2章.31 “魔弓“
少し長くなりましたが2章終わりです!
お付き合い頂きありがとうございました!
夜に間話と3章に入る予定ですので、引き継ぎ読んで貰えたら嬉しいです!
冒険者ギルドへの道のりで疲れ切った俺は、逃げるように扉に入った。
「おっ!来たぞ!“魔弓“だ!」
「王級討伐者だ!道を開けろ!」
なんか物騒な名前が飛び交っている。
まさかここでもか…。
俺が逃げ場がない事に絶望してると、ジニアさんが助けに来てくれた。
「ウルド君、お待ちしてました。本日は娘さんもご一緒なんですね。早速ですが、会議室の方にお願いします。ギルドマスターもすぐいらっしゃいますので。後、ミレイの事ありがとうございます。」
「俺は何もしてませんよ。俺の失態を俺に謝るのでお説教しただけです。行きましょう。」
俺がそう言うと、ミレイさんはもう気にしていない様子だった。
ジニアさんに感謝されて少し気恥ずかしくなったので、早足で会議室に向かう事にした。
「ウルド、また照れてるっ!恥ずかしがり屋さんだねっ!」
「そうだねー!ウルド君は恥ずかしがり屋さんだねー!」
オリビアとミレイさんはすっかり仲良しになったみたいだ。
嬉しいけど2人で俺をイジるのはやめてね?
そんな姉妹の様な2人をスルーしつつ、会議室に着いた俺は入室してザイルさんを待った。
暫く待つと、扉をノックしてザイルさんがやってきたが、だいぶお疲れの様子だ。
「ウルド君、来てくれてありがとうございます。事が事なので、事後処理を早く進めたかったので助かります。」
「だいぶやつれてますけど大丈夫ですか…?正直、俺の怪我より今のザイルさんの方が危険なんじゃ…?」
完全にブラック企業の管理職じゃん…。
冒険者引退してもギルドだけはやめとこう…。
そんな事を考えていると、ザイルさんは困った様な笑顔を作る。
「心配掛けちゃいましたね。ですが僕の仕事は殆ど片付けたので大丈夫です。それこそ、君への報酬と今後についてのお話で終わりなので。では早速、今回の報酬についてお話しますね。」
そう言ってザイルさんは1枚の紙を取り出した。
「高ランク冒険者の依頼ですと報酬が高額なので、小切手で渡してギルドの口座に預かる形になってます。引き出す時は受付でギルドカードを渡して下さい。ではこちらです。」
俺はペラペラの紙を1枚受け取り確認すると思わず声が出てしまった。
「……は?金貨300枚…?これ貰い過ぎじゃないですか…?」
それを聞いたオリビアとミレイさんも絶句している。
「金額は合ってますよ。君は王級を討ち取ったんですから当然の報酬です。むしろ、正規のランクで依頼された場合はもっと増えます。なので早くAランクになって下さいね?」
目指すランクがひとつ上に上がっていた。
でも結局はAランクになれば旅もしやすくなるし、旅中でも稼げるのは大きい。
「分かりました。俺の夢の為にもAランクを目指します。」
ザイルさんにそう伝えると、宜しいと頷き話を続ける。
「さて、実はこちらが本題なんですが、冒険者達が貴方の事を現在なんて呼んでいるか知っていますか?」
俺はさっき会った冒険者達を思い出した。
「魔弓とか王級討伐者とか言ってたやつですか?」
「そうです。王級討伐者は王級を討伐した者の称号なので違いますが、“魔弓“はウルド君を指す異名です。異名とは、我々ギルドが名付ける訳ではなく、冒険者達がその冒険者を認め讃えた証。これからのウルド君の活躍でローガンの“剛剣“の様に世界へ広まるでしょう。」
なるほど、俺はてっきりギルドから与えられるのだと思ってた。
更にザイルさんは話を続ける。
「そしてこれから話す事は忠告というより助言です。いいですか?恐らく遠くない未来にエルフの国であるティーザニア王国が接触してくる事でしょう。しかし、ウルド君は関わらない方がいい。関われば君は間違いなく良い結果にはならない。勿論そうならない可能性もありますが、十中八九そうなります。それに相手次第ですが、下手をすれば敵対します。」
俺は真剣に聞き入った。
恐らく俺が敵対するとすれば、里や知り合い関係に何かされるかオリビア関係だ。
そして恐らくは後者だろう。
「なるほど。でも何でわざわざエルフだからって、こんな辺境の街の冒険者に接触するんです?王国なら人材なんて沢山いるんでしょう?」
そう、俺は所詮、田舎の里生まれのエルフだ。
多少腕が良いからって、俺なら自分から接触なんてわざわざしない。
「ティーザニア王国の国王はハイエルフというエルフの上位種族です。そしてこのまま成長すれば、君は届き得る力を持っている。それに決定打は君のスキル『精霊使い』です。ティーザニア王国は精霊信仰の国、ウルド君は彼らからは神の御子として喉から手が出る程に欲しい人材です。」
そこで俺は取り返しのつかない過ちに気付いた。
まずは精霊使いを隠さなかった事。
これは10歳の時点で隠してない時点で防ぎようがなかった。
そしてもうひとつ、オーク王との戦いで堂々と披露してしまった事だ。
“魔弓“という名が広まれば戦いの詳細も広がるだろう。
そうすれば必ず俺が精霊使いだと伝わってしまう。
「…そいつらが実力行使をする可能性は?」
俺は一番心配だった質問をする。
「大いにあり得ますが、最初からはないでしょう。何せ僕がいますからね。一応末席ですが僕もティーザニアの王族の1人ですから。」
………マジで?
俺の脳内が完全停止しているが、更にザイルさんは続ける。
「ギルド職員は知ってる事なので隠してないんですがね。僕が国を出た意味が分かるでしょう?今は知りませんが、かつては僕も若かったので、あの国の考えが嫌いで…。周りの王族にキレちゃいまして。周りの人達を半殺しにして国を出て冒険者になったんです。600年前とかですかね。」
とんでもない経歴をお持ちだった。
大人しい人程、怒らせるとヤバいって本当なんだ…。
「なので用心して下さい。彼らが変わっていれば良いですが、恐らくあの国の王族には無理でしょう。
何せ長命の種族ですし、あいつらは外に出ない。変わり様がないんですから。」
ザイルさんの静かな怒りを感じる。
恐らくキレるだけの理由があったんだろう。
じゃなきゃザイルさんがそんな手段を取るとは思えないからだ。
「分かりました。接触がある場合は気を付けます。俺もわざわざ不快な気分になる為に行きたくありませんからね。」
俺がそう言うと、ザイルさんから怒りの空気が消えていつものザイルさんに戻った様に見えた。
「これで全て終わりです。最後はお節介でしたが、君が僕と同じ道を辿る未来がハッキリ見えるので言わずにいれませんでした。それではお疲れ様でした。冬はゆっくりして疲れを癒やして下さいね。」
それからオリビアと今日は有給らしいミレイさんと一緒に、妖精の誘い亭で夕食にして帰宅した。
俺は帰ってからずっとエルフの国の話が頭から離れなかった。
父さんや母さんも話さなかったエルフの国、ティーザニア王国。
いざその時に俺はどうするのか、今の俺にはまだ答えは出ない。
だが、オリビアや俺の身内に危険が迫ったら…。
オリビアの寝顔を見て、俺はいずれ来るだろう選択を間違えない様にしようと心に誓った。




