2章.19 もう1人じゃない
予約したはずが出来てなかった!
その日の夜、マスターに宿を出る事を伝える。
「急な出立で申し訳ないのですが、オリビアを早くザガルタに連れて行ってあげたいんです。カサンドラにいるより、この子にとっては良い環境なんで。」
「そうか、寂しくなるな。カサンドラに来た時はまた2人でうちに来てくれよ!サービスするからよ!それに、オリビアちゃんに何か言う野郎は、俺がぶっ飛ばしてやるからな!だからウルド、次は気にせず、堂々と来てくれよ?」
親父…。
なんでこう、宿屋の厳つい親父はみんな良い奴なんだ…。
泣かせる事を言うんじゃないよ…。
「約束します。次は2人で、必ず。」
「…おじさん、あり、がと…。」
俺達は固い握手を、そしてオリビアの声を初めて聞いて、しかも感謝の言葉を貰ったマスターは漢泣きしていた。
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カサンドラを離れるのに流石に挨拶しない訳には行かないので、俺はパゴダさんの店に立ち寄った。
「ウルドさん。おはようございます。あら?その子は?」
パゴダさんの奥さんのアメリアさんだ。
開店前らしく、店員達は準備でバタバタしている。
「闇市で奴隷にされてたんですが、ちょっと扱いが許せなくて買い取ったんです。今はもう奴隷じゃないんですが、無責任に放り出したくないので一緒にザガルタに行こうと思ってます。」
俺は闇市の光景を思い出して怒りと悲しみが顔に出てたのか、アメリアさんは俺の顔を見て優しい顔になっていた。
「旦那も言ってましたが、ウルドさんは本当に優しい心をお持ちなんですね。旦那は損と言いましたが私はそうは思いませんわ。ふふっ!まさかカサンドラに来たら子持ちのパパになるなんて、吟遊詩人がネタにしそうですね!あっ、旦那は商談中ですので私から伝えておきます。道中どうかお気をつけて下さいね?」
この奥さん、面白がってるな?
俺は今何を言っても敵わないなと苦笑して、ありがとうございますと一礼して店を後にした。
流石に帰り道でオリビアを抱っこしながら受けられる依頼などある訳がないので、俺達2人はカサンドラをそのまま出立した。
ただ、野営なんて危険な真似をオリビアにはさせられないので、俺は久々に風魔法を足に纏ってかっ飛ばす事にする。
「オリビア、今から魔法でちょっとスピード出すから、怖かったら目を瞑っててね?」
「魔法…?わっ!?きゃあっ!!」
オリビアを抱き抱え、全力で飛ばして行く。
魔力探知を全力で使って、警戒しつつも街道を駆け抜けて行った。
街道を進む事1時間。
「さて、そろそろ普通に歩くけどオリビアも歩く?ピクニックみたいで楽しいよ。」
「わたし、足に力入らない……。」
流石に飛ばし過ぎてしまったかな?
グロッキーなオリビアをそのまま抱き抱え、俺達は1日でザガルタに帰還した。
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ザガルタに着き、まずは世話になってた宿屋に向かう。
ここに断られたら現状だと野宿になってしまう。
ダークエルフへの偏見がザガルタでも起こるか不明の為、それは仕方ない。
『妖精の誘い亭』に着いて扉を開くと、いつもの元気なウェイトレスさんが迎えてくれた。
「いらっしゃいませー!あら、お客さんお久しぶりですー!その娘はどうしたんですかー?」
「ちょっと色々あって面倒見てるんです。マスターはいますか?」
すると、厨房の奥から久々に厳つい顔が現れた。
「お前か。早かったが、それが原因か?」
ひと目で察してくれてありがたい。
「ご明察です。ダークエルフはご存知ですか?闇市で色々あって引き取りました。犯罪とかではありませんので。」
「俺には関係ねえ。で、泊まるのか?」
マスターは一切気にしない様子で対応してくれる。
…だから好きなんだよ、ここが。
「とりあえずこれで2人分、食事付きで何泊行けますか?」
2人で暮らすとなるとそろそろ貯金が厳しい。
人数が増えれば出る金も増えるのだ
。
とりあえず金貨10枚を出して、2人でも20日はいけるはずだ。
迷惑料を考えると2週間ぐらいか?
すると、マスターは6枚受け取る。
「前にサービスすると言ったな。ガキ1人なんて半人前以前から金は取れねえ。飯抜きで1ヶ月、ありなら追加で貰う。部屋は前と同じとこを使え。」
「なら、朝晩付きでお願いします。暫くまたお世話になりますね。」
「おい、…ったく、多過ぎるってんだよ。」
俺は金貨を2枚を置き一礼して、マスターの返答を聞かず部屋に向かった。
これぐらいは厄介料として受け取ってくれ。
俺達は部屋に入って、まずは早速オリビアとこれからについて話し合う事にした。
「オリビア、金を稼がないといけない。じゃなきゃ俺達、野宿生活だからね。だから、明日から俺は冒険者としてまた働く訳なんだけど。」
オリビアは俯き、ワンピースの裾をギュッとしている。
まぁ、そう簡単には行かないか。
「俺も連れて行きたいけど、俺もまだ未熟でオリビアを守りながらは厳しい。これはわかるね?」
「……うん。」
おっ?これは光明が見えてきたな。
「良い子だね。お金を貯めたら家を買うか借りるから、それまでの辛抱だよ。ここからは本気で稼ぐから。」
俺がオリビアの頭を撫でると、不安そうな顔で見上げて来た。
「あの、…わたし、邪魔?…邪魔なら、出てくよ?わたし、1人でも大丈夫だよ?……痛っ!?」
子供の癖に変な遠慮しやがって。
俺はオリビアにデコピンして、初めて説教した。
「いいか?邪魔ならザガルタまで連れて来ないし、1人で外に出れないのに、大丈夫な訳ないだろ?次、同じ事を言ったらお尻ペンペンだ。」
すると、怒られたオリビアは子供らしい笑顔で目に涙を溜めて答える。
「うん、…うん!分かった!わたし、もう言わないよ!ぱ、ウルドと一緒にいるっ!」
これでこれからの方針は決まった。
せっかく笑顔を取り戻したんだから、この笑顔が続くように頑張らなきゃな。
その後、久々のマスターの料理を2人で楽しみ、俺達は早めに就寝して明日からの活動に備えた。




