2章.18 過去の面影
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「…トイレ、どこ?」
床で寝てた俺は、夜中に起こされていた。
「ふああっ、こっちだよ。一人で大丈夫だよね?」
「…うん。」
昨日から含めて、最初の会話がトイレどこ?って。
まぁ喋れる事が分かったから、元気になればそのうち普通に会話出来るようになるだろ。
宿は共同トイレなので、一応トイレの前で待っててやり部屋に戻った。
部屋に戻るとまた角に向かったので、俺もまたベッドに無理矢理入れて寝かせた。
「んじゃ、朝まで寝るからまた何かあったら起こしてね。おやすみー…。」
俺はまたベッドの横の床に寝て、意識がゆっくりと眠りに…。
「…ねぇ。」
今にも消えそうなか細い声で目が覚める。
気付いたら寝てたのか、俺は…。
最悪逃げ出されたらあの子が危ないので、すぐに連れ戻す為に魔力探知は常に発動していた。
「おはよう。何かあったのか?」
「……お腹、すいた。」
良かった。
取り敢えず、最悪の決断をしない様で良かった。
しかし油断は出来ない、あの壊れ方は衝動的に行動を起こしかねないからだ。
後は、俺が寄り添ってやれば少しずつでも治して行けるはず。
「分かった。今、朝食持ってくるから待っててくれる?」
俺が1階に行こうとすると、少女から震えた声が聞こえる。
「あ、ああ…!や、やぁっ…!行かないで…!」
まずいな。
フラッシュバックか。
俺は急いでベッドに戻り、少女を抱き抱える。
「ごめんね、もう大丈夫だ。置いて行ったりしないよ。朝ごはんを取りに行くだけだからね。それとも、一緒に食べに行くかい?」
ゆっくり、ゆっくり震えが収まって行く。
この子はきっと、俺より我慢強かったんだろう。
そしてその分、より深く傷ついたのだろう。
「……一緒に、行く。」
「よし、じゃあこれ被って一緒に取りに行こっか。」
俺は特徴的な耳を隠す様に少女に布を巻いて被せると、優しく抱き上げ扉を開けて今度こそ下の食堂兼酒場に向かった。
「おはようございます。すいません、朝食を部屋で食べても大丈夫ですか?流石にここで顔を出せないと思うので。」
流石にマスター達家族に迷惑をかけたくない。
そう思っていると、マスターは快く了承してくれた。
「気にすんな!まだ嬢ちゃんも起きたばっかりなんだろ?娘か母ちゃんに持って行かせるから安心しろよ!しっかし随分懐かれたな?」
これは懐いたんじゃなく、依存ですよ。
そう思ったが口には出さなかった。
その後、少女の朝食だけ先に持って部屋に戻る。
「よし、お腹空いてたろ?先に食べちゃっていいよ。それは君の朝ごはんだ。」
しかし、ご飯をじっと見つめて手を付けない。
思っているより重症だなこりゃ…。
俺は昨日と同じでスープとパンを一口食べて毒見をした後、少女の口にスプーンを運ぶ。
スープを飲んでくれたが、次の食事を雛鳥の様に口を開けて待っていた。
「1人でご飯を食べれる様にならなきゃなー。じゃなきゃ、この部屋から出られないぞ?」
「いい。出たくない。」
即答だった。
いや、俺は出たいんだよなぁ。
とにかくコミュニケーションは取れるようになったから、かなり楽になったな。
「まぁ、今はいいか。ほら、昨日は自分で食べれたよね?はい、見ててあげるから。」
そうして俺の朝ごはんを持って来てくれた娘さんと少女の朝ごはんが終わるのを見守り続けた。
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「さて、まず胸糞悪い首輪からだな。ほら、こっちおいで。」
俺が呼ぶと従順にこちらへ来た少女を抱き抱える。
「それじゃ始めるか。鑑定。」
隷属の首輪
精神支配の契約魔法が付与された首輪。
契約書を破る事で魔法を解く事が出来る。
「特殊な解除魔法とかじゃなくて良かったよ。こうでいいのかな?」
俺は躊躇いなく契約書を破り捨てると、ガシャンと音を立てて首輪が落ちた。
「よし、これで君はもう奴隷じゃないよ。俺と同じで自由だ。自由な者同士は名前で呼び合うんだけど君の名前を聞いてもいいかな?俺はウルドだ。」
少女は首輪が外れた事に戸惑っていたが、ゆっくりと少女は口を動かす。
「…オリ…ビア…。」
「オリビアか、良い名前じゃないか。じゃあオリビア、君はさっき言ったけど自由になった。だけどこれから生きるにはまだ幼過ぎる。もしオリビアが望むなら、一緒にザガルタの街に行きたい。どうかな?」
まだこの質問をするにも、ザガルタに帰るのも早いのは分かっている。
でも、このまま過保護に部屋の中で生き続けるのは檻が変わっただけなんだ。
俺はオリビアにも自由を楽しんでもらいたい。
生きて、自分の意思で自由を得て欲しい。
俺の様な形ではなく、ありのままの姿で。
すると、やはり不安なのだろう。
オリビアは今にも泣きそうな声で聞いて来た。
「…わたし、一緒に行っていいの…?魔物のご飯にしない…?途中で、いなくならない…?」
全てを否定され続けた少女が、そう簡単に他人を信用出来る筈がない。
再びオリビアを抱きしめる。
自然と抱きしめる手に力が入った。
俺にも寄り添ってくれる人間が爺ちゃん以外にいたら、変わっていたのかな。
いや、今は考えるのをよそう。
「オリビア、俺は君が独り立ちするまで一緒にいるよ。だから、一緒にザガルタに帰ろう。ザガルタまでは俺が絶対、君を守るから。」
俺の腕の中でオリビアが震えている。
宿の部屋ですら1人ではまだ出られない少女には、ハードルが高過ぎるだろう。
でも、踏み出さないといけないんだ。
「…こわい、こわいの…。外が、人の目が、全部怖いのっ!わたし、もうやなのぉっ…!」
わかる。いや、わかってしまう。
「解るよ。世界の全てが自分を否定している気がする気持ち。自分に向けられる視線は全て悪意のこもった物に感じてしまうのも。でも、みんながそうじゃないんだ。この宿の人達はどうだった?」
少しだけ、オリビアの震えが収まってきた。
「優しい目を、してた…。」
「だろ?それに、俺の知り合いはみんな優しくて良い人達ばかりだからな。次にここへ遊びに来る時に会わせてやりたいんだ。流石に今回は難しいけど、まだまだ時間はあるんだ。だって、俺達はエルフなんだから。」
そう言って、オリビアの震えが止まるまで俺は抱きしめ続けた。
まるで前世の自分を慰める様に、強く、優しく。




