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34話 永遠に一緒に

 大手町(おおてまち)(キヨシ)に生気を吸われて気絶していた三郷(みさと)楽阿(ラクア)は、少し経って体力が回復すると目を覚ます。最後の記憶はキヨシと勝負していたことだと思い出すと、急いで立ち上がって彼を探そうとする。しかしここはお化け屋敷の中で、暗くて見えにくい。


「目が覚めた?」


 あえてトドメを刺さずラクアの意識が戻るのを待っていたキヨシは、彼が動こうとしたのを見て、話しかける。


「キヨシ……」

「そう。僕だよ」


 ラクアが名前を呼ぶとキヨシは頷いた。最初に遭遇して勝負になったときまでは一切反応がなかったから、記憶を失っているか体だけ彼なだけの別人かもと考えていたので、本人だったことを知りホッとした。とはいえそれはそれで、死んだ人がどうして居るのかという疑問が湧く。


「一体何が…… お前、死んだんだろ?」

「死んだね。この体、前と違う」


 キヨシ自身も何が起こったのか把握していない。確かに数日前、覚醒した特殊能力が暴走し、命が尽きた。だがその能力はあの世の霊力を纏い生気を奪う力であり、だから彼は現し世と常世の境界を跨いで戻ってこられる。そこまで含めて自分の能力だと、彼は解釈していた。その証拠に体で感じるものが生前と違うのを実感している。さっきラクアに羽交い締めにされたときも、体に負荷を感じなかった。


「もう君にやられるような僕じゃない」

「……だろうな。その力のせいでアイリは……」


 キヨシに強力な能力が宿ったことはラクアもよく分かっている。好きな子は、美南(みなみ)哀月(アイリ)はその力を受けて昏睡状態に陥ってしまった。

 だがそのアイリは一緒に来ていた大森(おおもり)(イコイ)たちチームメイトが抱えてお化け屋敷の入口へと引き返した。やがて脱出し誰かに助けを求めるだろう。そう思うとキヨシをここで足止めして時間稼ぎをしていたのは意味があったのだと前向きに考えた。


「でもよかった。元に戻ったみたいで」

「元に?」

「ああ。俺に気づかず襲ってきたから」


 ともあれラクアはキヨシが友達である自分のことを分かってくれて安堵した。記憶を失っていたり誰かに支配されていたりしたら力で捩じ伏せなくてはならなかったので、自力で元の彼に戻るという楽な決着を迎えて気が抜ける。苦労を笑い話にして告げたが、それは勘違いだった。


「最初から分かってたよ」

「……え」

「シカトしていれば本気でかかってくると思ってね。全部演技だったってわけ」


 キヨシは最初からラクアに気づいていて、知らんぷりしていた。覚えている素振りを見せたら彼は争いを避けるだろうと予想がついていて、本気で勝負できなくなるのを嫌った。他人のフリをして襲いかかればラクアたちも遠慮なく迫ってくると考えての芝居を打っていて、すると彼らは手加減なしで向かってきてくれて、キヨシの狙い通りに事が運んだ。そしてもう優劣ははっきりしたから、記憶喪失のフリも終わりにしたのだ。


「さすがに死ねって言われたのは嫌だったけど」


 とはいえ聞きたくなかったラクアの本心まで引き出させてしまったことには後悔している。記憶がある本人だということを最初から明かしていれば、いくら本心といえど誹謗は自重しただろうから、聞かずに済んだかもしれないと残念がる。


「まあ死んだんだけどね。ははは」

「じゃあなんでここに」


 そもそもすでに死んでいるからノーダメージだと笑い話にすると、 それならなぜ目の前にいるのかとラクアは尋ねる。


「不思議じゃないでしょ? お化け屋敷にお化けがいて」

「お化け……」


 キヨシは端的に答えた。死んだのに見た目上は元の体と意識を保っているのかは自分でも分からない。けれどもそれがお化けというもので、自分もその一種になったのなら、目が覚めるとお化け屋敷に棲み着いているのは変な話ではないわけで、そういうものと考えればいいとあっさり流された。


「でも見つかったら大問題だろうね」

「かもな」


 どんな経緯であれ、まだこの世界で暮らせる身だというのなら、ここを出て帰ってくればいいとラクアは思ったが、そう簡単にはいかないと気づく。特殊能力者がいる世界といえど彼の知る限りキヨシような存在は異質だ。認知されたら何をされるか分からない。能力を隠しておこうにも、他界した人なんて人前に出るだけで騒ぎになるから効果はない。

 そうは言ってもラクアたちはキヨシを連れて帰ろうとしていたわけで、そうする前に一度帰宅して皆に伝えるという選択肢もあったから、存在を公にされていた未来もあったかもしれない。


「じゃあずっとここにいるのか」

「そう。でも独りだと寂しいからさ」


 飲まず食わず成長しない体になったキヨシは、お化け屋敷から出ず密かに暮らすことを考えていた。挑戦者を驚かせるのは楽しいが、閉園後は退屈になり、驚かすのも飽きてくる。だから彼は仲間を作りたいと考えた。

 挑戦しにきた客を閉じ込める。脱出できないお化け屋敷として噂になれば、島にもその話が広がり知り合いが来園するだろう。そしてお化け仲間にしてしまえば孤独の身ではなくなる。


「お化けになろうよ。疲れ知らずの快適な体だよ」


 力ずくではなく勧誘という形で、キヨシはラクアを仲間にしようとする。


「嫌だ」


 だが彼は瞬時に断った。彼は目先のことだけでなく遠い未来まで考えて、人間の身でいたいと願っている。



「疲れるのは嫌だけど頑張った証だ。それを感じない体になるのはもっと嫌だ」

「……やっぱり嫌がるよね。それっぽい理由つけて」


 お化けになるなんて危ない誘いなんて、体よく断ろうとするのは当然の反応だ。キヨシはラクアの反応に理解を示すものの、引き下がるつもりはなかった。


「いつか死んで楽になりたい」


 納得してくれないキヨシに、ラクアは仕方なく本音を吐いた。生きるのは疲れるが死ぬまでの辛抱だ。それなのに死んだ後は死ぬことなくお化けとして生き続けるなんてもっと疲れる。体の問題ではない。心の問題だ。


「死んだ人の前でよく言えるね。まあ生き返ったようなものだけど」


 普通の死を得られなかった自分の前で普通の死を望まれるのは複雑な気持ちになる。

 ラクアの言い分を聞いて、キヨシは考えた。今はまだなって日が浅いからこの体に満足しているだけで、やがてもう消えたいと思うかもしれないと。だからそうなったときのためにも分かり合える仲間がいてほしいわけで、ラクアという都合のいい餌を逃すわけにはいかない。


「……ラクアのことだから、アイリを落とせばついてくるでしょ」


 説得するのは難しい。だがラクアを心変わりさせる方法ならあるとキヨシは考えて呟く。好きな子と同じ体質になり永遠に一緒にいられるとなったら、考えは変わるだろうと企んだ。そしてそれを聞いた彼が阻止しようと立ちはだかることも予想のど真ん中だ。


「させねえ」

「威勢だけは立派だね。僕のこと救えなかったのに」


 やる気はあっても成し遂げるだけの力はない、とキヨシは煽る。有言実行できるなら、自分はこんな目に遭っていないのだから。


「あのときは皆で一緒にいるために戦って、その結果僕だけ違う所に行った。それで終わりになんてさせないから」


 これは脅かしではない。確たる信念の下で果たそうとしている。だから手加減もキャンセルもしないと圧をかけた。

 そしてキヨシは走り出し、ラクアに捕まらないよう横を抜ける。捕まえようと追いかけるも、全速力を維持できずどんどん遠ざかっていく。疲れることなく走れるか否かの差だ。

 ラクアは追うのを諦め、出口を目指す方がいいと独り言に出す。一度出て外を回って入口へ向かう方が楽と自分に言い聞かせ、さっきクリアしたとき通った道を自問自答しながら進んだ。

 こんなことになるのだったら遊園地の招待状が届いたかどうか関係なく同級生を連れてくればよかったとか、こうなった以上は倒すより撤退を選んだ方がいいのではとか、思っては人の意見を聞きたくなることが次々と浮かんでくる。誰も話し相手がいないのに、ラクアは絶えず喋りながら出口へと走っていく。



 一方、ただ一人脱出していた西浦(にしうら)あかりは茅場(かやば)久遠(クオン)と出会うと、お化け屋敷へ引き返していた。中に閉じ込められたアイリたちを助けるために、殺し屋を名乗るクオンの力を借りて、まずは現場に向かい状況と標的を伝えようとする。


「あなた、本当に憎んでいるの?」

「うん。でも顔に出ない」


 クオンはアカリが自分を目覚めさせたことを不思議に思っている。依頼を受けて動く殺し屋は、任務に支障を来さないよう標的に感情を向けないことを意識する。

 だがそれは殺せるからだ。いくら手にかけても、不死の生き物は殺せない。


 だから憎悪を向ける。不死でも居心地が悪くなるくらいの憎しみを向けて追い出す。去ったら移動先を突き止めてまた憎しみをぶつける。それをひたすら繰り返し、どこへ行っても不快になると刷り込ませ、精神的に追い詰めて倒す。それがクオンの仕事であり、その実現には強い憎悪が要る。

 この遊園地に不死の標的が現れたという情報を得て潜伏していたクオンを呼び覚ましたのは、皆とお化け屋敷に入り次々と闇に消えて途法に暮れているアカリだった。だが彼女の表情からは、負の感情が見えてこないのが、気になったのだ。


「思っていることと逆のことが顔に出るっていうのかな。そんな能力」


 アカリは我慢しているわけではない。感情に対し表情が意図せず裏返っている。悲しいときに笑たり、嬉しいのに泣いたりする。だから楽しそうな表情の内側で、仲間を失った悲しみや苛立ちが疼いている。

 そこにクオンというキヨシを倒すためにいるような人が現れたものだから、容赦なく仕返しにいこうと燃えていた。


「アカリ!」


 するとラクアがアカリたちを発見した。お化け屋敷に入ったメンバーでそこにいたのは彼女だけで、代わりにクオンという知らない人がいて、ラクアは疑問でいっぱいになった。


「アイリは!? 他の奴らと、ソイツは……」

「えっと…… 皆はあの手に捕まってまだ中に」


 キヨシに生気を吸われ気絶したアイリに、アカリと一緒に出口へ向かったチームメイトの行方。それと別に同行しているクオンの立場。ラクアは気になることを立て続けに尋ね、アカリは圧されつつも順に答える。

 まずチームメイトは全員、お化け屋敷の道中で迫ってきた手によって姿を消してしまった。誰か一人を脱落させるまで離れない手だから、入口へ近づく度に一人また一人と犠牲になるしかなかった。アカリだけ脱出できたのは、たまたま隠し通路を発見したからに過ぎない。


「この人は、最初のメダル取ったときに見かけた黒い花の中にいて」


 続けてクオンのことを話すも、ピンと来てなさそうなラクアの表情を見て、アカリは気づく。そのときまだラクアは同行していなかったから、花のことを知らないと。


「この中にいるのね。殺すべき敵が」

「そうだけど待って……」

「……殺す?」


 クオンは当初ラクアを標的と認識したが、アカリと面識があることから勘違いと理解し、この施設の中に突入しようとした。だが無計画で行くのは危ないとアカリは呼び止め、不穏なワードが聞こえたラクアも彼女を止めようとした。


「お前、何だ」

「殺し屋よ。あなたたちの友達を襲った奴を、私は倒す」


 アカリの連れだから悪い人ではないと思っていたが、それは間違いだとラクアは確信した。クオンをキヨシに会わせるわけにはいかない。

 だが今そんなことに労力を割いている場合でもない。キヨシがアイリを狙って動き出した。そしてアカリから話を聞いた限り、中で倒れている可能性が高い。彼に見つかる前に早く入口から入り、見つけ出さなくてはならないのだ。

 かといってクオンを無視しても、勝手についてくるだろう。彼女を押さえておくようアカリに頼めるような簡単な話でもない。誰かに任せられないなら面倒でも自分でどうにかする。ラクアは無言でクオンに掴みかかった。


 体を掴まれただけで体力が削られるのを実感したクオンは警戒心を高め、能力を使いラクアの影に潜る。突然消えたことに彼は驚きつつも、そういう能力者だと割り切って、奇襲に備える。だが影から飛び出し背中を取られた彼は、強い衝撃を加えられてうつ伏せに倒れた。

 だがその際に触れたことで彼の能力も発揮し、クオンはまるで何人も倒したくらいの疲れが一気に溜まった。

 お互いに力を認め、楽に勝てる相手ではないと悟る。だからこそ、引き下がるわけにいかないと本気になった。ここで敗れて相手を好きにさせるわけにいかない。

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