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38話 皆といる

 死んでなお特殊能力により現し世と常世の境界にいる大手町(おおてまち)(キヨシ)の襲撃に抗い、お化け屋敷を脱出した西浦(にしうら)あかりたち。キヨシに生気を奪われ気絶していた二人も、屋外に出たことで目を覚まし復活した。後はこの遊園地を出て無事に帰還するだけだが、キヨシが施設の外に出てきた。


 まだキヨシとの勝負は終わっていない。だが元よりそのつもりだ。彼も含めた全員で帰るべく、改めて彼と向き合う。


「……誰?」

「クオンって子。私もさっき会ったばかりで」


 美南(みなみ)哀月(アイリ)はアカリに尋ねる。気絶している間に合流していた茅場(かやば)久遠(クオン)は、アカリたちにとっても知り合って間もない。だが強い味方だ。


「……アスミは? 知り合い?」

「ううん」


 そしてアカリは川口(かわぐち)青空澄(アスミ)に尋ねる。アスミも気絶こそしていなかったものの合流したのはついさっきの出来事で、クオンとは会ったばかり。だがこの街の生まれである彼女なら、編入前から面識があるのかもしれない。しかしその予想はハズレで、クオンはここの地元民ではない。殺し屋として来訪しているだけだ。その標的はキヨシ。不老不死の存在として彷徨う彼を、あの世へ送る使命を果たしに。


「でも大丈夫っ。味方だから ……味方かな?」


 キヨシを攻撃する様子をアカリは見てきた。アイリたちもそれを見ればきっと驚くだろう。だがその矛先が自分たちに向けられることはなく、現に脱出できたのは彼女が彼にダメージを入れたおかげだ。驚いても信頼していいとアカリは告げたかったが、さっき矛先を三郷(みさと)楽阿(ラクア)に向けたことを思い出し、本当に信頼していいか不安になる。いつ誰に襲いかかるか分からない。

 幸いラクアは無事で、それはキヨシが彼を庇いダメージを負った結果だ。ラクアは彼に歩み寄る。庇ってくれた瞬間を見ていなかったから、真相を確かめるべく。

 その隙に日比谷(ひびや)興奈(オキナ)はアスミにこっそり話しかけ、協力を依頼した。


「今度アイツがあのオエッて奴やりそうになったら合図して」

「分かったわ」


 キヨシは口から灰色の魂を吐く。それを食らったアイリは長らく気絶していた。そしてその攻撃が、今度はラクアに向けられる可能性が高い。だからオキナは予備動作を見たら動き、封じようと考えた。問題は予備動作に気づけるかどうかなので、そこはアスミに協力を求める。



「……俺を守ったのは本当か?」

「本当だよ。君は僕が倒さないと」


 キヨシはラクアをクオンから身を挺して守ったのは事実と答えつつも、味方になったわけではないと告げる。彼の狙いは同級生の彼を仲間に引き込むこと。生気を奪って自分と同じ不老不死の体にする。その目的を果たすためには、他の人に倒されると困る。


「じゃないと僕は、独りぼっちなんだ!」


 キヨシは叫ぶ。死んだのにこうして動いたり見たり会話したりできるのは奇跡だ。死の直前に覚醒した能力のおかげだ。だがその能力があるからこそ、彼はいつまでも居続ける。友達が大人になり老いていき、やがて眠りについた後も、今の姿のまま永遠にここにいる。

 そんな運命を憂いている彼は、仲間を求める。自分と同じ不老不死の存在がいれば、孤独ではない。仲間を作るまでは引き下がれない。ラクアならそうなれる気がするので、このまま帰すわけにはいかないのだ。その誘いを彼が拒もうと、力業で実現させる気概でいる。



 キヨシの腕に纏う布が、ラクアめがけて伸びていく。それをクオンが能力による影製の棒で薙ぎ払った。


「……やっぱり味方だ。良かった」

「アイツみたいなのが増えると面倒なのよ」


 今度はラクアを庇ったクオンを見て、アカリは安堵する。だがそうした理由は不老不死の存在の増殖を防ぐためという合理的な行動。標的が増えると厄介だから庇っただけで、また憎悪が湧いたら襲う可能性はある。


 アイリはキヨシを鎮めようと能力を使う。足から糸を放ち、身動きを封じようとした。前回そうやって対処しようとしたが、彼の体から魂が飛び出し、生気を吸われダウンした。今回もそんな反撃をしてくるかもしれないが、一度見て警戒しているし、反射的にクオンが防いでくれる可能性もある。そこまで考えて同じ手で仕留めようとしたが、彼もまた学んでいる。糸が届く前に体を浮かせ、そのまま宙に居続ける。


「浮くなんて、何でもありかよ…… 壁もすり抜けるんだ、コイツ」


 お化けなら浮遊できても不思議ではないと納得しつつも、その体質だけであまりに多芸なことをオキナは理不尽に思う。そして彼が気絶させられたときを思い出し、仲間が二の舞を演じないよう伝達した。障害物を盾にしても平然と通過してくると。

 それを受けてイコイは思う。キヨシの力があれば、どこへ行くにも最短ルートを取れると。

 

「こんなに便利なんだよ!? 何が嫌なのさ」

「先を考えろ! 絶対嫌だ」


 浮いたり通り抜けたりできると、どこへでも楽に行ける。それはラクアにとっても魅力的なはずだと呼びかけるも、相変わらず彼は拒絶する。確かに一日だけそうなれたら便利だし満喫するだろう。だが不老不死という代償があまりにも大き過ぎる。死んで楽になれる日が来るから日々を生きている。いつまでも生活を続けるのは苦痛だと理解しているから、誘いには乗らない。


「近道できるのは便利だ。でも俺は、皆と同じ道を歩くのが楽しかった」


 イコイも反論する。能力があるが浮いたりすり抜けたりできない点は普通の人と同じだ。それを不自由とは思わない。チームを組んで遊園地を一緒に回る時間は楽しいものだった。仮に自分一人だけ近道できるようになっても、今回と同様に皆といることを選ぶだろう。


「じゃあ皆そうしてあげる!」


 それなら皆で近道できる体になれば最高だと解釈したキヨシが迫る。だがイコイは全速力で逃げる。全員復活したおかげで誰かを抱えて走り回る必要がなくなり、気兼ねなく本気を出せるようになったのだ。

 そんな彼相手には真剣に狙わざるを得ない。ゆえに周りへの警戒が薄くなった隙にクオンは突撃し、影をぶつける。反撃が来る前に撤退すべく影に潜り込もうとするも、キヨシには影がない。日の当たる場所でお化けと対峙するのは初めてだから気づかなかったが、影がなくても地面には潜れる。

 だがキヨシには丸分かりだ。何もない場所に影ができていると、そこにクオンがいることなど簡単に見抜ける。そして布をその影へと伸ばし、潜っている彼女から生気を奪った。そのダメージで影の体を維持できなくなり、元の姿になって地面から飛び出し、倒れた。

 アカリは心配して駆け寄るも、一ヶ所に固まるのはキヨシにとっても好都合。二人まとめて仕留めにかかる。


「……大丈夫」


 アカリはクオンの身を案じつつも、不安を隠して笑って手を差し伸べる。


「大丈夫」


 クオンは彼女の表情を見て励まされ、微笑んで手を重ねる。気持ちが重なったそのとき、アカリの新たに目覚めた能力により二人の体が光ると、まるで二人ともできると分かっていたかのように高く軽快に跳び上がり、布を回避しつつ着地した。


「何!? 今の大ジャンプは」

「分からない。でも、できると思った」


 傍からは何者かの干渉に思えたが、それらしき人は見当たらない。だが心配要らないとアカリは答える。思い描いた通りに動けただけだと。本人らが意図していないアクションと自覚していないのならきっと大丈夫なのだろうとアイリたちは受け入れた。


 一方でキヨシはアカリの思いがけない力に思惑を阻まれ、彼女への警戒心を高める。クオンのように影に潜ることができない点は変わっていないと見抜き、再び布を放つ。だが二人は手を繋いだまま再び大きく跳び、さっきの回避は偶然ではないと見せつけた。


「もう大丈夫。後は任せて」


 しかしこの状態では戦いにくい。クオンはアカリから手を離し、攻撃に転じると決意した。離れてしまうとさっきのように動けなるのは薄々勘づいているが、惜しまない。もう十分に勇気を貰ったから、後は自分の役目を果たすだけだ。



「これから力が目覚める人もいる。未来を信じて、一緒に帰ろうぜ!」


 ラクアはキヨシに呼びかける。確かに今は不老不死の体をどうすることもできない。けれども能力者は徐々に増えている。いずれ彼を独りにさせない力を持った人が現れるかもしれない。だから今の段階で孤独と決めつけて仲間を作ろうとせず、逆に普通の人の仲間に入れるようになる日を待てばいいと提案した。


「他人事だと思って……」


 しかしそれは当事者でないから言える楽観的な意見だと一蹴し、口から魂を吐き出す体勢に入る。布でちまちま生気を奪うよりその魂で彼を丸呑みにしてしまう方が手っ取り早いと判断しての大技だ。


「来るよ!」


 アスミの合図でオキナが能力を使う。すると辺りが夜の景色に一瞬で変わる。夜をイメージした幻想空間で、急な変化に戸惑ったキヨシは口を閉じる。

 そして暗転したことでクオンにとって動きやすくなった。影を纏うと夜の暗さに溶け込み、誰にも気づかれないようキヨシに忍び寄り、影で作った棒を振り下ろす。手応えがあると、すぐに離れてラクアの影に潜り込んだ。


 オキナは別の空間に変える。元通りにしたように見せかけて、元の景色とよく似た空間を展開した。元の景色と明るさに感覚を戻すなか、アイリは体に違和感を抱く。下を向いて足を小刻みに動かすと違和感の正体に気づき、そのからくりを仕掛けた本人であるオキナに視線を向ける。彼はアイリが気づくのを待って視線を向けていたので、彼女が振り向くとすぐに目が合った。

 そして再び、踏み込んで糸を放つ。同時にオキナも、糸がまるで彼女の足から空中へと伸びていくように幻想を見せた。

 この糸はまやかしであり触れても何ともない。だがキヨシは本物と思い込み、空中は安全地帯という前提が崩れて焦りつつも、浮きながら避ける。アイリもまたできることを増やしたのか。そう捉えて迫る糸を躱しつつ、地面にうっかり触れないよう高度を意識する。


 だがキヨシは急に足が動かなくなった。地面に着いて糸に捕まったのかと思いきや、まだギリギリ浮いている。しかしその直後、景色が若干変わり、足が地面に触れていた。オキナが幻想を解除した。さっきまでの景色は、地面がやや傾いた幻想空間だったのだ。


「浮いてたから地面が斜めに見えてることに気づかなかったでしょ」


 まんまとキヨシを罠にかけ、アイリは嬉々として種明かしをする。まだ地面と距離がある。そう見せかけてその位置はすでに地面に接しており、糸の粘着効果が及ぶ。こうなっては霊体といえど浮遊することはできない。


「しつこいなあ!」


 体を移動させられなくなったキヨシは、再び魂を吐こうとする。これなら足を取られた状態でも離れた相手を襲いにいける。だがこの手口はすでに一度見せており、今回もそうしてくることはアイリたちにとっても予想できた。オキナは再び景色を暗転させる。だが二度同じ手でキヨシを怯ませることはできず、吐いた魂がラクアを襲う。


 しまった、と思い焦るアカリたち。しかしラクアは気絶せず、蹌踉めきつつも踏ん張った。だらりと垂らした舌を血が伝い、地面に垂れる。舌を口から出したまま、全力でダッシュし、もぬけの殻になったキヨシの体を殴った。空っぽの体は簡単に倒れ、背中が糸にべったり付いた。これでは魂が元の体に戻っても、足だけでなく腕を振ることさえできない。

 一方でラクアは気絶する気配がなく、少しずつ息を整えていく。


「……平気なの?」


 アカリが尋ねるとラクアは頷く。彼はキヨシの魂が飛んでくるのを二度見て、速さを覚えていた。もし自分が狙われたらタイミングを合わせて舌を噛み、急激な痛みで気絶のショックを打ち消せばいいと考えて、実践した。おかげで舌が痛む程度の代償で済んだ。



 元の体へ戻るに戻れなくなったキヨシは、魂のままクオンを探す。彼女さえ倒せば自分に攻撃を通せる者はいない。しかし暗転した際に人の影に潜った瞬間を見逃してしまい、今は誰の影の中に潜っているのか特定できない。

 どこから狙われても対処できるよう警戒するも、広範囲を意識する分、ある一点への警戒は薄くなる。キヨシが違う方向を向いた隙にラクアの影から飛び出し、影の棒で叩きつけた。魂はフラフラしながら元の体へと戻ろうとする。戻ったところでこの劣勢をひっくり返すことはできないだろうと覚悟し、命乞いをした。


「もう止めて! 分かったから……」


 キヨシは降参し、魂を体に潜らせる。やはり体を起こせず、空を見上げたまま溜め息をついた。かくして彼との勝負は幕を閉じた。

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