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21話 黙って我慢して

 遊園地で七つのアトラクションの制覇を目指す西浦(にしうら)あかりたちは、五つ目の施設をクリアした。あと二つだがもう昼下がり、そろそろ食事をしたい頃合いだ。


「お腹空いたね」

「レストランも空いたんじゃない?」


 アカリの知り合いでここに来たのは招待状が届いたメンバーだが、他の客は大勢いる。普段通りの時間帯に食事に行っても混んでいて、チームでまとまって席に着くのは難しい。だから我慢しつつ施設クリアを優先し、時間帯をずらして昼食を摂るつもりでいた。


「うん、今なら座れそう」

「よし行ってくる」


 待たずにテーブルを確保できると川口(かわぐち)青空澄(アスミ)が直感し、移動の速さに自信がある大森(おおもり)(イコイ)が向かった。先に一人で行ってその席をキープしておけば、他のメンバは急がなくても大丈夫だ。


「ラクアは平気なんじゃない? 全然動いていないし」


 お腹が空くのは園内を巡って歩いたり施設に挑戦したりしたからであり、チームメイトが施設クリアの証のメダル集めに励んでいるなか半数が集まるまでずっと休んでいればエネルギーを使わない。美南(みなみ)哀月(アイリ)三郷(みさと)楽阿(ラクア)に向かって、一緒に食事する資格はないと遠回しに仲間外れにしようとする。天然ではなく故意に。


「そんなこと言わないで…… ちょっとでいいから食べない?」


 アカリはラクアの返事を待たずに割って入る。彼は他校生で、三ヶ月前にお互いに特殊能力者になった縁で交流が生まれ、彼の性格は読めてきた。彼はアイリのことが好きだが楽することを最優先にする。除け者扱いされたら揉め事を避けようと一人になろうとするだろうから、アカリは呼び止めた。


「このメンバーで食べるのは今日だけかもしれないし」

「……そうだな。最後かもしれねえし」


 招待状が届くまでは存在すら知らなかった遊園地にはるばる来た。なぜ届いたのかは不明なままだが、せっかくなら食事も味わいたい。もう二度と来られないわけではなく、また来たときに食べるのも可能だ。だがそれは一人ならのことで、この六人が都合良く再結集するとは限らない。

 もしかしたら今回きりかもしれず、それなら今しかできないことをしたい。注文が届いたり食べたりしたときにどんな反応をするか見るのが好きなアカリは、ぜひラクアとも一緒に食事に行きたいと願う。


 その願いは結果的に届いた。ラクアはここでの食事の機会はまたいつか訪れるなんて楽観視せず、むしろ今回が最後になるかもしれないと身構え、行くことにした。


「私もアカリと一緒がいい」


 するとアイリはアカリの意見に賛成した。彼女と一緒に食べたいし、彼女の思いを無下にしたくはないから、ラクアの同行を受け入れたのだ。

 アカリは丸く収まって安堵する一方で、喧嘩をふっかけてあっさり撤回したアイリに困惑した。あの程度で納得するなら最初から黙って我慢してほしかったと思う。そうしてくれたら今のいざこざはなかっただろうから。



「それに、次は私出ないから」

「食べた後に言えばいいだろ」


 施設はいずれも四人ずつ挑戦する。対決で一位になるとメダルをゲットできる形式なら同じチームの四人で参加すれば誰かしら一位になるし、協力クリアしてメダルをゲットする形式なら同じチームで参加した方が成功しやすい。だからこれまでの施設はチームの中から四人を選び残りは観戦。挑戦したいなら七つ制覇した後の自由行動の時間に回すことにしている。

 

 ラクアが合流した前回からは、二人が観戦に回る。その一人にアイリは立候補した。さっきの彼の発言を受けて、彼への当てつけで、このタイミングで告げた。


「イコイいないし、食った後に気分変わるかもしれねえのに」

「まあでも、アイリはずっと出てたから」


 席の確保を引き受け先に向かったイコイが不在のときに決めて、彼も次回は留守番がいいと言い出したら決め直しだ。そして食後のコンディションや次の施設の内容次第で、モチベーションが変わることもあり得る。

 今は考えず、直前になって皆で相談する方が楽。そう考えたラクアは、今の段階で選ぶことも、一枠をアイリが埋めておくことにも反対した。


 アカリはラクアの言い分は正しいと思いつつも、今までの五施設でアイリ以外は一度か二度留守番しているなか彼女はずっと参加しているので、そろそろ譲る番になることに異論はない。むしろそういう理由で一人決めておく方が、残り五人から楽に選べるだろう。

 逆にラクアはこれまで四施設に参加していないから残り二施設で留守番に回らなくてもよく、そのため実質残り四人から一人をアイリと留守番に選ぶことになり、それくらいならすぐ決まるだろう。


「その分ラクアが頑張るわけだし、ちゃんと食べておいてね」


 だがアイリが前もって告げたことには意味がある。ラクアは彼女が遊園地に来なければ自分も来なかったと言っていた。その理由は彼女のことが好きだからだが、素直にそう言えず、彼女に任せておけば自分は楽できるからと答えた。

 それを真に受けた彼女は、能力者として最高ランクと評価されるだけの実力はあるのに他力本願な彼に苛立った。そこで次をチャンスと考えた。これまでの出番の偏りから自然に留守番に回ることができ、すると彼は彼女の手を借りず施設をクリアしなくてはならなくなる。内容次第では本気を出さないとクリアできないかもしれず、そうなったときに備えて栄養を摂っておくよう勧めたのだ。


「頑張らないと駄目なのか?」

「知らないけど、適当にやるだけじゃ駄目な所もあったよ。ね?」

「うん、四人で協力する奴」

「全然知らないのね。休んでいたから」


 ラクアはさっきの施設を途中まで一位を目指して本気を出したものの、周りの音や景色、声で気が散り、ペースが乱れたのを機にやる気が失せた。だがその施設は四人で競い一位になった人にメダルが渡されるもので、彼と競い合ったのはアイリたちチームメイト。だから彼が勝っても他の誰が勝っても、チームとしてのメダル集めが進展するという結果に変わりはない。最下位で終わっても関係ないと割り切り、挽回を諦めた。


 ラクアはそんな施設を経験したから、残りの施設も似たものと考えている。四人で競うにしてもチーム内での競争なら、自分が頑張らなくても、いっそ誰も頑張らなくても誰かがメダルをゲットする。一人で挑戦して他のチームの人と競う場合は負けられないが、チームの方針は手分けしてメダルを集めるのではなく、一緒に来たから一緒に回ろうというもので、制覇するまでは一人で参加することはない。


 だがタイプが対決ではない施設もある。四人で競うのではなく、味方としてクリアを目指す協力タイプだ。ラクアが合流する前に回った四つの施設。その中に一つ、その形式のものがあった。もちろんそこもチームの四人で挑戦し、唯一留守番に回っていたアカリは後方から盤面を見つつ声を出してフォローに入り、全員で力を合わせて一発でクリアした。

 そんなことがあったことをアイリに聞かれたアカリは正直に頷く。信用を得た彼女はむしろ休んでいたせいで施設のことを知らないラクアを煽り、彼はイライラしつつも反論はできなかった。休んでいたのは皆に言えない秘密があるからなどではない。シンプルにやる気が湧かなかっただけだ。


「で、実際どうなの?」


 もしアイリの予想が正しければ、ラクアも本気でやらないとクリアできないかもしれず、本気を出せるだけのエネルギーを摂るつもりで食事をしておく必要がある。

 だが予想が当たっているかを先に確かめたい。もし前の施設同様、どうやっても誰かがメダルをゲットできるとしたら、溜めたエネルギーは無駄になる。だから食べる前に知りたいラクアは、自分で足を運ぶのではなく、皆に尋ねた。聞く方が早いとはいえ、こういう図太さを改善しないからアイリを逆撫でするのではないかとアカリは内心ツッコミを入れつつも、聞かれたことには答えてあげようとした。



「いつもは着いてから調べてたから……」


 アカリはパッと答えが出ない。今までどうやって施設の概要を把握していたか思い返すと、事前に分かっていたのは場所だけで、内容は現地に着いてから看板や先に挑戦している客を見て理解していた。だが今は次の施設ではなくレストランに向かっているので分からない。


「次とその次のことも考えて、たくさん食べておけばいいと思う」


 日比谷(ひびや)興奈(オキナ)は助言した。もしかしたら次の施設はラクアが頑張らなくてもクリアできるかもしれない。だが制覇までにはもう一つ施設があり、そちらはオキナは下見して概要を知っている。

 アイリは次の施設で留守番に回ると宣言したが、その次は参加するとも限らない。そしてその施設は、これまでの対決と協力の難しい要素を合わせた最難関の施設。もし彼女がその次も留守番になると、クリアの鍵はラクアが握る。そうなる予感がするオキナは、そのことは伏せつつ、彼に準備を促した。


「ここで少し食べてまた後で来るのは面倒でしょ」

「そうだな。一回で済ませる方が楽。いいや、調べなくて」


 それに今次の施設を下見してエネルギーは要らないと判断して食事を抑えても、最後の施設を知ってエネルギーが要ることになれば、またレストランに来なくてはならない。それをラクアは嫌うと読んでオキナは告げると、彼は納得し、今たくさん食べておく方が後々楽できると考えた。

 どのみち今がっつり食べるから、次の施設がどんなものかは関係ない。むしろ余計な情報となり、頭に入れるのは後にしたい。調べてもらうのをストップし、気にせずレストランに向かうことにした。


「……ありがとね」


 アカリはこっそりオキナにお礼を言った。彼のおかげで事態は丸く収まった。感謝された彼は下見の甲斐があったと安堵しつつも、こっそり下見していたことは内緒のままとした。



 しばらくしてアカリたちもレストランに到着し、イコイが先に確保していたテーブルに向かう。妙に人が少なくて、彼とはすぐに合流できた。


「え、人少なくない?」

「この時間ならこんなものじゃない?」


 アカリは客の少なさを不審に思うも、混雑の時間帯を避ければこれくらいが普通だと、皆は疑問に思わない。


「もう帰った人もいるだろうしな」

「疲れたのかもね。誰かと同じで」


 レストランだけでなく、園内の人が減っている。それなら施設は空いていて、待ち時間に食事に行こうとする人も減る。満足して帰宅した人が出てくる頃だから空いてきたと考えるラクアだが、満足したのではなく疲れて帰った人もいると捉えたアイリが予想を挙げつつさりげなく彼をおちょくる。

 嫌味を言われたと気づいたラクアは呆れつつも、疲れているのは本当なので弁明はできなかった。

 

「待たずに注文できるのは良いことじゃん」


 空いていることにラクアはデメリットを感じない。注文の列は短いので、早めに食事が届く。その点にはアカリも同意見だが、彼女は不安が拭えない。知らないうちに客が少しずつ減っている気がする。ここが普通の遊園地ならここまで気になることはなかっただろう。


「ちょっと前は混んでいたとか?」

「いや、そんなことはない。制覇したか、諦めたか…… 帰る理由は色々あるんだろ」


 アカリはイコイに尋ねる。もしかしたら先に彼が着いたときはもっと人がいて、自分たちが到着するまでに出ていった人が多いから今は空いているのではないかと。それなら人が少ないのはたまたまだと分かって安心できる。

 だが彼は来たときと今で混み具合は同じくらいだと答えた。彼は空いていることを不審に思わなかったしアカリたちが来る前までに気づいたことがあるわけでもない。

 だが理由として考えられたのは、自分たちと同じく施設の制覇をゴールに据えている客が多くて、すでに制覇した、あるいはギブアップした結果、遊園地を出たというもの。

 彼らはチームでまとまって行動しているため、堅実にメダルは集まりつつも、分散して集まるより無駄が多い。だが手分けすると他のチームに負けて、勝つまで並び直しというリスクもあるので、よほど個々の実力がないと分散して早く集めるのは困難。だから制覇したチームより諦めたチームの方が多いとイコイは考えている。


「やっぱりあれじゃない? あの協力してクリアする場所」

「あれチームでやっても難しいからな。ホントよくクリアしたよ」


 クリアの難しい施設にラクア以外は心当たりがある。手応えのある施設だったが、それを自分たちはクリアした。諦めて帰宅するくらいの施設を乗り越えたことを噛み締め、制覇する数少ないチームになれると期待し、気分が高まった。

 人が少ないことをポジティブに捉える皆を見て、アカリも笑った。そういうことにしておき、不安は胸に秘めた。

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