりに任務に失敗したのなら、責任を彼が取ってくれないと困る。それゆえの提案を彼は二つ返事で合意したが、反射的に頷いていただけであり、改めて言われると身に覚えがないと抵抗する。

 といってもクオン自身も本気でそう頼んでいたわけではないので、拒否されても気にしない。


 一つのことに集中しようとすると無関係な情報を頭に入れようとしないラクアの癖を知っているアカリは予想通りの反応をする彼に溜め息をつく。だがその場で潔く受け入れることにならなくて安堵もしていた。


「女子と一緒に暮らすとか」

「だから言った記憶ねえんだって」


 日比谷(ひびや)興奈(オキナ)たちに冷やかされるラクアは、気がついたらそんな話になっていたのだと弁明する。自分で撒いた種とはいえ、キヨシの問題が決着していないのに余計な話を挟み、まだ声を出すと噛んだ舌が痛むからあまり余計に口を使いたくないのに、空気を読まず茶化してくる連中に苛立っていた。これ以上喋ったら力ずくで黙らせてしまおうと思った。


「とにかく、ありがとう。あなたがいなかったら、どうにもならなかったかも」


 クオンがどこへ向かうにしろ、ここでお別れならその前にお礼を言いたい。気持ちを伝えるアカリに、彼女は微笑んだ。


「私たち、バチ島って所にいるの。よかったら、来てほしいなっ」

「……へえ、ならそこで暮らそうかしら」


 キヨシとは関係なく、その島に行く予定のあるクオンは、アカリたちがそこに住んでいると聞いて、予定を早めて移住することにした。彼女の知り合いラクアの知り合いがキヨシだから、彼を再び襲撃する際にアクセスが良いと想像がつく。実際ここに残るよりは早く向かえる。彼がここに残らず元の家に帰ったらの話だ。


「だからあなたもそこへ行きなさい。いつか私が、送ってあげるから」


 その方が好都合と思ったクオンは、キヨシに告げる。任務は果たせていないだけで諦めたのではない。不老不死でいることにうんざりしてあの世へ行くまで執着する気概だ。だからここに残るよりアカリたちと一緒にその島へ向かってくれた方が行き来しやすい。

 彼にとってもラクアたち友達といられるから、一方的にクオンが得する話でもない。


「帰ろうぜ。何とかなる」


 ラクアはクオンに引導を渡してもらうことには抵抗があるものの、キヨシが島へ帰ること自体には賛成だ。確かに今は、死なない彼が孤独になる未来を変えられる能力者がいない。だが能力者はこれからも現れる。覚醒したり、クオンのようにすでに力に目覚めた者が来訪してきたり。その結果、彼を成仏させる力を持った人に会える可能性はある。

 だからその日までまた一緒に過ごそうと提案し、ラクアは手を差し伸べる。負担がかかるから最低限の言葉選びをした結果、憶測ではなく断言する言い回しになり、キヨシとしては励みになった。そして彼らと行くことに決めた。



 遊園地での騒動は一件落着した。原因であったキヨシを連れて帰ることになり、だが必ずしも今すぐ出なくてはならないわけでもない。


「少し遊んでいかない? 二人も一緒に」


 当初の六人チームにキヨシとクオンを加えて、施設を回りたいとアカリは提案した。スッキリして遊べる雰囲気でないことは分かっているが、このメンバーでここにいるのは今回きりかもしれないから、何もせず帰るのをもったいないと思っての意見だ。もちろん反対されたら引き下がるが、言うだけ言ってみた。

 最初に頷いたのはラクアで、前と同じことを呟く。


「最後かもしれないしな」


 キヨシという事例があり、彼自身いつか急に死んでしまうかもしれない。その意味でも、またいつかなんて楽観的に構えているのは甘い。それにいつかキヨシを天に送ると約束した以上、彼との別れの日だって実は遠くないかもしれない。なら今を逃したくないと、アカリの案に乗った。


「今まではメダル集めのために色々考えてたけど、ここからは自由だしな」

「結局何も無かったね。スゴいことはあったけども」


 後で自由行動で施設を回ろうという話自体、キヨシとのあれこれが始まる前から挙がっていた。元々はメダル制覇のために頭を使ってきて、好き勝手やれていたわけではなかった。メダル自体、彼を何とかしてくれる人を呼ぶ餌だったので、コンプリートしても何も得られないのは残念だった。

 だが死んだ友達と再会し、またしばらく一緒にいられることになったという奇跡がメダル制覇の報酬と思えば、良い体験だったと思える。それに彼の件を抜きにしても、道中楽しかったので、良い一日だった。


 ということで最後に自由行動の時間が始まった。


「じゃああそこ行かない? 開かない花の」

「あれ開いたよ。中から出てきたのが……」


 早速後回しにしていた初期からの謎だった、開かずの黒い薔薇の所へ行こうと大森(おおもり)(イコイ)は言ったが、その秘密は解明済で、中にクオンがいたとアカリが明かす。せっかく確かめに行こうと思ったのに、拍子抜けだった。

 そしてイコイはもう一つ思い出す。キヨシ対策で皆に配った時計は、施設から借りた。もう役目を果たしたので、回収して返しにいくことにした。



 寄るついでにその施設に挑戦しにいこうと、オキナが同行した。せっかく四人で挑戦するルールならということで、キヨシが合流して男子四人になったので彼とラクアを誘った。ラクアはさっき挑戦したが、そのときのメンバーは全員女子でキヨシとも会う前だったので、新鮮に感じている。

 すると女子たちもついてきた。次の四人組として並ぶわけではなく、観戦目的だ。


 待ち時間の間、経験者であるラクアを中心に作戦会議をする。施設は海賊船風の機械に乗って、漂流する樽や海洋生物を大砲で撃ち抜き、財宝を集める形式。水飛沫によって視界が阻まれるが横並びで四人が撃つタイミングは同じ。見えにくくなっている仲間のために、声で合図して撃つのが高得点のコツだ。

 そして砲撃に夢中になるあまり体が揺れて装飾品を落とさないよう注意した。実際前回はそれがあったせいでペースが乱れハイスコア更新への挑戦は途中で折れた。


「何かあったら僕が拾うから」


 そこでキヨシは、手に纏う自在に動かせる布でキャッチすればいいと考え、待ち時間に練習した。とはいえさっきはアイリが大事にしている懐中時計を落としてしまったから飛び込んだのであって、今回は彼女がいないし他に急いで取りに行かないといけない物はないから、無意味な練習だ。

 けれどもラクアは何も言わない。こうしてキヨシと接することのできる時間を、無意味だとは思っていない。



 そして出番がやってきた。打ち合わせ通り、砲撃自体は個人プレーだがタイミングを伝え合い、仲間をアシストしながら点数を積んでいく。海洋生物を撃つときは四人で合計して一定数命中させる必要があるが、ここはイコイの頑張りどころ。彼は全力を軽い力で継続して出せる。他の人なら疲れる量を平然とこなせる。その分ラクアたちはペースを落として体力を温存する余裕ができる。

 さらに今回はキヨシもいる。彼は単純に疲れないので、イコイと同等のペースで撃てる。おかげで他の二人にかかる負担はさらに軽くなり、その先で個人プレーに切り替わっても体力切れを起こさずに済んだ。


 結果、新記録を打ち立てた。特に報酬はない。だが超えられるまで記録として残る。このメンバーで挑戦するのがこれっきりだとしても、挑んだ証がここに残った。記念に写真を撮ろうとしたとき、ラクアはふと思い、撮影を引き受けてくれたアカリに前もって伝えた。


「バッチリ撮れたよ」


 アカリは笑顔で、けれども皆に写真は見せずラクアにスマホを返した。彼は後でチャットで送ると言い、スマホをしまった。イコイたちのおかげで想定より楽に終わったが、少し休みたい。そんな願いが阻止されようとしている。


「今の記録、私たち"同期"で塗り替えるよっ」


 アカリは撮影を引き受けたことに見返りを求め、彼に再挑戦を求めた。メンバーは前に挑戦した、能力者になった時期の近い仲間。入ったばかりのキヨシを抜きにしても今挑戦したメンバーよりは付き合いが密で、チームワークなら負けないはずだと意気込んでいる。それはアカリだけでなく他の二人、アスミとアイリも同じだった。


「そっちも女子四人でやれよ」


 確かに息は合うとは思うがそれで超えられるようなレベルではないと現実を見るラクアは参加を拒否し、クオンに譲った。本人は遠慮したが、彼は自分の代わりにクオンを行かせようとする。


「俺が今やっても本調子じゃない」

「じゃあまた後でね」


 しかし一時しのぎにしかならなかった。ラクアとここに挑戦するのは変わらず、時間を空けて彼の体力が回復してから来る。その間にクオンと、他の施設に挑戦することになった。



「こうしてみると、今まで通りだな」


 ラクアはキヨシとベンチに座り、会話する。彼が死に、霊体としてまだ地上にいるが、傍から見れば生きていたときと変わらない。自由行動を始めてみて、そう実感した。


「招待状が届いたんだ。それであの面子で、ここに来た」


 ラクアは招待状を取り出し、キヨシに明かす。なぜこのメンバーで来たのかは、招待状が届いた知り合いが彼含めた六人だったからで、ただなぜ届いたのかは分からずじまい。キヨシも心当たりがない。

 そしてこの面々だから何とかなったというよりは、ここで出会ったクオンのおかげな節がある。キヨシの存在もお化け屋敷の事態も、何も知らずに来たので準備など何もなかった。


「まあ、帰ったらまとめて話す。皆に」


 ラクアは色々考えた末、この思い出話は島へ帰った後に同級生にもするだろうから、その場にキヨシも呼んで一回で話せばいいと割り切り、ここにいる皆の元へ戻った。いよいよ帰るのだと実感する彼はラクアを追った。

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