表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
35/40

35話 助けるために

 三郷(みさと)楽阿(ラクア)茅場(かやば)久遠(クオン)の勝負。クオンはこの先のお化け屋敷にいて西浦(にしうら)あかりの仲間たちを拐った大手町(おおてまち)(キヨシ)を倒すために、ラクアはキヨシの幼馴染として守るために。お互いに邪魔者を排除すべく戦っている。

 だが自分たちの目的はその仲間を助けることであり、こんな所で争っている場合ではないとアカリは口を挟みたい。けれども助けるためにキヨシをどうするかで意見が割れている以上、決断はこの勝負の行方に委ねるしかないと受け入れた。


 クオンは影を操る特殊能力で、地面に潜って移動しつつラクアに迫る。飛び出すと同時に影で作った棒を振り上げ、ラクアを叩く。すかさず影に潜り反撃を回避し、次の攻撃を仕掛けるべく別の方向へと移動する。

 だがすでに彼の反撃は決まっている。彼の能力は触れた相手を過労させる能力で、実際の何倍も棒を振ったかのような疲れがクオンに溜まっていく。



 一方、キヨシは施設の中を進んでアカリたちの仲間を発見した。大森(おおもり)(イコイ)と、彼に担がれている美南(みなみ)哀月(アイリ)だ。


「まだ一緒にいたんだ。そんなお荷物、置いていく方が楽なのに」


 キヨシの狙いはアイリだ。彼女を自分と同じ霊体にすれば、彼の幼馴染で彼女のことが好きなラクアも同じ運命を辿ろうと決心するだろう。そうすれば皆で不老不死になり、いつまでも一緒にいられる。さっきは彼女の特殊能力で足止めされたが、脱出するために生気を奪った結果、彼女は気を失っている。しかしイコイが連れて逃げていたので、キヨシは追いつくのに時間がかかった。

 だがようやく見つけた。後はもう一発食らわせるだけで、一緒にいるイコイに用はない。


「あいにく苦痛じゃないんで」


 イコイはアイリを見捨てなかった。強がりではない。彼は最低限の力でフルパワーを出せる。自力で運べるものならいくら抱えても疲れない。だからキヨシの言葉には応じず、彼に尋ねる。ここへ来るまでに立ちはだかっていたラクアはどうなったのかを。


「……ラクアは」

「うーん、置いてきちゃった」


 キヨシは背後を振り返り、ラクアが追ってきているか確認し、来ていないと答えた。実際彼は真っ直ぐ追いかけておらず、一度出口を抜けて入口へ戻ることでアイリの元へと先回りを図った。そのせいでクオンと鉢合わせ、余計なタイムロスをしているのだが。


「というかなんでここまで狙うんだ。好きなのか?」

「ラクアたちと一緒にしないで。そいつを落とせばきっと仲間になってくれる」


 イコイはそもそもなぜキヨシがアイリに執着するのか尋ねた。だが彼にとって彼女はラクアを自分と同じ側へ引き込むための道具としか思っていない。霊体になることは拒んでいるが、好意を利用すれば考えは変わるだろうと睨んで狙っている。

 イコイは今のキヨシの言葉を聞いて、まだラクアは無事だと気づく。すでにやられているのならわざわざアイリを狙わなくていいし、追ってこないというよりは彼から逃げ切ったと考えるのが妥当に思えた。そして尚更、ここでキヨシの思い通りにはさせるものかとやる気が上がった。

 


 クオンの奇襲をラクアを蹌踉めきながらも堪え続ける。彼女は打つ度に疲れてくるものの彼との根比べに応じ、粘り強く攻撃を続ける。


 するとあるとき、ラクアはクオンの棒をキャッチした。彼は能力で武器を作れない。なら相手から奪って利あ用すればいい。疲れて動けなくなるのを待っていればいいなんて思えるほどクオンは甘くない。そう悟った彼は武器を奪って反撃するチャンスを窺っていた。


 握る力が弱まり、奪われると思っていなかったクオンからは容易に棒を取れた。ラクアは振り上げてやり返そうとするも、影の主導権は彼女にある。棒の形を崩し、影として散っていく。そして再構築し、手中に収めた。


「武器を取られることも想定済。残念だったわね」


 ラクアに反撃の隙は与えなかった。武器を使って戦うのなら、それを敵に利用されたときの対策が必要だ。クオンの場合はその場で作ったり崩したりできる性質を活かし、取られたらすぐ消すという立ち回りを頭に入れていくことを対策としていた。


 クオンは自分の方が一枚上手だと誇示すると、ラクアは苛立った。良い作戦だと思ったのに、彼女の経験の豊富さによる用意周到な対応に、殺し屋を名乗るだけの実力はあると認めつつも、次の作戦を使うことになるのを面倒に思った。使うと決めたので苛立ちは収まった。


「……諦めた?」


 クオンは問いかける。てっきりラクアは煽れば苛立つと思ったが、憎悪の感情が伝わってこない。そういった感情が彼女のエネルギーになるのだが、力が漲ってこない。それは単に彼がイラつく気力さえ失せただけと考え、勝利を確信する。

 実際のところそれはハズレで、彼はまだ手があるから余裕を保っているだけだが。



「とにかく、アイリには触らせない」


 イコイはラクアの安否が気になるが、最優先は自分とアイリの身を守ること。幸いキヨシに見つかる前に、アカリが施設の外へ出られたのは見届けており、きっと彼女が何とかしてくれると信じている。それまで彼に捕まるわけにいかないと宣言し、全速力で逃走した。

 キヨシはイコイを追いかける。彼もまた全力疾走だが、お互い失速しない。


「凄いね。全然疲れてない」

「そういう能力なのでね。そっちこそ」


 イコイは走力に自信がある。人を抱え続けられるのと同様、最低限の力を足に込めるだけで強く地面を蹴られる。その繰り返しで、体力を使わず全速力と同等の速度で移動できるのだ。

 そんな芸当をキヨシは素直に褒める。疲れ知らずにいつまでも走っていられるのは霊体の特権だと思っていたから、まだ生身の人間であるイコイが実践していることに感心している。


 一方イコイは不安になった。鬼ごっこなら自分に分があると思っていただけに、平然と着いてこられては振り切れない。まるで自分を相手しているような心地がした。こうなるといつまでも終わらない。だがここで時間をたくさん稼げば誰かが状況を変えてくれるかもしれないと信じ、そのときを待って走り続ける。



 クオンはトドメを刺しに突撃する。そこでラクアは今までのように棒を掴むのではなく、それを持つ彼女の手首を掴んだ。疲れさせる効果を棒越しに送り込んでいたのを、体へダイレクトに伝える。握る力が抜けたクオンの手から影の棒がスッポ抜ける。形を崩す対処が遅れ重量を維持したまま、運悪くラクアの頭に落ちる。

 彼は痛みに悶えながらも空いた手で棒を掴む。影に分解される前に振り、クオンに叩きつけた。


 疲れの溜まった体に追い討ちをかける打撃攻撃。これで勝負ありと期待した矢先に、クオンは気合いで立ち上がった。そのしぶとさにラクアはとうとう苛立った。一方彼女はその反応を待ち望んでおり、興奮した。

 その豹変にアカリはさほど驚かない。予定内か予定が破綻するほどのイレギュラーが発生するかで、彼の様子はガラリと変わるものだから。



「楽しいね! こんなに長い追いかけっこは初めて」

「俺もだ」


 キヨシはアイリを見つけたのにイコイのせいでなかなか捕まえられないが、この展開を楽しんでいる。霊体同士でこんな風に遊んだことがないから、目的と関係なくこの時間を満喫したいと笑顔になる。イコイも当初の緊迫感が薄れ、彼との勝負を楽しんでいる。大事なものが懸かっていることを除けば、よくある能力者同士の勝負をしているような気分になっていた。


「けど、この程度の力じゃ無双できないぜ」


 並の能力者相手に全力を出すと物足りない、なんてことはないとキヨシは語る。全力を維持できる能力をもってしても、苦戦したり敵わなかったりする相手はいる。ラクアたち同学年の能力者と交流するようになって、イコイは世界の広さを感じたし、それをキヨシにも知ってもらいたいと思った。


「百をキープできても、二百出せる相手には届かなかったりとか、な。お前も来たら分かるさ、能力者の世界」

「楽しそうに言うね。僕もラクアたちから話を聞いていたさ」


 キヨシは能力者ではない。性格には能力が覚醒してすぐ命を落としてしまった。ただその能力が霊に関連するものだからか、霊体としてこの世界に滞っている。

 だが何も知らないわけではない。彼の同級生には能力者が多くいた。一人、また一人と能力に目覚めては交友やできるこちが増えていくのを見送ってきた。そんな皆と散り散りになるのを拒否していたら、土壇場で力に目覚めて今に至る。


「けど僕は、そっちに行けない」


 能力には目覚めたが、死者となったキヨシはラクアたちの輪に入れない。能力以前に、生死の境を越えてしまった以上、戻ることができない。そう自覚しているから、仲間を求める。そしていつまでも遊んでいるわけにはいかない。



「ちくしょう! なんで倒れねえんだ」

「そう、その感情よ。私が待っていたのは!」


 クオンの力の源である、憎悪の感情。ラクアから湧き上がったその負の感情で彼女が集める影は濃くなる。その一撃は今までと桁違いに重く、これで終わりにしてやろうと構えて、しかし転んだ。力が溜まってもこれまでの疲労は回復しない。大きな憎悪を抱える体力がなかったクオンは、振り上げるだけで力を使い果たしてしまった。

 ラクアも何があったのか混乱したまま、とりあえず相手が倒れて動かなくなったことから、過労でスタミナ切れさせるという普段通りの勝ち方で今回も何とかなったと悟ると、ようやくの決着に安堵した。


「……で、なんだこいつ」

「私もさっき会ったばかりで…… アイリたちを助けてくれるみたいだったけど……」


 一段落つき、ラクアはアイリにクオンのことを尋ねる。だが彼女もさほど詳しくなく、けれども時間がないので救世主と信じて連れてきたに過ぎない。彼がノックアウトしてしまったせいで、その役目を果たしてくれるか怪しいが。

 そしてラクアも気づく。クオンを倒したことで叶ったのは彼女がキヨシを討伐することに過ぎず、その彼が今はお化け屋敷の中でアイリの元へ向かっている。



「確かにいくらでも走れるみたいだけど、アイリに負担がかかるよね」


 キヨシはイコイの作戦の問題点を指摘する。彼が全速力を続けていると、抱えられているアイリの体に強い揺れが伝わってしまう。彼女の身を案じて体から下ろせば、また気兼ねなく競走ができる。キヨシにとっては彼女が逃げ回ることもなくなり一石二鳥。だから彼女を下ろすようイコイに促す。

 言われて気づいたイコイはどうするべきか迷った。彼女を何としても守ろうとした結果、知らないうちに苦しめてしまったかもしれない。だがキヨシの言う通りにしてしまっては彼の思うつぼだから耳を傾けない。彼女そっちのけで競走を再開できれば理想の展開だが、やすやすと目的を見失うタイプには思えない。

 応用の利く優れた能力を持ったうえで頭が回る。キヨシは能力を測定する前に死んでしまったので評価は未知だが、きっと階級は高いと警戒し、この状況の打開策を考えた。


 そのとき辺りが明るくなった。正確には景色が変わった。暗いお化け屋敷から、明るい屋外に変化した。その景色は遊園地の屋外そのものだ。まるで本物の日差しのような眩しさにイコイとキヨシは目が眩む。しかしその施設に入る前はその景色を見慣れていたイコイは、すぐに目が慣れた。そして日比谷(ひびや)興奈(オキナ)に気づく。この幻想空間は彼の能力によるものだと理解し、キヨシが目を伏せている隙にアイリを連れて距離を取った。


「助かった」

「大声出して走り回るのが聞こえてさ」


 イコイ同様に施設の中にいたオキナは、能力で辺りを照らせば仲間を探せると考えたが同時にキヨシにも気づかれるリスクがあるので控えていた。するとしばらくしてイコイの声がして、こっそり追いかけていた。彼らが足を止めたところに追いつき、照らして合流するチャンスと判断したのだ。


「アカリとラクアは無事だ。……アスミは、まだ」


 イコイはいの一番に囮を引き受けていたオキナに皆の安否を伝える。アカリは脱出し、ラクアはキヨシから逃げ切った。あと一人、川口(かわぐち)青空澄(アスミ)だけは行方が分からない。


「この明るさに気づくかも」


 だがこれから合流できる可能性はある。オキナが展開した幻想空間がアスミの視界に入れば、そこに彼がいると判断して向かってくるかもしれない。そんな期待を込め、この空間を消されないようにキヨシと向き合った。


「あいつはアイリを利用してラクアをお化けにするつもりみたいだ」

「へえ……」


 オキナは今ひとつ状況が飲み込めないが、キヨシの標的がアイリであり、それが同級生のラクアのためだと理解した。


「イコイ、もう少し走れるか」

「……おう」


 そこでオキナは考えた。イコイの走力と、自身の幻想空間。これらを合わせて、キヨシを倒す作戦を。その成功にはイコイの協力も必要で、やってほしいことを告げると、彼は得意げに頷いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ