1章.19 狩人
勢いだけでここまで来ましたが、次で20話って凄くないですか?
俺は頭を切り替える。
そう、これは狩りだ。
奴等はいつもの獲物と変わらない。これは狩りだ。
ふぅっと息を吸い込み止める。
洞窟内から武装した男達が無数に飛び出して来ては冒険者達に斬られ、魔法で焼かれ、切り裂かれる。
その光景が現実離れ過ぎて映画みたいだ。
俺は生きる為に戦う。
里でも外でもそれは変わらない。
なら、これは狩りと変わらない。
自分に暗示をかけるように繰り返す。
よし、狩りに行こうか。
瞬間、俺は洞窟に向かって駆け出す。
身体に風魔法を纏わせて速度を上げて駆ける。
「二人か。」
何も感じない。
冷静に矢筒から二本の矢を抜き取り、素早く構えて撃つ。
風魔法を纏い、凄まじい弾速の矢が眉間に突き刺さる。
命中を確認する前に再び弓を引き、もう一匹の獲物を狙い撃つ。
「ぐえっ」
潰れたカエルの様な声を発して二人同時に倒れた。
今は獲物の殲滅が目標ではないので、恐らく即死であろう獲物を確認せずにそのままに再び駆け出す。
潜入部隊はそれぞれ個人で動いている。
なので、自然とそれぞれ別ルートを捜索している。
「こっちは少ないな。まさか殆ど入り口に行ったのか?いや、流石にそこまで馬鹿じゃないか。」
楽観視はいけない。山では油断すればどんな人間も死ぬのだ。
大富豪だろうがスポーツ選手だろうが一般人だろうが関係ない。
平等に死ぬ。
多少の時間差はあるだろうが結果は一緒だ。
だから油断しない。
再び頭をクリアにする。魔力探知で気になる反応を見つけたのだ。
反応は弱く、この戦場で動かない。
となれば恐らく件の娘だろうと考えた。
ただ、もう一つ反応がすぐ側に感じ取れる。
「流石に罠だろうな。でも、関係ないか。」
先程から3匹追加で仕留めた。
しかし疲れもないし矢に余裕もある。
怪我もなく、魔力も殆ど減ってない。
冷静に自己分析する。
他に危険はあるだろうか?
「続行だ。」
再び魔力を込めて駆け出す。
この先の穴から反応がある。
ここからは慎重に行こう。
身体に纏った魔力を解き、更に深く沈む。
空気に溶けるように沈んでいく。
よし、進もう。
50mほど進むと声が入り口とは違い、奥から聞こえてくる。
「まだ片付かねぇのかッ!!この愚図共がぁッ!!」
ドガっと何かに八つ当たりしたのだろう音がする。
恐らく夜狼の頭だろう。
身体付きを見るに、近接職だな。
「鑑定。」
俺は夜狼の頭に鑑定をかける。
今回は実験だ。こいつにバレたとしても負けない。
最悪逃げれば良いのだ。生きてりゃ勝ちよ。
なら、隠密状態で鑑定を使えばバレるのか?
恐らく、魔力探知が俺レベルにはバレる。
だが、それ以下ならどうだ?その実験だ。
上手く行けば完封出来る。
【名前】ガラン
【性別】男
【年齢】38
【レベル】31
【スキル】戦斧術Lv5 狂戦士Lv7 罠察知Lv3
【称号】逃亡奴隷 犯罪者 殺人犯 強盗犯 指名手配
こいつ終わってるわ。
狂戦士ってのが怖いし、早いとこ捕まった娘さんを助けなきゃな。
しかし、こんだけ強けりゃ冒険者で生きれただろ。
まぁいっか。
俺は弓を構えて狙いを定める。
外さない、外れない、俺の弓術スキルのおかげだ。
「糞がッ!!おい糞餓鬼!テメェは人質だッ!こっちに来やがれッ!!」
男が檻に近づく。まずい、今出されると狩りの邪魔になる。
「嫌っ!嫌ぁっ!来ないで!助けてよぉ!」
少女の悲痛な叫びが聞こえる。
やめてくれ。怒りはダメだ。
殺気が漏れてしまう。
「五月蝿えッ!!大人しくしろ!!チッ。入り口はダメだな。糞が糞が糞がッ!!せっかく集めた兵隊共なのにまた一からじゃねぇか!」
「来ないで!やだっ!嫌なのっ!助けてぇっ!」
一瞬、そう一瞬だ。
殺気が漏れた。
「あ?」
ガランが振り返る。
気付かれた。
頭で理解した瞬間、最大限魔力を込めて矢を放つ。
しかしガランはレベルの高さと瞬時の判断で狂戦士のスキルを発動させた。
「ぐわあッ!!?」
ガランは咄嗟の判断で戦斧で防ぐ。
しかし、相当な魔力を込めた矢の威力を相殺出来ず戦斧の方が負け、後ろに弾き飛ばされそうになるのを何とか堪えた。
ただ、作った隙が大き過ぎた。
魔弓術。つい最近覚えたスキル。
弓に矢を番えずに弦を引く。
魔力が集まり、まるで光の矢のようだ。
先程とは違い、狙いは胴体。
通常の矢と違うので外す可能性を考慮した結果、的を大きくして、その分威力を高める。
「行け。」
狙いを定め弦を離すと、ゴウッと弓とは思えない音を出し、光の矢が放たれた。
エルフ特製の弓だったが、魔力の塊のような一撃を放った瞬間崩壊する。
そしてそれを放り投げ、瞬間駆け出す。
一方ガランはそれどころではなかった。
目の前の状況を理解出来ない。
殺気を感じたかと思えば、戦斧が弾かれるほどの威力の矢を放ち、更に今度はよくわからん光の矢だ。
「なッ!?」
無理だ、避けられない。
光の矢はガランの腹部を大きく貫き、文字通りの風穴を開ける。
「ゴバァッ!!」
痛みを感じ、血反吐を吐いて実感する。
これは現実だ。
そしてこれは、致命傷だ。
そう理解して目線を上げる。
一瞬、金髪の若者が視界に入ったかと思ったが、すぐに意識は闇に包まれた。
駆け出した俺は、そのまま致命傷を受けたガランに突撃し、剣を振る。
深く沈んだ今は何も感じない。
ただ、確実に狩るだけだ。
そして、すれ違った瞬間、ガランの首が飛んだ。
「ふう…ふう…。」
気持ちを落ち着かせる。
まだ油断は出来ない、ここはまだ相手の縄張りだ。
警戒は解かずに素早くガランの身体を探る。
そして、鍵を見つけ檻に近づく。
「嫌だぁっ!殺さないでっ!!」
目の前で人を斬った奴が近づくのだ。
例え自分に害でしかないガランだとしても、彼女がパニックになるのも無理はない。
俺は鍵を開けると、なるべく安心させる様に言葉を選び話しかける。
「俺はエルフの里のウルドといいます。貴女のお父様、パゴダさんの依頼で助けに来ました。外には大勢の冒険者もいるのでご安心ください。」
俺はなるべく優しい笑顔を作り、右手を彼女へと差し出す。
「助け…?パパが……?本当ですか?また、別の野盗とかじゃ……」
完全に怯え切っていたからか、流石にすぐには信用されないようだ。
「近くにエルフの里がある森が広がってるのをご存知ですか?貴方のお父様を偶然、我々が発見したんですよ。そして里の近くにアジトがある事が発覚したんで、ザガルタの街と協力して助けに来ました。
もし、途中で信用出来ないのなら後ろから刺していただいて構いません。さぁ、脱出しましょう。」
俺は解体用のナイフを鞘に入れたまま手渡し、強引におんぶをして駆け出した。
「ちょっ!?は、速いです!速すぎます!」
ギュッとナイフを掴んでいる彼女は、初めて体感するスピードの恐怖からか、強く後ろから抱き付いてくる。く、首が締まる…
「お嬢さんごめんなさい、もし俺を信用してもらえていたら、もう少しだけ緩めてもらってもいいですか?このままじゃ入り口まで着く前に窒息しそうです。」
俺が決死の覚悟で声をかけると、すいませんすいません!と連呼しながら首が緩まった。
何とか一命を取り留めたな。
そして俺達は入り口に向かって再び全速力で駆け出した。
次回、20話!
まだまだ頑張ります!




