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魔法でよくね?  作者: 富士見の娘
紫烏と研究者編
45/54

決着と落雷

-第45説 決着と落雷-


橙の光を全面に受けて不気味に照る鎧は、その腕に抱えていた、筋肉質な巨人の左腕(さわん)を炎の中に放り投げた。


既にダバアの笑顔は消えている。


彼がまともに操れるのはもう、この二首ゾンビしかいない。


ゾンビはダバアが何度が鎖を鳴らすと、鎧に対して、残った右手を叩きつけた。


だが、力の差は歴然だ。


鎧は軽々とその手を片手で受け止めると、掌から炎を放つ。


ダバアはたまらず、懐から取り出した針を化け物の左腕がついていた場所に投げ、突き刺すと、詠唱し、腕を回復させる。ここからは防戦一方になると悟っているのだろう。


(うわぁ、なんか俺の出る幕ない感じ? )


選也はそんな様子を紫烏の背後から覗いて、なんとなく動けずにいた。


自分が出なくて終わるなら、それはそれでいい。むしろ、そうであってくれれば、このぼろぼろの状態で戦わずに済む、こちらとしては好都合だ。


(でも、あれ。いちよう生きてるって主張で登場しとくのは必要だよな。)


選也は壊れかけの紫烏の背に乗ると、怪物の口から脱出する。


「おーい、悠斗! 俺、いらなそう? 」


鎧は選也の声に反応して、直ぐに振り向くと、似つかわしくない、泣きそうな声を発した。


「選也、さん? 本当に、生きて……。」


表情は見えないが、仮面の下はきっと涙目だろう。選也は慰めるように、明るい言葉をかける。


「ああ、生きてるよ。なんか大分やられたけど、全然平気! 必要そうなら手伝うけど。」


悠斗は襲ってくる巨人の足に飛び乗って、大剣を突き刺しながら答えた。


「いえ、大丈夫です! 僕が片付けますから、選也さんは休んでて下さい。」


実際、問題はなさそうに見える。

選也は一つため息を漏らすと、表情を笑顔に戻して頷いた。


「分かった。助かるよ。」


見れば、口から抜け出した紫烏は、すっかり元の状態に戻っている。


(まぁ、こいつはまだ余力がありそうだけど。必要以上に酷使したくないし。)


ここからは高見の見物。

とりあえず状況把握だけはしておきたいが、それ以上は必要ないだろう。


選也は幾分安堵して、二人の戦況を見守ろうとしたのだが、そうもいかないらしいことに、すぐに気づいてしまう。


(でも、あれ? これって。)


戦況は何故か硬直している。


戦闘能力で明らかに勝っている筈の悠斗は攻め続けているが、全て二首に防がれており、ダバアは回復に専念。


(これって完全に泥仕合じゃね? )


目に見えて、このままでは、戦いが長引くと分かった。長引けばどうみても、向こうが有利になってしまう。


(やっぱ、見物とはいかないか。)


選也には打開策が見えている。

ここは動くしかない。


(あー、やだなぁ。)


痛みを振り切って、選也は紫烏と共に、ダバアに突撃した。


当然紫烏は、巨人に通常とはかけ離れた、恐ろしい速度で妨害される。


「選也さん、なにやってるんですか! 」


はた目には奇行にしか見えない選也の行動を、悠斗は慌てて制止した。ダバアもまさか来るとは思わなかったのか唖然としている。


しかし、選也には十分な意図があった。


(やっぱり、どんな《魔法》も無意味ってそういう意味だよな。)


選也は烏から飛び降りると、走ってダバアに接近する。


ダバアはそれを見て大笑いした。


「あはっ! 君のお友達、大丈夫ぅ? 頭がくるくるになっちゃったのかなぁ? 」


悠斗も止めに入ろうと、何度も剣を振り回す。


選也はそんな二人を無視して、そのままダバアの目前まで来ると、拳を構え。


「いいか、歯食いしばれよ? 」


そして、顔を殴った。


「ぐふっ?! 」


大きく体勢を崩すダバア。

刹那にこんな言葉を口にする。


「な、んで、反応しな………。」


選也は解答代わりにもう一発、今度は腹に拳を叩き込む。


なにも魔法を使っていない、完全な素殴り。《魔法》に反応する人形が、反応するわけがない。


「よくも今まで散々追い回してくれたな。さて、フィニッシュだ。これぞ弓道部長直伝………。」


選也は息を大きく吸い込むと、渾身の蹴りをダバアの横腹に叩き込んだ。


「立てつけ解決蹴りっ! 」


流石は、数々の空かずの部屋を開拓してきた、究極奥義の威力。

簡単にダバアを失神させる。


ダバアが倒れると共に、動いていたゾンビたちも、どろりと溶け落ちた。


(あ、都市について聞いとくんだった。まぁ、後でいいか。)


戦闘終了である。


駆け寄ってくる悠斗に、選也はひらひらと手を振って、言葉をかけた。


「悠斗、ストーカー退治終わったぞ。」


悠斗はそんな選也の冗談にぎこちない笑顔を返しながら、返答する。


「ええと、ストーカー………? そう、ですね。 ありがとうございます。」


どうやら、冗談は通じないらしい。

仕方がないので選也は、さっきの言葉は忘れてくれと、自分の黒歴史を抹消してから、話を戻そうとしたのだが。


それは雷鳴に遮られてしまう。


「ん、雷………? 」


選也はその音に違和感を覚えた。

当然だ、その雷鳴はあまりに近い。


思わず、振り返った。


「………!? 」


しかし、そこには、なにも無い。

ダバアの身体さえも。


「なにが、あったんだよ………。」


直後、気配。

それは学校の屋上にあった。


黒い人影、距離と暗さのせいで、男か女かさえも分からないが、確かにそこにいる。


選也は紫烏に飛び乗って直ぐに追いかけたがもう遅い。

人影は選也と悠斗を一瞥すると、すぐに死角に消えていった。


「くそっ、やられた。」


屋上には誰もいない。


悠斗も魔法床を幾つも産み出して直ぐに屋上についてきた。悠斗は言う。


「選也さん、やめてください。《賢者》は他の奴らとは違う、特にあれは。」


この言葉の意味は分かっている。

まぁ、予想はしていた。

しかし、言われて簡単に引き下がる選也ではない、申し訳程度に頷いて、頭の中では別の考えを巡らせる。


(《賢者》、か。前に会ったトラバは、水害の原因を知っている風だった。やっぱり、あいつらに接触するしかない。)


そこに、電話。


「あれ? 誰だろ? 」


発信元は母だった。

母は『選ちゃん、なにかあったの? ちゃんと帰れる? 』と心配そうに電話の先にいる息子に語りかける。


選也はそこでようやく出掛ける前にした約束を思い出して、赤面した。


(ミスったぁ! こんなことしてる場合じゃないじゃん。)


それから、迎えに行こうかと提案する母をなんやかんや説得し、ようやく自分で帰る権利を獲得、隣の悠斗に謝る。


「ごめん、悠斗。俺、帰らないと。」


すると悠斗は選也の両親よろしく、心配そうに聞く。


「なにか、大切な用事があったんじゃ? 大丈夫なんですか………? 」


選也はそれにありのままの解答をするのは何だか恥ずかしくて、嘘をついた。


「ええと、そうじゃないけど。テストの赤点地獄にはまってる親友を、補習の海から掬い上げないといけないから、その準備をね。」


悠斗は選也の回答に特に疑問を持つことなく、それに頷き、


「そうなんですか、大変ですね。」


それから、思い付いたように携帯を取り出すと、その中に挿入されていたマイクロSDを、選也に手渡す。


「あの、だったらこれ、使ってください。電子化した魔道書です。きっとテストの役に立ちますから。」


選也はそれを眺めながら、聞いた。


「これって、書籍化してるやつとは違うやつ? 《猿でも分かる》と《魔法指導書》っていうのはもう読んだんだけど。」


悠斗はそれを聞くと、少し得意気にこんな答えを返してくる。


「そうなんですか? 《猿でも》はしっかり基礎が押さえられてるし、いい本ですよね。でも、そのSDに入ってる、僕の両親が作った魔道書もそれに負けていません。絶対役に立ちます。」


随分、饒舌だ。


選也はなんだか悠斗と打ち解けられたような気がして「なら期待しちゃおうかな。ありがとう。」と、笑顔でポケットにそれを納めると、悠斗に別れを告げて、烏に飛び乗る。


烏を見送る悠斗は、選也から見えなくなるまで手を振っていた。


※


ひどく壊れた校舎を、事件性を疑った警官たちが取り囲んでいる。


彼らは、「酷いもんだ、一体誰がやったんだろうな。」とか「学生を標的にした卑劣な犯行だ、絶対に犯人を捕まえてやる。」とか正義感に溢れる言葉を交わしながら、捜査を進めていた。


しかし、そこに綺麗に制服を着こなした、一人の男が現れると事態は一変する。


男は言った。


「災害が原因だ。調査の必要ない。」


すると、あろうことか誰もが先程まで口にしていた疑問を失い、「そうか」と納得する。誰もが、だ。


それがおかしいと思う人間さえもいない。


一瞬にして、

「これは災害、犯人はいない」

という考えこそが、ここの正当であり、正義になった。


※


つづく。

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