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40話 変わるきっかけ

 茅場(かやば)久遠(クオン)を仲間に加えて女子四人で挑戦する施設を探した結果、メダル集めの際に四番目に挑戦した、宇宙防衛隊を選んだ。


「ほら、体がすり抜けるの」


 一度挑戦した際に知った、この施設のギミック。挑戦者四人が横並びで宇宙人を撃退するゲームは、左右に激しく動くため、挑戦中はお互い衝突しないようになっている。西浦(にしうら)あかりはクオンの体に手を伸ばし、感触がないことを実感させた。アカリ自身も、その挑戦のときは留守番で今回初めてその感覚を味わっており、内心驚いている。


「幽霊みたいでしょ? 気分だけでも味わって、そしたらあなたの言う"敵"への印象が変わるかも」


 クオンは不老不死の存在を狩る使命がある。ここに来たのも霊体である大手町(おおてまち)(キヨシ)をあの世に行かせるため。アカリの知り合いでキヨシの幼馴染である三郷(みさと)楽阿(ラクア)たちと協力し、和解して彼も一緒に帰ることになったが、クオンの予定が変わったわけではなく、またいつか彼の襲撃する。死なないもののしつこく感じて嫌になり、あの世へ逃げたいと思い至らせるまで。それは本来行くべきところに行くことに過ぎないが、思いがけない別れがやってきた彼らには、なるべく長く猶予が与えられてほしい。とはいえ何もしないでいるとキヨシだけが永遠に残されて孤独になるから、放っておくことが良いというものでもない。


 そのためにアカリは、クオンの決行をなるべく引き延ばせたいと考えた。今日出会い、これから島に来てまた会える彼女と、この遊園地で遊ぶ。そのついでに、標的である幽霊の感覚を味わってもらえば、キヨシのことをしばらく自由にさせておこうと温情が芽生えるかもしれない。


「普通はできないことができるのは、きっと役に立つから」


 アカリたちも特殊能力者だ。そういった存在が僅かにあるのが彼女らが暮らす島で、キヨシも霊体とはいえそういう能力者と見做せなくもない。

 そして能力者同士、何ができて何ができないかを交流を経て理解を深め、問題事を乗り越える。クオンにはキヨシを仲間と受け入れてほしいと思うアカリは、そう考えが変わるきっかけになるのを期待して、この施設を選んだのだ。



 それで果たして心変わりするかはさておき、そんな提案を臆さず持ちかけてきたアカリに、クオンは興味を抱く。クオンがここに来て初めて会った相手が彼女で自身が殺し屋であることは早々に明かしていたのに、お構いなしの距離感で接してくる。幽霊のような存在を標的としているなら自分に矛先を向けられることはないと分かっているとはいえ、殺し屋であることから目を背けず、受け入れつつも変えようとする。そんな人、クオンにとっては初めてだ。


「私相手によくそんな……友達感覚で話せるのね」

「あ、ごめん…… 馴れ馴れしいよね」

「そうではなくて……」


 アカリ自身は標的でないとはいえ、標的である幽霊への敵意を和らげるよう勧めてくるのは、鬱陶しく思われて矛先を向けられかねない。だから遠慮なしに接してくる彼女の度胸には一目置いている。

 それを伝えようとしたら誤解を招いてしまったので、クオンは補足した。


「殺し屋やってる私に、度胸あるのねって意味」

「度胸…… ううん、本当は怖いんだ」


 勇気あるように見えているなら、それは勘違いだとアカリは本音を吐く。攻撃力がありまだまだ底の見えないクオンと会話して、いつ彼女の地雷を踏むか分からなくて怖い。

 けれども不安を隠して表面上は堂々と向き合える、天邪鬼なのがアカリの能力だ。


「困った力だね」


 せっかく能力が目覚めたのに一概に利点と言えず、むしろ不便にさえ思うアカリは苦笑いを見せる。聞いている限りは扱いにくそうという点はクオンも否定しない。だがそれは彼女なりの強みであり、彼女のおかげで自分は踏み出す勇気を持てたわけで、励みになったことを伝える。


「でも、あなただけの強さだと思うわ」


 攻撃力さえあれば仲間は要らない。クオンは危険で物騒な活動をしているのは理解しているから、一般人と関わるときは、その一面を隠しておくものと思っていた。けれどもアカリと関わって、素を見せたうえで受け止めてくれる一般人と親しくなるのは悪くないと気づいた。


「誰かと親しくなるなんてできないと決めつけていたけれど、あなたがいる」

「いつまで話しているの」


 友達になろう。あと一言そう伝えようとした矢先に、アカリの同級生の美南(みなみ)哀月(アイリ)が会話に割り込んできた。アイリはアカリがクオンに話を吹き込まれて危険な道へ踏み込まないか警戒し、ストップをかけた。


「島に来るみたいだけど、私たちの学校は私立だから」

「でも高校からなら一緒になれるかも」


 帰ったらラクアの家に居候するとか、島自体には行く用事があるとか、アイリが気絶している間に話がいくらか進んでいたと察する。だがどのみちアカリと同級生になれることはないと釘を刺しにいった。

 実際その通りだとアカリは頷き、仮に家が近くても受験で合格しないと編入できない。合流できるとしたら、来年の春からだ。


「私は高校でも一緒だけど」


 すかさずアイリが牽制する。仮に高等部から同級生になれたとしても、そこには自分もいるから、へたにアカリに近づこうならいつでも監視できる位置にいると。

 アカリは友達である彼女が一緒に内部進学してくれるのを嬉しいと思う反面、その決め手になったのが地元の公立学校への敵意であることを悲しんでいる。


「あんな危険な学校、通いたくないってさ」

「……仕方ないね」


 友達と引き離されたくないと暴動を起こしたラクアたちと同じ高校に行くなんて、近くて楽とはいえ嫌だと思うアイリは、今の私立に残ると決めた。キヨシが死んで再会するまでの間にそんな話があったとラクアは彼に告げ、納得した。


 お化け屋敷の異変解消とキヨシの帰還で一件落着、とはならず、落ちた好感度は回復しない。そんな心境で、能力者になった時期の近い"同期"でこれまで交流を重ねてきたという理由だけで完璧なチームワークを発揮できる状況ではない。二人の問題を考慮し、アカリたちが海賊船に再挑戦する話は、自然消滅した。



「閉園時間はまだ先だけど、飛行機と終電があるからね」

「遠い奴は大変だな」

「……私たち、地域はバラバラなの。能力者繋がりで知り合っただけで」


 時間いっぱい遊んでいると、家に帰れなくなる。名残惜しいが、空港からの帰路が長い人もいるので、そろそろ出発する。一緒にいるとはいえ同級生という仲ではなく、希少な能力者同士、地域や学校を越えて関わりがあり、その中で遊園地の招待状が届いたメンバーで揃って来た。

 だからクオンが島に行った先には、能力者が誰かしらいても不思議ではない。そこから芽生えた人脈が、交流をますます賑やかにさせることだろう。



「皆、寝ちゃったね」


 飛行機に乗って、アカリは皆の座席を見渡す。朝早く起きて、遊園地に来てからも熱くなったり想定外の事態に振り回されたり、色々あって疲れたのだろう。もちろん彼女自身も疲れている。


「あなたは寝ないの?」

「寝るのは一人でもできるし、寝顔見られるのは今だけだから」


 目を開けるとアカリと目が合ったクオンが問いかけると、皆の表情を見るチャンスだからまだ起きていると返した。

 


 着陸すると、能力測定器に気づく。島のあちこちにある、気軽に能力の有無や性質を測れる非接触式の測定器で、アカリたちも以前こうして能力者と認定された。能力は一度覚醒した人が後日新たに目覚める事例は少ないから、一度認定された後は測定器を見かけても素通りすることは多い。


「測ってみる? ランクとか出るよ」


 だが今回は、初めて島に来たクオンがいる。覚醒し測定する間もなく他界したキヨシもいる。二人の固有の力は遊園地で見てきたから、島の中でどれだけ評価されるかアカリたちは興味がある。

 この装置でそれぞれの能力を見てみないかと提案したが、ラクアは反対した。


「待て。名前が載ってしまう。今回のことあいつらに話してからだ」


 認定された能力者はデータが登録され、測定器でなくともネットから確認できるようになる。ラクアはキヨシの名前が載ることを避けたいから、測定せず帰ろうと促す。

 能力関係なく、キヨシの存在が発覚すると騒ぎになる。それは面倒だから、今は隠しておく。まずは幼馴染たちに伝える。彼の存在を公にするかは、皆の判断に委ねる。


「なら私もそうしようかしら。やる日が決まったら教えてちょいだい」


 クオンもここでの測定を避けた。今一人だけ測るのは目立つ。キヨシと同時期まで待てば、彼の話題に隠れることができるだろう。もし彼が測定せず隠居するとなったら、そのときはまた考える。だから彼女は彼に連絡先の交換を申し入れた。


「……スマホ持ってない」

「それもそうか」


 問題はその連絡先交換をこの場で行えないことだ。死んであの世にいたキヨシのスマホは彼の自宅にある。


「じゃあ私から伝えるよ」


 測定すれば連絡せずともデータが登録されるので、誰かしらが気づく。能力者のグループチャットがあるからアカリの元にも情報は行き届く。それから彼女がクオンへ連絡すれば事足りるので、連絡先の交換を持ちかけた。


「それなら私でもできる」


 だがアイリが割って入った。彼女はクオンをまだ警戒しており、チャットという目の届かない場所でアカリと接触する場を作らせないよう、引き受けた。


「まあ連絡先交換だけでも」

「それを止めさせようとしたの!」


 とはいえ留学準備などでチャットの動きに気づくのが遅れてしまう可能性はある。それならこの場で連絡先交換できる人が代わりに引き受けてくれるのは助かる。ただそれはそれとして今回の件を抜きにプライベートでやりとりしたいとスマホを向けるアカリに、アイリが体で盾になる。

 過剰な気はするもののクオンを警戒する気持ちは分かるし、そもそも本人が気にしていることだ。アカリは理解はしつつもせっかくのチャンスを邪魔されて、表情には出さないが不満に思った。



 揃って電車に乗って少しして、アイリとラクア、そしてキヨシの下車駅に着いた。そこで降りることはアカリたちも把握していたから、焦りこそしないもののこれからの彼らが心配だ。

 だが彼らは多くは語らず、またなと告げて去っていく。車内から彼らの同級生の姿は見えないが、きっと外で待っているか、あるいは翌日打ち明けるのだろう。


 ただ安易に拡散せずまずは身近な人へ伝えるというスタンスを貫く意思があるがゆえに、具体的な手立てを伏せて帰ったわけだから、ブレずにやり遂げられそうという点では、きっと大丈夫だとも思えた。



 ラクアは無言で改札に向かう。隣にアイリが、後ろにキヨシがいるのを確認したうえで、ICカードをかざすフリをしてキヨシを手で抑えながら後退する。フェイントに引っかけられたアイリは先に一人出てしまい、ラクアに嵌められたと察する。

 すでに同級生に駅へ集合とチャットで呼びかけている彼は、部外者ながら首を突っ込んできそうな彼女を引き離すつもりで芝居を打った。


「またな。気をつけて帰れよ」

「……ええ、またね」


 意図して除け者にさせておきながら一丁前に気づかうラクアに、部外者であることを自分で選んだアイリはグッと飲み込み、体よく手を振った。二人が別の出口へ向かうと、その通学定期券で再びプラットフォームに戻り、こっそり後をつけた。


「切符なんて久しぶりだよ」

「持ってなかったもんな、これ」


 キヨシはスマホ以外にも財布もICカードも家に置き去りだ。そして彼らは徒歩通学なので定期券はないが、あると便利なのでカードは持っている。交通費はラクアに借りたがカードを買い直すくらいなら今回だけ切符で済ませる方がいいということでそうした結果、懐かしさを感じた。

 そんな和やかな会話の裏でキヨシはアイリなら定期券があるわけでこの駅の出入りは自由なのではと察しつつも、ラクアの策の穴を指摘したところで打つ手はないから、気づかなかったことにした。


 そしていよいよ、同級生と対面した。彼らはキヨシに気づくと、再会できた喜びと死んだはずなのに姿が見えることへの困惑、そしてあの日助けられなかったことへの申し訳なさと、感情がせめぎ合う。その感覚はラクアも遊園地で味わったものでさらにキヨシは敵として立ちはだかっていたわけで、そのときに比べれば状況は飲み込めている。

 自分が理解するまでにかけた手間に比べたら、皆に理解させるため説明するなど些細な面倒事だと割り切る。


「お化け屋敷で出会った。写真には映らないから、直接見てもらおうと思った」


 死んだことは事実だと遠回しに告げ、皆を集めた理由を明かす。キヨシの身に何があったのか、細かいことは抜きに、今は皆で彼を出迎えた。その様子を影から撮影したアイリは、写真に彼だけいないことに気づき、今度はじっくり液晶を見てカメラを構え、その時点で彼が見えないことに気づく。



 これからもしばらく皆でいる。そう決めたラクアたちはキヨシを能力測定させ、能力者仲間に彼を引き入れた。同級生で前代未聞のS+ランクは話題になり、すぐさまアイリの耳に渡りクオンに連絡する。

 同日彼女も測定するとラクアに続く五人目のSランクと評価され、本来彼女が話題の目玉になるレベルだが、キヨシの前には霞んでしまう。なお彼女自身は目立たず参加する狙いが上手くいってホッとしている。

 そしてアカリはCランクに上がった。気持ちを一つにすると力が上がるという、キヨシとの勝負中に実感した新しい力は確かなものだった。


 解決した問題もあれば、アイリのラクアたち危険な元同級生への敵対心のように残っている問題もある。能力と人脈が広がったアカリたちは、これからも様々な壁に直面し、力を合わせて乗り越えていく。

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