警官の呼び出し
-第46説 警官の呼び出し-
午前7時、すっかり雪の無くなった通学路を、選也は携帯をいじりながら、上機嫌に歩いていた。
「ああ、最高だ! 」
悠斗がくれた魔道書には派手ではないが、役に立つ魔法ばかり書かれている。水の浄化、植物の成長、雨避け、傷の治療、書籍の簡易コピー…………。
勿論、今回の目的に利用できそうな、《知識譲渡の魔法》なんてのもある。
これでもう秀真の追試の心配も、雨の日の傘忘れの心配もない。
選也は些か興奮していた。
しかし、あまり調子に乗ると録なことにならないのは何処の世界も同じ、選也は携帯に熱中するあまり、人とぶつかり、その拍子に、携帯を落としてしまう。
コンクリートと金属がぶつかる乾いた音、選也は慌てて尻餅をついた相手に謝罪した。
「ごめん、大丈夫? 」
今心配すべきは、携帯よりも、自分の不注意で転ばせてしまった、彼女のほうである。
ぶつかった相手は、茶髪ショートの快活そうな女の子で、見慣れない制服を着ている、知らない子だ。
彼女は不機嫌そうに口をへの字に曲げると、大きな声で選也を怒鳴る。
「大丈夫なわけないでしょ! どこ見て歩いてんの! 」
彼女の指摘に、選也は返す言葉もない。
だから、言い訳はせずに、今度は頭を下げて謝った。
「本当にごめん。」
すると、彼女の方も不要に続けることはせず、
「こっちこそ言い過ぎた、ごめん。」
と意外にも大人の対応。
どうやらこれで話は済んだらしい。
選也は歩き出した彼女にもう一度頭を下げてから、携帯を拾って、自分の学校へと足を向けた。
※
ホームルーム、一限、二限………。
夏休み前の授業は淡々と過ぎる。
やることは殆んど無いし、生徒も教師も暇なのだろう。
昼休みは直ぐに来た。
「秀真、明日は俺の家にこいよ。」
選也が授業から寝ていたであろう、怠け者を揺り起こすと、彼は選也に少し嫌そうな目を向ける。
「また、勉強の話かよ。嫌だって言ってるだろ。俺には俺のやり方があるんだから放っておいてくれ。」
相変わらずの態度、選也はため息をついた。
「いや、放っておいたら絶対赤点だよ。勉強する気ないじゃん。」
「まぁ、そうだけどさ。」
もう何度目か分からない、いつものやり取り。勿論、行き着く先も同じで、結局、なんだかんだゴネた後、秀真は折れてくれる。
「大丈夫さ、今度は魔法がある。」
選也は落ち込む秀真を笑って、昼を食べに行こうと誘った。
しかし、それは叶わない。
直後に鳴り響いたのは、休み時間を終わりを告げる鐘。
「え? 」
選也は混乱した。
まだ時間は昼休み中、鐘が鳴るなんておかしい。
「これって、チャイムの故障? 」
選也は秀真に聞いた。
すると秀真は、きょとんとした顔で選也の目を見返すと、意外な答えを言う。
「え、なんで? いつも通りじゃん。」
いや、秀真だけではない。
誰一人疑問をもたず、着席し始めているではないか。
「俺が………おかしいのかな。」
廊下に出て、他のクラスを覗き込んだがそちらも同じ、皆、当たり前のように席についている。
どうみても、異常なのは自分の方だと思わざるを得ない状況。まだ納得がいかないながらも、選也は諦めて、教室に戻ることにした。
しかし、とりあえず教室に戻ろうとした時、教師に呼び止められる。
「狭間くん、ちょっときてくれ。」
選也は教師の言葉に冷や汗を流した。
怒られるかもしれないと思ったからだ。
「すみません、直ぐに教室に戻りますから、罰則は勘弁して下さい。」
教師は選也の言葉を聞くと、大きく首を振る。
「いや、別に私は君を注意しにきたんじゃないよ。会いたいと言っている人がいるから、職員入り口まで行って欲しいんだ。」
その目に嘘は感じない。
選也は不思議に思いながらも、教師に逆らうのは良くないと、彼の後をついていった。
まさか、そこで待っていた警官姿の男に、こんなことを言われるとは思わずに。
「狭間選也、署まで来て貰おうか。」
つづく。




