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22話 戻ってくるまで話す

「とりあえず席決めよう。最初はイコイが選んでいいよ」

「オーケー。じゃあここで」


 遊園地で七つのアトラクションの制覇を目指す西浦(にしうら)あかりたちは、六つ目の施設に向けてレストランで腹ごしらえをしにきた。チームの六人でテーブルを囲うにあたり、先行してテーブル席の確保していた大森(おおもり)(イコイ)には、自由に席を選べるくらいの見返りがあってもいい。アカリがそう進言するとイコイは注文口に最も近い端の椅子を選んだ。


 イコイは全速力の早足で向かっただけで大したことはしていない。全速力を出すのも彼の特殊能力を使えば疲れることはなく、罰ゲームではなく適任だから率先して向かったに過ぎない。

 だがそれを評価してくれたアカリの優しさを受け止め、座ると彼女に会釈する。彼女も視線に気づき笑顔を向けるも、本音は違う。わざわざ評価するほどの行動とは思っていない。皆の席を決める仕切り役になるためにイコイを利用しただけだ。


「行動が早いって良いことだよね。話聞きたいなあ」


 アカリは川口(かわぐち)青空澄(アスミ)を捕まえてイコイの正面の席に着き、その横にアスミを座らせた。アスミは時間にルーズだ。この遊園地に来るとき、途中の駅で合流する約束をしていたが、集合時間に彼女は遅れた。結果的にギリギリ遅刻は免れたものの、気が乗らないうちは布団から出る気になれないのは彼女の悪い癖だ。


 誰よりも遅く動くアスミには、逆に真っ先に動くイコイの爪の垢を煎じて飲ませたい。食事しながら彼の意見を聞けるとためになると考えたアカリは、アスミ共々彼の近くの席に着いた。アスミは嫌そうな反応を見せるが、拒否権は与えず次のことを考える。どうやって、日比谷(ひびや)興奈(オキナ)をイコイの横でアスミの正面に座らようかと。二人のどちらかを口実にできればいいが、なかなか思いつかず、何かヒントは無いかと見つめてみた。


 一方美南(みなみ)哀月(アイリ)が焦る。アカリの近くの席に着きたいのに、正面も横も埋まってしまった。残り三席のうち、ベストポジションは斜め一マスの席。


「あまり夢見ない方がいいけどね」


 だがその席はオキナに取られてしまった。彼はアカリが残りのメンバーの席も決めるのだろうと思って待っていたが、決めあぐねていると悟り、手を貸した。

 ただどんな意見を求められているかは二つ候補がある。一つは好きな席に着くことで、もう一つは特定のメンバーの位置を誘導すること。だからオキナは正解を確かめるべく、ゆっくり席に座ろうとしながらアカリの反応を窺う。間違いならすぐ立ち上がれるよう慎重に。


「急げば間に合うからって無茶することもある。イコイが変なこと言わないか見張らせてもらいたい」

「どうぞ」


 家の位置の都合で、オキナはアスミたちとではなくイコイと一緒に来た。だから彼女の寝坊に影響されなかった反面、イコイも時間ギリギリに出たせいで彼も危うく乗り逃しそうになった。座席が早い者勝ちのレストランは早く着けば早く食べられるが、便と席が決まっている飛行機は早く着いても離陸は早まらない。

 イコイにとっては計算内で、疲れず全速力を維持できること、オキナをキャリーケースに乗せて運ぶことも苦ではないことから、能力での解決を楽しんでいた。


 有益な能力だが振り回される身としてはヒヤヒヤする。身をもって知ったオキナは、アカリたちが調子に乗ったイコイの言葉に流されないよう監視が必要と考え、彼らと近くの席がいいと告げたのだ。


 結果的にアカリの臨む展開になったので彼女は内心喜んでいる。だが彼女の能力で表情が裏返り、傍から見れば困りながらもオキナの意見を飲んだかのようだった。


 アカリにとっては自分含めて席の決まった四人の並びはどうでもいい。彼女の狙いは残り二人、三郷(みさと)楽阿(ラクア)美南(みなみ)哀月(アイリ)を向かい合って座らせることだった。オキナの助力もあって狙い通り実現した。後は二人が向き合って、良い感じになるのを期待する。



「イコイ、席代わって」

「駄目だよ。私が話したいから」


 だがラクアの近くは嫌なアイリは足掻いてイコイに席のトレードを申し込む。アカリの近くがいいから交換先は彼が最適だ。だが彼が答えるより先にアカリが断る。せっかくラクアと顔を合わせて話す機会を作れたのに、ふいにするわけにいかない。そんな本心は伏せつつ、彼に用があるから離されては困ると告げた。

 一方ラクアはアイリの言葉にショックを受けた。男女で向き合って食事なんて給食では当たり前のことなのに、好きな子に拒まれて心が傷ついた。


「買ってくる」


 そんな気分で席に着くのも気まずいラクアは、アイリとタイミングをずらして注文しにいくことで気を使う時間を削ろうとした。アカリたちは彼を見送り、戻ってくるまで話すことにした。



「私は分かっちゃうんだって。今行っても面白くないって」

「それで間に合わなかったら本末転倒なんだよ」


 結局席は決め直さず、押し切ったアカリはイコイたちと会話する。アスミは遅刻癖を能力由来だと弁明するも、所詮は気分が乗らないだけであり、まだ行きたくなくても約束を守るのは当然のことだとアカリは反論する。

 確かに行く時間帯によって見られるものは変わるかもしれない。自分の計画ルートに変更はなくても出会う人が変わるし、人の流れ次第で混雑を考慮し自分たちのルートが変わった可能性はある。

 アスミは成功するタイミングが直感で分かる能力があり、ピンと来たら即行動する反面、来るまでは動きたくないという思考にも走っている。それでも時間を守って行動するのは当然のことだが、彼女は自分を優先する。たとえその結果何も行動をしないことになろうとも、きっと今行っても大して面白くなかったと割り切るタイプだ。

 だがそんな展開をアカリは嫌だと思う。


「アカリだって散々怪しんでいたじゃん」

「そうだけど……」


 アスミにとって遊園地に行かないという選択肢はマイナスではない。何もしていないのに招待状が届いたことがきっかけで行くという選択肢が生まれたに過ぎず、届かなかったことにしたところで失うものは何もない。むしろ詐欺か何かの線もあり得るし、一見サービス満載に見えるものに近づかない方が正しいという見方もある。

 実際アカリは警戒しており、けれども招待状を受けた能力者仲間が何人かいて、その中には仲の良い友達もいたから、一緒にいることを条件に参加を選んだ。


 もしもアスミのせいで出発に間に合わなければ、実際が罠であっても巻き込まれずに済むので、遅刻にはむしろ感謝するべき。そう開き直る彼女にアカリは言いくるめられそうになるも、反論を探す。


「そろそろ何か起こっていてもいい気がする。早いチームは七つ制覇していそうだし」

「確かに。私たちが今五つだから、コンプしている人いるよね」


 罠かはさておき、遊園地で何かが起こるのは間違いないとオキナは睨んでいる。ある瞬間は時を待っていれば訪れると考えていたが、現状は何もない。その瞬間とは遊園地のミッションである、七つ施設の制覇。

 メダルは個人ではなくチームで集めてよく、手分けしてクリアする方が早い。アカリたちはまとまって集めているため堅実だが遅く、それでもとうとう五つクリアした。

 制覇したらスゴいことが起こると言われているが、何か起こったようには思えない。分担し実力もあるチームの一つや二つはあるだろうからすでに制覇を達成していても不思議ではないのに、アナウンスすらない。


「まだいないだけじゃない?」

「難しいのかな」


 だが単に制覇は未達成なだけかもしれない。アカリたちは残り二つの施設がどんなものか知らず、すでにクリアした五つの施設と同程度の難易度と仮定して、もう制覇者がいる頃合いと考えていた。だがたまたま彼女らが後回しにしている施設で難易度が跳ね上がり他の客が躓いているとなれば、音沙汰なしの現状にも納得がいく。

 するとアカリは勘づいた。


「だとしたら向こうは大混雑なんじゃない? クリアするまでループしている人が多いから」

「そうかも。他が空いているのも納得」


 メダルゲットに失敗したら列に並び直す。そんな人が多いと待機列は長くなり、難易度が高いとなるとアカリたちが着く頃にも混雑は解消されていないかもしれない。それだけ人が留まっていれば、あるいはギブアップして帰宅を済ませていれば、このレストランなどの他のエリアから客が減っていることも腑に落ちる。


 謎に包まれた制覇の報酬、その割に緩い挑戦難易度に、実は高いかもしれないクリアのハードル。まだ閉園は先の時間なのに減っている客。数々の疑問が繋がり、アカリは不安が薄れた。


「俺たちも苦戦するかもな。メンバーとか作戦とか、しっかり考えないと」

「うん。やればクリアできるとも限らないものね」


 イコイは気を引き締める。これまでは大半が、挑戦する四人の中で一位になればメダルをゲットできた。四人を同じチームで固めてしまえば、どんなに手を抜いても誰かがメダルを入手し、チームとしては目標達成。

 だから楽しむことや能力の活かし方を試すことを優先し、勝利への執着なしで挑戦できた。

 だが一つだけ、四人で競争ではなく協力して施設の敵を倒すことがクリア条件の施設があった。これは四人が何もしないと当然負けてしまい、チームで力を合わせたからクリアできた。

 そんな施設が他にも残っているとなると、軽い気持ちで挑戦しては失敗する。六人のチームで最大四人が参加で残りは留守番な都合、出番のバランス調整をするとか、頑張らず人任せにするとか、ふわっとした理由で選抜していてはクリアに届かないだろう。


「……まさか制覇できないって分かってて、やる気が起きなかったの?」


 ここまで楽しめたが、制覇できないと釈然としない。達成感は不完全燃焼で、制覇すると何が起こるのか分からずじまい。そんな結末を迎えては、満足とは言えないだろう。

 そう思ったアカリは、朝アスミのモチベーションが上がらなかったことと関係あるのではと察した。制覇できる予感がしなかったから動く気になれないまま約束の時間を過ぎたのではないかと。


「……バレちゃった」

「どうして黙っていたの」

「言っても聞かないでしょ」


 アスミは白状した。アカリは問い詰めるも、仮に出発前に告げていたとしても説得は成功しないと思っていたと反論された。

 やってみないと分からないとかむしろ予感を覆したいとか、そもそも招待状を無視するのはもったいないとか様々な理由を出されて、結局行くことになるだろうから、水を差すのを控えていたのだ。


「別にいいけどな、クリアできなくても」

「えー、自慢したいじゃん」


 オキナは制覇に固執せず、普通に楽しむことに切り替えるのはアリと考える派で、イコイは招待状が来なかった能力者仲間への土産話にしたいからどうにか制覇したいに立つ。

 とはいえお互い強要せず、意見が割れても平穏だ。協調性があり、周りに応じて意見を切り替えられる。


「お待たせ」

「後で話そうか」


 注文が届いたラクアがトレーを運んで戻ってきた。荷物番は彼に任せて今度はアカリたちが買いに行く。その間に各々考えてまた話し合おうと告げ、解散した。


「アイリの分も選んでくるから、どんな話だったか教えてあげて」


 アイリも便乗しようとしたがラクアと待っているようアカリにストップをかけられ、叶わなかった。戻ってくるまでに話しておくよう頼まれ、断れる空気ではなかった。彼と二人だけなのは気まずいが、話題を提供してくれたのは幸いだ。



「そろそろ誰か制覇してもいい時間だけど静かだね、難しいかもねって話」

「ふーん」

「だからアスミは行く気になれなくて乗り遅れそうになったみたい」


 ラクアは頷いて食べるだけだった。気にするほどのことではないと割り切り、マイペースに食事する。


「ラクアがいい加減だとアカリが悲しむから、本気でやって」

「言われなくてもやるから。お前の分まで」


 アイリは次回こそ留守番に回るつもりで、代わりにラクアには頑張ってもらいたい。制覇できないまま終わるとアカリは落ち込むだろうから、彼女の笑顔のためにその恵まれた力を振るうよう頼んだ。

 彼はうんざりしながら返事する。本気でやれとはレストランに来る途中、すでにアイリに頼まれていた。動機が他にあろうとやることは変わらないから、余計な情報を詰め込められるのを嫌った。


 アカリは注文を待っている間にこっそりラクアたちの様子を眺める。アイリの方から話しかけてラクアも多少は口を動かしているのは見えたが、まだギクシャクしていそうで不安そうに微笑んで見守った。

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