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第64話:キミのための戦い(阿部康平サイド)②

挿絵(By みてみん)

表紙:武頼庵(藤谷K介)さん


挿絵(By みてみん)

かぶちゃん(影山蕪太郎):コロンさん

「対象は、埠頭にある灯台の側に座り込んでるようです」


 大宮からJ市に引き返した神源寺(じんげんじ)は、東京から遅れて到着した見口(みぐち)と合流し、新幹線駅側の喫茶店に腰を据えた。


「君、昨日も夜遅くまで事後処理してたでしょ? そんで早朝に東京に戻って、またこっちとは――大変だねぇ」


「仕方ないっすよ。これだって、ツキヒの件の事後処理みたいなもんです」


「ご苦労様。このコーヒー奢るね」


 最強の霊能者と謳われる神源寺と、一般協会員の見口。圧倒的な階級差にしてはささやかな()()に、見口は深々と頭を下げた。


「現在18時15分時点で、対象に一切の動きは見られないようです。海沿いの地面に座り込んで、放心したように海を眺めているとの事」


 見口は関係者から送られてきたズーム写真をスマホに表示し、神源寺に見せる。


「影山蕪太郎……ちゃん。たしかに昨日会った時はなにかしら『憑いてる』感じはあったけど、こんな強力なやつじゃなかったはずだがね?」


「今日一日で、何かあったんでしょう。ったく、面倒くせぇガキ……」


 疲れ顔の見口は、ついつい本音をこぼしてしまう。


「被害は、出てないの?」


「今は関連組織内の協会員と連携して、埠頭全体を立ち入り禁止にしています。対象も全く動く様子がないため、特に被害は出ていませんが――」そこで見口は神源寺を見る。「対象から溢れ出る『漆黒のオーラ』は、一触即発な様相を呈している、って報告をくれた協会員は言ってました。破裂寸前の風船みたいな」


 見口は霊を感知する能力はない。伝聞をそのまま話すと、神源寺はコーヒーを一口飲んでから頷いた。


「だろうね。もし破裂したら、この町全てを破壊し尽くすほどの潜在的なエネルギーを、ここにいたってビンビン感じるよ」


「やれます?」


「やるしかないでしょ? アレを相手できるの、多分協会でも私だけだよ」


「近隣の協会員や、非会員の霊能力者も、集めようと思えば集められますが――」


「中途半端は逆に邪魔になるんだよなぁ。あー、あの子は? 昨日も来てた、背のちっちゃい西洋魔術の子。協会員じゃないけど、かわいいよねぇ」


「ああ、三浦サンですか? 彼女は基礎値は高いのですが、能力の癖が強いというか……。サポートとしては不向きかと」


「どゆこと?」


「性質上、魔法を『他者』に対して使用できないらしいです。出来るのは身体強化とか、他者に影響ない範囲で時間を操作したり――」


「へー、すごいじゃん」


「でも、あくまでも他者に影響ない範囲で、らしいです。そういう魔術系統なんでしょうけど、難儀なもんですね」


「それじゃ、役に立たないね」


「まあ、はい」


 召集をかけなくても、勝手に首を突っ込んでくるだろうけどね――そんな事を見口は考える。


 現に見口のスマホには、事が起きた直後に三浦ハナから連絡があった。昨日のツキヒ捕獲作戦で影山蕪太郎を器として使用した件を散々なじられて、今度は余計な手出しをするなと釘を刺された。


 そうは言われても、危険な悪霊を放置したとあっては協会の信用にも関わるし、ひいては自分の評価の低下にもつながる。

 だから見口はいつもの手続きに則り、悪霊の情報を上長に伝え、派遣する霊能力者の指示を仰ぎ、結果として神源寺が呼び戻される事になった。


「一人で行くよ。邪魔されたら面倒だからな」


「かしこまりました」


「道具は、まだこっちの支部に置いてあるよね?」


「はい」


「ツキヒ対策で郵送してた術具が、こんな形で役に立つとはね。多分、色々使っちゃうと思うけど、そのへんは君の上司の上田くんに上手く言っといて」


「はい」


「それじゃ、さっさとぶちのめして東京に帰るわ。明日は会食の予定があるんだよね」


 神源寺は立ち上がった。

 スケベオヤジのような普段のだらしない垂れ目が、鋭く研ぎ澄まされている。

 神源寺の力は本物だ。こと悪霊退治に対しては、正攻法も搦め手も状況に応じて使い分ける、熟練した強さを持っている。


 18時30分。


 神源寺と見口は喫茶店を出た。


 外はまだうっすらと明るいが、じきに夜が来るだろう。



   *   *   *



 20時15分。


 全ての支度を終えた神源寺は、影山蕪太郎がいる埠頭に向かって歩いていた。


 ツキヒ封印の儀式で着用していた白装束ではなく、動きやすさを追求した白い作務衣姿だ。

 腰には装飾が施された霊験あらたかな日本刀を携え、左手では長尺の錫杖をシャラシャラと鳴らしている。そんな出立ちに不釣り合いなボディバッグの中には、大量に詰め込まれた術具達。


 宵闇、視界は悪い。


 しかし神源寺の第六感は、この先に佇んでいる強大な鬼の姿をはっきりと捉えていた。


 そして――

 

「子供が、こんな時間にこんな場所で――親御さんが心配するだろうが」


 街灯の下、神源寺の視覚器官としての目が、アスファルトの地面に座り込む小さな女の子を認識した。

 黒い制服と黒い髪の中に、死人のような青白い顔が浮かんでいる。その大きな目はあまりにも虚ろだった。おそらく、この世界の全ての事象を視認していない。視認することを、拒絶している。


 そんな少女の背後には、巨大な鬼のビジョン。


 銀髪を振り乱し、鋭い牙を剥き出しにして、眼前の神源寺を睨みつけていた。


「私にもね、娘がいるんだ。娘が君くらいの頃は、酷い反抗期でね……、親に心配ばかりかけたものさ」


 神源寺は鬼を睨み返し、淡々と言葉を続ける。


「『親の心子知らず』とはよく言ったもんさ。君達子供は、好き勝手わがままを言ってるクセに、都合が悪くなるとすぐいじけて、大人の関心を引こうとする。どうせ君も、そんなところだろ?」


 神源寺は左手の錫杖を地面に突き立てた。半球状の結界が、錫杖を中心にして広がっていく。

 本気の除霊を執り行う時、神源寺はこの結界を使う事にしている。護るための結界ではない。除霊対象の逃亡を防ぐための結界だ。

 

「そんな甘ったれたメスガキは、一度痛い目に合わせなきゃならん――」


 神源寺の口元が卑猥に歪む。


 左手を鞘に沿わせ、親指を鍔に当てる。右手は柄を握り、腰を落として抜刀術の体勢。「(はっ)(しょう)(どう)……」そう唱えると、鞘の隙間から青白い光が漏れた。

 神源寺が悪霊との直接対決の際に愛用している妖刀だ。今までも幾度となく、悪霊の首を落としてきた。


「発、掌、導……発、掌、導……」


 唱えるたびに、漏れる光はその強さを増していく。


 そして――

 

「発!!」


 ――抜刀!


 迸る光の斬撃は、銀髪の鬼の首元めがけて伸びた。


 だが、


 斬撃は、構えた鬼の拳に遮られ、止まった。


 刃筋が立っていた手応えはある。しかし、銀髪の鬼には傷一つ付いていない。

 

 その瞬間、神源寺は自身の驕りを痛感した。


 鬼の拳が繰り出される。


 その拳を神源寺は刀で受けるが、鬼の怪力を受け流すことも出来ず、後方に弾き飛ばされた。


 結界にぶつかり、地面に転がる。


 まずいぞ、これは、まずい…… 。


 このたった一度の応酬で、神源寺の戦意は完全に消え失せた。

 長年培ってきた自慢の()()は、今は単なる警報器へと成り下がり、退避のサイレンを鳴らし続けている。


 この鬼は霊体にも関わらず、人体――物質への干渉力が高すぎる。あれだけ巨大な体躯にも関わらず、練られた霊力の密度の桁が違う。まるで鉄球をぶつけられたかのような衝撃だった。

 ある程度は想定はしていた。

 していたが……。 

 百戦錬磨の神源寺だったが、これほど強大な陰の力を纏う悪霊など、今まで出会った事がなかった。

 

 一体どれだけの絶望を味わえば、ここまでの――


 神源寺の背筋に悪寒が走る。

 

 少女は膝を抱えたまま、アスファルトに座っていた。空洞のような目は底知れない闇を湛えている。


 神源寺は、その闇の深さに恐怖した。

 

 震える足に力を込めて、ゆっくりと起き上がり、刀を構える。

 相手を閉じ込め嬲るために作った結界は、もはや自分を捕える牢獄に変わっていた。錫杖を引き抜いて牢獄の鍵を開けなければ、こちらが嬲り殺しにされるだろう。

 錫杖までは10メートル程度。しかしそこまでの一挙手一投足を、この鬼は許してくれるのだろうか。


 一歩踏み出し――


 思考が再び赤く染まる。


 鬼の右腕が横薙ぎに払われ、最強の霊能力者だった男は再び宙に舞った。


 ボディバッグのファスナーが壊れ、中に詰め込んでいた術具が辺りに散らばる。

 再び地面を転がった神源寺は、手元に転がっていた数珠を拾い上げ、刀を握る右腕に巻き付けた。そうしなければ、恐怖で震える手から刀が転がり落ちてしまう。

 唯一の救いの糸であるかのように、刀の柄を必死で握りしめた。しかしその愛用の術具に、今この場面でどれほどの価値があるのか、もはや神源寺にはわからない。


 銀髪の鬼は咆哮した。


 涙すら流せない主人の代わりに、全ての感情を解き放つような、鬼気迫る叫びだった。


 その気迫で、神源寺の痩せ細った気概は完全に抜け落ちた。


「見口! 本当は見てるんだろう!? 早く私を助けろ!!」唾を撒き散らしながら神源寺は叫んだ。「誰でもいい! ここに協会の奴を連れてこい! 早くしろ! 見口!!」


 返事はない。

 それも当然だ。加虐行為の隠蔽を目的に、完全に人払いをしていたのは、神源寺自身なのだから。


「見口! 見口――」


 この場所に、まともな者はいない。


 心を壊した少女と、


 その陰の気を体現する鬼と、


 鬼の恐怖で気が触れた哀れな男――


「うわあああああああああああああ!」


 神源寺は少女に背を向けて走り出す。

 そして、前方の結界に頭から突っ込み、意識を失い、地面に転がった。


 最強の霊能力者による除霊は、股間から滴る塩水で、埠頭を濡らしただけで終わった――


 銀髪の鬼は、地面に突き刺さった錫杖を抜き取り、海へと放り投げる。


 そして、何事もなかったかのように少女の背後に立ち、夜の日本海へと視線を向けた。

 

お読みいただきありがとうございます(*´Д`*)


神源寺の『はっしょーどー』って言葉は、息子がなんか言ってたやつがそれっぽかったので採用しました。宗教的な裏付けとかなんもないです。基本それっぽさで書いてます。元々ノリで書き始めたお話なので……。


ちょっとノリで『陰キャ登場人物強さティア表』を作ってみました!!

 ↓


【S+】ツキヒ、銀髪の鬼(蕪太郎絶望ver)


【S】銀髪の鬼(初期ムキムキver)、神源寺


【A】銀髪の鬼(二期お姉さんver)、オタ霊、影山月子(百々月子)


【B】リュウジ(初期ムシキングver)、十八街道神隠しお父さん、見口


【C】三浦ハナ、百々道子、キミコさん、赤塚さん、民宿のキモい地縛霊、リュウジ(二期小型化ver)


【D】影山陽一郎(ナメクジver)、銀髪の鬼(三期少女ver)、幽霊女子4人


【E】松原ニコリ


【F】影山蕪太郎、阿部康平、影山陽一郎

 

抜けてる奴いそう……。

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― 新着の感想 ―
(>▽<) (>▽<) (>▽<) こんなヤツほんとにリアルでいるんだ。。笑 この時代に。。。 Ajuが若い頃にはいましたけどね。この手合い。。
ざまあ。。 ダメおじさんの典型。 やられて当然。 こんなのに頼ってる「協会」もポンコツ。。。
やれやれ。 あんた渋川剛気よりも技術が下でしょ絶対。 危機察知能力が反応するの遅いって。 ていうか娘いてそれ言うか。 そこまでデリケートな娘さんじゃなかったのかな? ていうかプロなら事前に何があ…
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